げんちゃん

嘘みたいな本当、本当みたいな嘘 『夜をめくる』サンクチュアリ出版WEBマガジンにて月…

げんちゃん

嘘みたいな本当、本当みたいな嘘 『夜をめくる』サンクチュアリ出版WEBマガジンにて月一連載しています。【https://sanctuarybooks.jp/webmag/category/serialstory

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    はじめまして、また来てね!

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”つめたい”と”あたたかい”

昔の恋人と久しぶりに会った。 別れてからもう3年になるし、今更どうこうなんてことはない。 ただなんとなく、何ヶ月かの間隔を空けて、季節に1回くらい飲みに行く。 前回は梅雨が始まってすぐだった。 いつもの居酒屋、ビールで乾杯。この夏はどうだったかなんて話始める。 でも互いに色っぽい話なんてひとつもなかった。増税前に洗濯機を買い替えたいだとか、あのドラマの黒幕はもう一捻りほしかったとか、これ前も話したっけ?なんて、気の抜けたことばかりを話した。 居酒屋を出たあと

    • 優しい世界でありますように

      当事者にならないとわからないことが、たくさんある。海外に出ないと自分はアジア人なんだと実感しないし、怪我をして初めて車椅子の目線を知った。内閣総理大臣がどれほどのプレッシャーなのかは一生わからないだろう。声を上げるのは大切だけど、軽率に否定したり批難するのは恐ろしいことだ。 来年の春、友人に子どもが生まれるらしい。その電話はとってもハッピーで自分のことみたいに嬉しかった。 「でもね、こんな時代に、ごめんねって気持ちが、少しだけあるの」 なにも言えなかった。なにを言えばいい

      • サンクチュアリ出版WEBマガジンにて、本をテーマにした月一連載が始まりました!綺麗なもの正しいものばかりではないしドラマチックでもない、それでも確かに存在するような、いろいろな形の夜を書いていきます。 『夜をめくる』 https://sanctuarybooks.jp/webmag/category/serialstory

        • ハッピーバースデー

          きちんと時間は流れている。夜ごはんにカレーを2回もおかわりしたのに腹が減ってきたし、昨日は15時間も寝たのに眠くなってきた。一話を見逃したドラマの二話が放送されていた。二日酔いが治れば酒を飲んで、タラちゃんみたいに刈り上げた髪はすっかり伸びた。長かった梅雨が明けるらしい。本来の予定ならオリンピックが開幕してたんだって。7月がもう終わる。なにもしてないようで、きちんと時間は流れている。ぽっかりと空いた春、悲しいニュースばかり目にする毎日、それでも今日は誰かの誕生日、そんな当たり

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        ”つめたい”と”あたたかい”

        • 優しい世界でありますように

        • サンクチュアリ出版WEBマガジンにて、本をテーマにした月一連載が始まりました!綺麗なもの正しいものばかりではないしドラマチックでもない、それでも確かに存在するような、いろいろな形の夜を書いていきます。 『夜をめくる』 https://sanctuarybooks.jp/webmag/category/serialstory

        • ハッピーバースデー

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          どこにだって行ける

          友だちと海を眺めていると、自分がひどく乾いていることに気がついた。豪雨ばかりの梅雨空に負けないために、陽気でいようと必死な日々が続いたから。自分から出ていく言葉は明るいものを。変化は最大のエンタメなんだから楽しまなきゃと、必要以上に力が入っていた。本当は不安だらけだった。生まれてはじめての春が過ぎたのも、生まれてはじめての夏を迎えるのも。生きることと死なないことは似ているようで違うのに、死なないことばかりを考えて選んだ。明るくない言葉を出さないようにすると、「くだらない」と思

          どこにだって行ける

          何色

          森林の香りと書かれた入浴剤を落とすと、湯船は鮮やかなブルーに染まった。グリーンじゃないんかい。森林の香りなのに地中海みたいになっとるぞ。手元に届くまでにたくさんの人を通過したはずなのに、誰も気にしなかったんだろうか。「グリーンのほうが良くないっすか?」と言わなかったのかな。コネ入社2年目の若手が「今まで誰もやってないことにチャレンジしたいんすよね、ブルーにしてやりますわ~」とか言い出して誰も止められなかったんかな。 いや、でも、待てよ。森林のイメージカラーは緑って決まってる

          電球とおにぎりが気づかせてくれた

          トイレの電球が切れた三日前の夜、しぶしぶ雨のなかドラッグストアに行くと、売っていなかった。あれ?電球ってどこで買えばいいんだ…?インターネットでの買い物に慣れすぎて、どこに何が売っているのかすらわからなくなってる。落ち込んでいたら、コンビニに売っていた。便利なだけじゃなくて落ち込んだ気分にも24時間寄り添ってくれるコンビニはすごい。もし俺が小学校1年生だったら「将来は優しくて頼もしいコンビニになりたい」と言って親と先生を不安にさせてただろう。 売っていることがわかると満足し

          電球とおにぎりが気づかせてくれた

          呼べないから言うよ

          「そろそろ帰ってくるから」 「うちもそろそろだわ」 スマホを置いた22時40分。懐かしいドラマが再放送してるよで始まった久しぶりの電話は、エンディングのダンスより前に切れた。昔はどちらかの音がしなくなるまで繋いだままだったのに。悲しくはない、寂しいとも違う。 彼女とは学生時代に帰る方向が同じで、一緒にブックオフで立ち読みしたり具材が極小な100円のたこ焼き屋に通って、仲良くなってから10年以上が過ぎた。バーミヤンでカニあんかけチャーハンを食べた後にサイゼリヤで固いプリンを

          呼べないから言うよ

          まわらない20分間

          悩み相談を聞くことに向いていない。嫌とか苦手じゃなくて、向いていない。30年以上も生きていればそれなりの数の相談を受けてきたし、それらしい答えを相手に押し付けるでなく置いておくことくらいはできる。 でもどうしようもなく向いていないと思う理由は、「相手と同じ重さで受け止められない」から。まったく同じ重さで感じるのは無理なんだろうけど。その人が心から苦しんで、必死になって伝えてくれたことすら真剣になれない。「家族」「恋愛」「仕事」「お金」「コンプレックス」それらの悩みを「夜ごはん

          まわらない20分間

          なんだか今日はブギー・バック

          外出自粛ですっかり伸びた髪を切ろうと、2日前に買ったVANSのOLD SKOOLを履いて家を出る。住んでいる街が明日、梅雨入りするらしい。今日はこんなに晴れていて暑いのに本当だろうか。もし本当ならこの日差しをもっと満喫しないと勿体ないな、雨の日に新しいスニーカーは履きたくないもんな、先週も観たのに『天気の子』がまた観たいな、そんなことを考えながら歩いていたら、くるりの『東京』がイヤフォンから流れてきた。シャッフル再生はたまに自分の心を見透かされているような気がするけど、自分の

          なんだか今日はブギー・バック

          四畳半を拡げたくて

          冷やし中華が食いてぇ、1,000円札だけ握りしめてサンダルを履いた昼下がり。スマホも鍵も持つ気分じゃない。家からコンビニまで徒歩一分。大通りを左折すれば着くのに、気がつけば右折していた。カレーのにおいがしたから。もしかしたら俺は冷やし中華じゃなくてカレーが食いたいのかもしれない。でもこんな簡単に心変わりするなら、カレーを食いたい想いも本物じゃないのかも。 自分の気持ちなんていつだってコロコロ変わる。 本当に食いたいものを探そうと、また歩き始めた。手ぶらじゃ音楽も聴けずひま

          四畳半を拡げたくて

          100円の日記

          5月20日 水曜日 晴れ清潔な日差しを浴びて目覚めると、15時だった。 ちくしょう。2日連続で9時に起きてたから、まっとうな人間になれたと思ったのに。人間はそう簡単に変わらない。変わってたまるか。 猫が昨日引っ掻いた傷を、猫が舐めてくれる。「大丈夫?痛くない?」いや、やったのお前やんけ。手口がDV野郎。こうやって沼にはまっていくのね、依存完了。お腹が空いた時だけ優しくしてくれてありがとう。 久しぶりに街に出た。 緊急事態宣言が解除されたのは知ってるけど、嘘みたいな日常だっ

          100円の日記

          ロケットは飛び続ける

          小学校低学年の頃に習っていたスイミングスクールのお迎えを、叔母のちーちゃんがしてくれたことが一度だけある。家族で車に乗る時には座らせてもらえない助手席は、大人になれたみたいで嬉しい。アイスを食べながらおしゃべりをする時間はとっても楽しくて、30歳を過ぎた今でもよく覚えている。 ちーちゃんは「タモリがずっとサングラスかけてる理由知ってる?ドラキュラだから光に弱いんだよ」とか、「ラモスは日本語が実はペラペラ」とか、子どもには嘘か本当かわからない話をたくさん聞かせてくれた。 と

          ロケットは飛び続ける

          乾いてしまっても

          「ukaのネイルカラーかわいい」 「んー?anan読んでるのか」 「このミントグリーン似合いそう」 「買ってくれるの?」 「2,000円ならアリだなー」 「期待しないで待ってる笑」 「最近塗ってなくない?」 「なんか面倒なんだよね、外に出ないし」 「じゃあ今から俺に塗らせてよ」 「やだよ失敗しそう」 「大丈夫、プラモの塗装とか得意だから」 「一緒にすんな笑」 「いいでしょー」 「まぁ足ならいいよ」 「いえーい」 「どれがいいかな」 「うわっ!むっず」 「はみ出したのは後

          乾いてしまっても

          いま電話してこない男なんて自分のことしか考えてないから捨てちゃいな

          大人になるほど、付き合いが長くなるほど、関係を終わらせるのは面倒だ。 共通の友だちや馴染みの店、遠回しにプレッシャーをかけてくる親。なんて説明すっかなぁ。 仕事が落ち着いたら、3月末を乗り切ったら、そんなことを考えている間にタイミングを逃した。 テレビでたまに流れていたどこかの国の小さなニュースが、日常になるなんて。中学に入学した時に初めて感じた"目に見えないルール”みたいなものが、世の中を支配している。先生の前では第一ボタンをとめる、外出する時はマスクをする。 会って

          いま電話してこない男なんて自分のことしか考えてないから捨てちゃいな

          "優しさ"の正体は手紙かもしれない

          手紙って書いたことありますか? 僕はほとんど経験がないです。小学校の授業で「母の日に感謝をつたえよう」を書いたくらい。年賀状もマメじゃない。子どもの頃からメールが当たり前にあったから、そりゃそうなる。 ただこんなご時世なんで、アナログなコミュニケーションをしたいなって。LINEやZoomも素晴らしく便利で最高なんだけどね。 そこで先日、こんなツイートをしました。 するとびっくりすることに、誰もやりたいって言ってくれなくてびっくりした。人気がない。 というより、手書きの文

          "優しさ"の正体は手紙かもしれない