800字SS

ドレスの対価

 七海はメロディコーディというゲームに夢中だった。女子高生に人気の音ゲーで、クリア報酬やガチャで衣装が貰え、それを着用してプレイすると更に加点されるのだ。豊富な衣装バリエーションがとても魅力的で、七海は仮想空間のクローゼットを一杯にしようと奮闘していた。
 短い髪にボーイッシュな普段着の七海は、本当はロリータファッションが好きだった。でも、背が高い自分には似合わないだろうと手を出せなかった。だけどゲーム内でなら躊躇うことは無い。だって顔も体型も選べるのだから!七海は自分のアバターを背の低い可愛らしい姿に作り上げた。そのためにほんの少し課金もした。親にバレたら「ただのデータにお金をかけるなんて」と怒られそうなので内緒だけれど。
 夏になって新しい衣装が追加された。星空をテーマにした、紺地に煌びやかな星座柄のドレスセット。七海はすっかり心を奪われてしまった。しかしそれは1万円分課金すると貰えるものだった。1万円の課金は七海にとって高い。しかも期限は1週間。今からバイトを探しても間に合いそうにない。悩みに悩んだ末、母に正直に相談することにした。
「あら、ちょっと待ってなさい」
母はおもむろにゲームを起動させた。
「ID教えて、プレゼントで送るから」
「えっ、待って、えっ……?」
「実はお母さんもメロディコーディやってるの。もうオバサンだけどゲームの中でなら好きな服着られるでしょ?はい、買ったよ」
「うそ!ホントにいいの!?ありがとう!」
「ただし!お母さんに1万円の借金だからちゃんと返してね?因みに次の学力テストで学年10位以内に入ると返済が免除されます」
「ウッ、いま100位以下なんだけど……」
「1万円がチャラになるんだからお得でしょ?さあ頑張って!」
そう言って笑う母のアバターは全身が課金衣装で飾られていた。この親にしてこの子あり、か。七海は苦笑いしながら参考書を開いた。

───────────────

これは「100人で書いた本~一万円篇~」に投稿予定だったけど没にしたものです。今になって実際投稿したのよりこっちのほうがいい気がしてきた…。



頂いたサポートは同人誌の制作、即売会等のイベントへの参加、執筆のための資料の購入などに充てさせていただきます。