第72回 コンピュサーブが変身中!(1997年3月号)

●コンピュサーブ、冬眠からめざめる

 ニフティサーブの元祖ともいえるコンピュサーブが、この2年ほど元気がなく、まるで冬眠しているような状態になっていた。インターネットの隆盛、そして後発の商用オンラインサービス「アメリカ・オンライン(AOL)」との会員獲得競争で敗れ、ついには大きな赤字を計上するに至ったことが元気のない原因だった。

 コンピュサーブのライバルAOLは、マウスだけで操作できるGUI通信ソフトやインターネットとのリンクを売り物にし、派手なテレビCM作戦でパソコン通信の世界に大衆化をもたらしてきた。コンピュサーブも老舗の看板を守ろうとAOLに対抗してGUI通信ソフト「CIM」の改良を続け、インターネットとのリンクを強化するためにホームページブラウザーMosaicの権利を持つSPRY社を買収。CIMにMosaicを同梱し、さらにファミリーユースを対象にした「WOW!」という新しいオンラインサービスをスタートさせた。

 しかし、インターネットのブラウザー市場は、すでにNetscapeが制覇し、マイクロソフトのInternet ExplorerがNetscapeに挑んでいる時代に突入していた。Mosaicは時代遅れになってしまったのだ。

 鳴りもの入りでスタートしたWOW!も、会員獲得が伸びずにコンピュサーブは苦戦を続け、親会社はコンピコサーブを上場して分離独立させることになった。

 そんな景気の悪い話題ばかりが流れるなか、コンピュサーブは昨年の9月に新GUI通信ソフト「CompuServe 3.0」をリリースした。これは従来のHMIという独自プロトコルに、インターネットのTCP/IPプロトコルを組み合わせたもの。マイクロソフトのInternet Explorerが最初から組み込まれており、マウスのクリックひとつでコンピュサーブとインターネットのホームページの世界を自在に往復できるようになった。

 CompuServe 3.0の発表と同時にコンピュサーブは、従来「CompuServe Information Service(CIS)」と呼んでいたオンラインサービスの名称を「CompuServe Interactive(CSI)」と改め、昨年末には会員獲得が思わしくなかったWOW!を、たった1年で閉鎖することにした。

 これは家庭向けマーケットからの撤退という意味でもあった。コンピュサーブはAOLとの会員獲得競争から事実上撤退したことになり、コンピュサーブがAOLに敗れたと報じる記事もあった。ところがコンピュサーブの会員のなかには、コンピュサーブの方針転換を歓迎する声も多いのだ。

●量から質の時代へ

 昨年末、AOLは月間固定料金制度を導入し、これで再び会員数を増大させている。アメリカのメディアの報道のなかには、コンピュサーブが生き残るためには固定料金制度を導入すべきだというものもあったが、コンピュサーブは従量制料金を維持することを言明している。

 コンピュサーブはAOLとの大衆ネットワーク戦争には負けたが、コンテンツの検索性のよさなどでは、ビジネス雑誌の調査でも、依然としてナンバーワンの折り紙をつけられている。コンピュサーブは大衆化路線を捨てる代わりに、「ビジネスプロフェッション」路線を強化すると発表しているが、なかでもSOHO(Small Office, Home Office)ビジネス向けのサービスをふやすとのこと。コンピュサーブのユーザーにはビジネスマン、とりわけ経営者、中間管理職、個人事業者などが多いことから、このような決定になったらしい。

 そして、インターネットが全盛のいま、あらためて見直されているのがコンピュサーブのフォーラムにおけるコミユニケーションの機能である。インターネットにもニューズグループやメーリングリストがあり、ホームページにも掲示板機能を持つものがふえているが、コンピュサーブのフォーラムは、テーマに関連したプロや専門家、経験者がSYSOPやスタッフによって運営されており、密度の濃い情報交換が行われていることで知られている。

「コンピュサーブのフォーラムは管理体制がしっかりしているから安心して使える」という会員も多い。大半のフォーラムでは「リアルネーム」の使用を求めており、個人や企業などに対する誹謗中傷の発言などについても厳しいチェックが入ること、そして会員の年齢層が高いことなどが、安心感につながっているのだろう。

 ニフティサーブも間もなく満10年を迎えるが、当初の「日本版コンピュサーブ」という売り文句はどこかに消え、いまではすっかり独自路線を歩んでいる。コンピュサーブにもない独自開発のサービスもふえ、会員も増加する一方だが、フォーラムをのぞく限りでは、楽しみや息抜きのためにニフティサーブを利用している人が多いように見える。

 ハンドルの使用が許可されているフォーラムが多いため、気楽に使えるという印象があるのだろう。同時に、管理体制のしっかりした日本の社会システムの生活からのがれられる場所になっているのかもしれない。個人の生活では管理されることをきらうアメリカ人のコンピュサーブ・ユーザーのなかに、「安心できる」ことを理由に管理が行き届いているフォーラムを望む人が多いのとは正反対だ。

 自由を求める日本のフォーラムと、安心を求めるアメリカのフォーラム。日米のフォーラムを見ていると、両国の社会の姿が透けて見えてくる。


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すがやみつるのただいまアクセス中!

パソコン通信ニフティサーブの会員向け雑誌「OnlineTodayJapan(OLTJ)」「NIFTY-ServeMagazine」に,1991年から99年にかけて96回にわたって連載した『すがやみつるのただいまアクセス中」というエッセイの再録です。
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