800字SS

真っ赤な嘘

 リリカは嘘をつくとき耳が赤くなる。本人は気付いていないのかもしれないけれど、そういうところが可愛くて堪らない。病気になった時も、「私は大丈夫」と言いながら耳を赤くしていた。全然大丈夫じゃない。俺はできる限り見舞いに通った。
「リリカ、外に散歩に行こうか」
入院して半年、リリカの病気は悪化する一方で、ずいぶんとやせ細った体を車いすに乗せた。日に日に軽くなっていく彼女がいつか消えてしまいそうで怖かった。
「ヒロくん、話があるの」
そう言われて、俺たちはベンチに座った。ここからは大きなイチョウの木が見える。紅葉して色づいた葉を一枚、リリカは手に取った。
「私と別れてほしいの」
予想もしなかった話に俺は絶句した。リリカは目と耳を真っ赤にして続けた。
「私と居てもヒロくんに迷惑かけるだけだから、ヒロくんは私のことを忘れて、幸せになって」
「なんでそんなこと言うんだよ!」
やりきれない気持ちが苛立ちになってリリカにぶつかる。ごめん、本当はこんなこと言いたいんじゃないのに。
「いいの、私は、もういいから」
その話をした翌朝、リリカは昏睡状態に陥った。

 イチョウの木が寒々しくなったころ、俺はずっと眠ったままのリリカを病院から連れ出した。リリカの意識を、魂ごと機械の身体にコピーする。合法ではないが技術的には可能だった。リリカを救うにはこの方法しかない。闇医者に大金をはたいて行った手術は何とか成功した。
「ヒロ……くん……?」
「リリカ、もう大丈夫だから……」
俺は泣き出していた。“新しいリリカ”は意識も記憶もはっきりしている。俺は非合法の手術をしたとは言わずに嘘をついた。リリカは不安そうな顔で俺を見つめていたがやっと少し笑ってくれるようになった。俺は耳を真っ赤にしながら、“リリカだった身体”をどう処理しようか考えていた。まさか自分も嘘をつくとき耳が赤くなるとは知らずに。

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