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100人共著プロジェクト参加作品

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100人共著プロジェクトに寄稿した作品です。100人共著プロジェクトについてはこちら→https://news.100authors.work/
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バ美肉おじさんの憂鬱

バ美肉おじさんの憂鬱

「バ美肉おじさん」という言葉をご存知だろうか。「バーチャル美少女受肉おじさん」の略で、昨今流行りのバーチャルユーチューバーなどで美少女になりきるおじさんのことである。何を隠そう、俺はバ美肉おじさんなのだ。おじさんってほどの歳でもないけれど。

最初は自分好みの3Dの美少女モデルを作ってみたかっただけだった。ところが、いざ完成してみたら動かしたくなってきて、やるなら徹底的に、とボイスチェンジャーで声

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透明な声

透明な声

地元の小さな書店の店員として働いている僕に、とある本を探している、と尋ねてきたのが彼女だった。「この本を探しています」と表示されたタブレットを見せられて、それがマイナーだけど僕の好きな作家の本だと分かった時、なんだか嬉しくなってしまってやたら話しかけてしまった。この作家が好きなんですか? あれは読みましたか? これはおすすめです、なんて。彼女はただうんうんと頷いていた。それでなんとなく、この人は人

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黒い悪魔

黒い悪魔

 男が箱から取り出したのは黒いタバコだった。シュッとライターで火をつけると、わずかに甘い香りが漂った。
「なにそれ、なんてタバコ?」
「ブラックデビル」
男はそう言って微笑んだ。
「吸ってみる?」
そう言われて慣れないタバコを口にすると、案の定ゲホゲホと咳込んだ。男は笑いながら背中をさすってくれた。
「唇舐めてみ?甘いから」
そう言われてペロッと舐めてみると確かに甘かった。
「これ吸ってたらキスす

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肖像

肖像

「では教科書128ページを開いて」
生徒達はタブレット型の教科書でページを捲った。
「前回はAIの歴史について学習しましたね。今日はその続きです」
教師は電子黒板に年表を表示させると、タッチペンで赤丸を付けた。
「現在ではAIをメイン知能として持つ、いわゆる"AI持ち"の人たちも他の人間と同じように人権を持つのが当たり前となりましたが、AIが出来たばかりの頃はまだ人格を持たないものが殆どで、その人

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箱庭

箱庭

「上野くん見て、桜!」
柔らかな茶色の髪を揺らしながら里香がこちらに振り向いた。その可愛らしい笑顔に胸がギュッとなる。
空は快晴で小鳥の鳴き声が聞こえてくるし、ああ、なんてデート日和なんだろう!
 俺はアメリカに住む里香と遠距離恋愛中だ。今日は急遽予定が空いたと里香の方から会いに来てくれたのだ。
「そういえば仕事はどう? ちゃんと休み取れてる?」
「うん、大丈夫! 仕事は……まあまあかな」
「あん

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いつかの楽園

いつかの楽園

 2076年のある日、人間用義体工場で働くアンドロイドのオミは、地下都市にある繁華街の片隅で一人の少女と出会った。
『記憶売ります。1440分で0.1BTC』
彼女はそう書かれた札を持って街灯の下に立っていた。首にうちの工場で出荷している義体のマークがある。この少女は機械の身体と生きた脳を持つ人間だ。
"記憶"は脳の代わりに人工知能を持つ完全機械のアンドロイドにとってよく分からないものだ。記録と違

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オタクの必需品

 私の生きがいはオタク活動である。アニメやマンガにハマればイベントに行き、同人誌を買い漁り、コスプレもした。その後ヴィジュアル系バンド、声優、俳優と、対象は変われどその時の推しを全力で追いかけた。そしてそんな私と行動を共にしていた道具がある。キャリーバッグだ。
 大学生の頃、友人と冬コミ参戦の約束をしていた。3日間全部に参加して買い物をし、近隣会場で開催されているコスプレイベントにも3日とも参加し

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