第69回 嵐のなかでもネットワーク(1996年12月号)

●新幹線の車両に閉じ込められる

 話はちょっと古くなるが、9月21日、郷里の静岡県富士市で中学3年のときのクラス会が開かれることになり、東海道新幹線こだま号に乗って出かけてきた。30年ぶりに会う先生や同級生たちと深夜まで酒を酌みかわし、ホテルに戻ったのは午前1時すぎ。ノートパソコンを使って気になるF1ポルトガルGP第1日の情報をニフティサーブのオートレーシング情報フォーラム(FMOTOR4)から読み出したあと、ベッドにもぐったのが午前2時すぎのこと。台風17号が接近中ということなので、早めに東京に戻ろうと、翌朝は8時に起床し、窓のカーテンを開いてみると、外では強風が吹き荒れている。

 もっと詳しい台風状況を知ろうとテレビをつけ、ニフティサーブにもアクセスして台風情報を仕入れたが、これが間違いのもとだった。さっさと新富士駅に向かってしまえばよかったのだ。

 ホテルからタクシーで新富士駅に向かい、切符売り場に行くと、新富士〜三島間が強風のため徐行運転になっているとのこと。その徐行速度が午前9時57分発こだま号の指定席を求めている間に、速度が120キロ制限から70キロ制限になって、イヤな予感がただよった。しかし、列車は定刻運転されているというのでホームにあがると、ホームの先で新幹線の車両がストップしている。徐行運転の影響による信号待ちをしていたらしいが、すぐに動き出してホッ。ひょっとして台風の影響で遅れることもあるだろうと、ホームで駅弁とお茶を買っていると、こだま号が定刻通りにホームに滑り込んできた。

 車内に入り指定席に着くと、こだま号はすぐに発車。ところが1キロも走らないうちにスローダウンし、そのまま停止。新富士〜三島間で風速35メートルを記録したため、規則に従い停車したとのこと。まあ、予想したことではあるので朝食兼用の駅弁を食べ、お茶を飲んでくつろいでいたが、こだま号は動き出す気配がない。車掌も情報をはっきり把握していないようで、いつ発車できるかは不明とのこと。

 これはまずい。夕方までに送らないといけない原稿があるのだ。家のデスクトップ・パソコンで書くつもりでいたが、いつ動くかわからないのでは、ここで書くしかない。そこでバッグのなかからノートパソコンを引っ張りだし、座席で原稿を書き始めた。

 1時間ほどで原稿を書きあげ、デジタル携帯電話に接続し、ニフティサーブにアクセスして電子メールで原稿を送信。終わったとたんにノートパソコンのバッテリがなくなった。

●レース取材グッズがサバイバルキットに

 原稿を送ってホッとひと息ついたものの、こだま号は、あいかわらず停車したまま。列車の座席にすわっているだけでは台風の状況もわからない。でも、こんなときに役立つのが、バッグに入れっぱなしになっているレースの取材キット。このなかには、サーキットのミニFM放送を聞くためのカード型ポケットラジオも入っている。このラジオをガムテープで窓ガラスに貼りつけ、イヤホーンを耳に入れる。台風は伊豆半島沖を北上中とのことで、伊豆半島あたりでも風雨が強まっているらしい。交通機関もマヒ状態になっている。

 結局、ここでは4時間以上停車。そのあとで、ようやくゆっくりと動き出したが、今度は熱海駅でストップ。ビニールハウスの鉄骨や倒木が線路をふさいで、その撤去作業に取りかかっているが、いつ運転を再開できるか見込みは立っていないとのこと。

 すでに車内販売の飲食物は、すべて売り切れていたが、幸いにして今度は駅のホームに停車していたため、早めに食料と飲み物を仕入れ、残りが心細くなったラジオの電池も買っておく。おかげでプロ野球パリーグの天王山、オリックス対日ハムの試合から、大相撲14日目まで、ゆっくりと聞くことができた。

●新幹線の列車内でパソコンのバッテリーが切れたら

 しかし、それでもまだ、こだま号は動かない。夜にはFMOTOR4でF1情報のリリース翻訳を手伝うことになっているので、次第にあせってくる。送った原稿にも問題があったら大変だ。そこでノートパソコンに予備バッテリーを入れ、ニフティサーブにアクセスしようとしたら、予備バッテリーの残量が少なくて、アクセス途中で通信終了。しばらく使っていなかったせいで、放電してしまっていたらしい。

 でも、新幹線の車内なら、洗面所に電気カミソリ用の100Vのコンセントがある。ノートパソコンは、ショックを受けないよう、いつも発泡タイプのビニール袋に入れて持ち運んでいる。いわゆるプチプチというやつだ。この袋のなかにノートパソコンと電源アダプターを入れて充電すれば、ほかの乗客が洗面所を使っても水に濡れる心配はない。ただし、持ち去られたら困るので、充電の間は、洗面所の外に立って待つことにした。

 本来は、充電が完了するまでに2時間近くかかるのだが、今回は1回だけ通信ができればいい。そこで、30分くらいで充電をすませて座席にもどる。デジタル携帯電話のほうは大型バッテリーを持っていたので残量に不安はない。

 座席からニフティサーブにアクセスし、原稿が無事受信されていることを確認し、FMOTORAのスタッフにも連絡を取る。ついでに、他のフォーラムの発言にコメントもつけてまわり、最後に台風情報を仕入れて通信を終了。ニフティサーブの台風情報によれば、運転再開までには、まだ時間がかかりそうだ。外はすっかり暗くなっている。そこでホームの売店でビールとつまみを買い、ひとり宴会の開始。一緒に買ったミステリーの文庫を読み終わる頃に、ようやく運転再開となり、東京駅には8時間40分遅れ、所要10時間で到着した。ふつうなら1時間半の距離だが、自然には勝てないというところだろう。家に着くと海外から帰ってきたときのような疲れが、ドッとあふれ出した。


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すがやみつるのただいまアクセス中!

パソコン通信ニフティサーブの会員向け雑誌「OnlineTodayJapan(OLTJ)」「NIFTY-ServeMagazine」に,1991年から99年にかけて96回にわたって連載した『すがやみつるのただいまアクセス中」というエッセイの再録です。
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