第1章 コミカライズ前史

 1 コミカライズは、いつ始まったのか?

 マンガを原作にした映画、テレビドラマ、アニメ、ゲームの数は、あまりにも多すぎて、個人の力では数えることなどできそうにありません。まさに、枚挙に暇{いとま}がないほどに、多くのマンガが、映画やドラマ、アニメ、ゲームといった別メディアの作品に生まれ変わっています。
 そんなマンガは、コンテンツの生みの親ということで、マザーコンテンツと呼ばれたこともあります。あるいは、コンテンツの中核ということで、コアコンテンツと称されたこともありました。ただし、どちらの用語も、いまだに定着した気配はありません。
 ちなみに欧米の映画業界では、小説や戯曲などの原作を映画化、アニメ化することを「アダプテーション(adaptation)」と呼んでいます。その轍を踏めば、小説や戯曲のマンガ化も、アダプテーションのうちに含まれるはずです。
 でも、現在の日本では、マンガ研究の分野以外でアダプテーションという言葉を聞いたことがありません。
 小説や戯曲の映画化、ドラマ化とは反対に、映画やドラマ、アニメ、ゲームなどがマンガ化されるのも、いまでは当たり前です。そのマンガ化作品が「コミカライズ」と呼ばれるようになったのは2000年代に入ってから——というのは「はじめに」で述べたとおりです。
 コミカライズという言葉がなかった頃は、単に「マンガ化」という言葉でくくられていたのではないでしょうか。
 コミカライズ作品が一挙に増えたのは、『仮面ライダー』のような児童向けのテレビ特撮番組が急増した1970年代前半のことでした。
 当時、児童向け専門誌として定着していた小学館の学年誌に加え、児童向けテレビ番組に密着した「テレビマガジン」「テレビランド」「てれびくん」「冒険王」といった低学年向けの雑誌が増えたことが、コミカライズ作品増加の大きな要因となったのは間違いありません。
 しかし、コミカライズ作品は、それ以前にもたくさん発表されていました。映画やテレビ番組をマンガ化することは、マンガ業界においては珍しいことではなかったのです。
 前述の「はじめに」では、新聞記事データベースを使ってコミカライズという言葉を含む記事を検索したことに触れました。朝日新聞の記事中に初めてコミカライズという単語が登場したのは2008年9月10日のこと。その10日後の9月20日にも、コミカライズが登場しています。それは朝日新聞の埼玉版で、「ウルトラマン漫画作者が描くヒーロー 一峰大二さん原画展」という見出しの記事でした。
「一峰大二さん」とは、もちろん、長年にわたって多くの作品を描いてこられたベテランマンガ家の一峰大二先生のこと。一峰先生とは、以前に近所に住んでいたご縁もあり、対談をさせていただいたこともありますが、人柄も実に穏やかで、敬愛する先輩マンガ家のおひとりです。
 この記事で一峰先生は、「漫画の原作から多くのテレビドラマや映画が誕生しているが、一峰さんはそれとは全く反対に、50年代後半から70年代前半まで(昭和30、40年代)の特撮モノの人気テレビ番組を次々と漫画化。59年の『七色仮面』を皮切りに、『白馬童子』『黄金バット』『ウルトラセブン』『スペクトルマン』などを手がけ、『コミカライズ(漫画本化)の匠』とも言われた」と紹介されていました。
 一峰先生は、『卜伝くん』や『黒い秘密兵器』といったオリジナルのヒット作もたくさんありますが、それと並行して、数多くのコミカライズ作品を手がけてきたことでも知られています。オリジナルもコミカライズも区別することなく、すべてに全力で取り組むのが、一峰先生のマンガに対する姿勢です。
 この記事で紹介されているように、一峰先生が最初にコミカライズを手がけたのは、1959(昭和34)年のこと。作品は『七色仮面』でした。『仮面ライダー』をはじめとする特撮番組のコミカライズが盛んになる1970年代前半よりも、10年以上も前になります。
 もちろん、当時はコミカライズという言葉はありませんでしたが、テレビ番組のマンガ化が、当時から行われていたことがわかります。そこで、この章では、コミカライズ前史ともいえる1960年代以前の映画やテレビ番組のマンガ化作品について、少し言及してみたいと思います。

この続きをみるには

この続き:6,368文字/画像1枚
この記事が含まれているマガジンを購入する
このマガジンを購入いただくと、各章に別れた有料ノート(全13本/1本あたり100円)がまとめて800円で読めるので、お得です。

マンガ家すがやみつるは、『仮面ライダー』でデビューした後、石ノ森章太郎作品を中心に数多くのコミカライズ作品を手がけてきました。2011...

または、記事単体で購入する

第1章 コミカライズ前史

すがやみつる

100円

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

2

コミカライズ魂〈続・仮面ライダー青春譜〉

マンガ家すがやみつるは、『仮面ライダー』でデビューした後、石ノ森章太郎作品を中心に数多くのコミカライズ作品を手がけてきました。2011年に上梓した『仮面ライダー青春譜』と一部重なるところもありますが、その続編として、すがやみつるのコミカライズ体験に焦点を絞って描き下ろしまし...
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。