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ミューズの仕立て屋

 ゆぽりんは可愛い。俺が知っている女の子の中で一番可愛くて可愛くて可愛い。だから俺は、暇さえあればゆぽりんの配信を何度も見る。
『はろはろー! ゆぽりんです! 今日も遊びに来てくれてありがと!』
ピンクを基調としたファンシーな空間の中心でゆぽりんが手を振る。昨晩このVR配信をリアルタイムで見たのに、アーカイブを何度も再生する俺は立派な中毒患者だった。同じ配信を違う位置から違う角度で見るのが通の楽しみ方だ。なので今俺はゆぽりんの横顔を見ている。動くたびにツインテールがゆらゆら揺れて可愛い。すっと通った鼻筋がきれいで、目がキラキラしていて、まつげが長い。フワフワの衣装に、長い手足と、サラサラの髪。どれだけ見ても飽きなかった。そんな彼女の頭上から、リアルタイム視聴者からの差し入れがぽんぽん降ってくる。
『わあ! 差し入れありがとうございます! くまちゃん可愛い~!』
ゆぽりんが昨晩俺の差し入れた課金アイテムを抱きしめた。ああ、めっちゃ可愛い。癒される。
あっという間に30分が過ぎ、俺はVRゴーグルを外してため息をついた。

 ゆぽりんはVR空間に存在するバーチャルアイドルだ。2日に一回30分だけ生配信をしてくれる。たまたまネットで見かけたファンアートが気になって本家の配信を見てみたら、すっかり心を奪われてしまった。見た目はもちろん、バーチャルとは思えない可愛らしい仕草、機転の利いた受け答え、ころころ変わる表情と感情豊かな声。それまでアイドルとかに興味のなかった俺なのに、一発で好きになってしまった。過去の配信を遡り、最新の配信に張り付くようになって、俺の生活は一変した。そしてささやかながら夢ができた。
——ゆぽりんに俺が作った服を着せたい。
服飾デザイナーの俺は早速デザイン画を描いた。でも布ではなくデータで服を作らなくてはならない。だから俺は今日もゆぽりんのことを考えながらモデリングの教本を開く。

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邪推 系@バーチャル美少女さん(https://twitter.com/anntamania)から頂いたお題「バーチャル美少女」で作成しました。ありがとうございました!



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