800字SS

ガルナダの巫女

「ミディ、救難信号を送って」
『リリア、今日は既に二度も送っています』
神殿の奥で私はスマホのAIにこっそり話しかけた。タイムマシンが故障した私は古代の原住民に見つかってしまい、この国を治める伝説の巫女様にされて一か月が経った。隙を見てタイムパトロールに向けて何度も救難信号を送っているが、反応もないし救助も来ない。
「何とかネットに繋がったからこの時代の詳しい記録が読めるけど、それもいつまで続くか……私の預言もカンニングできなくなったらお終いだよ……」
私はため息をついて頭を抱えたが、どのみちお終いだった。私が後世でガルナダの巫女と呼ばれる存在になってしまい、歴史が変わってしまったからだ。歴史改変は重罪だ。
「巫女様、遠方の国よりの使者が謁見したいと申しております」
使いの一人が御簾の向こうから声をかけてきた。
「えっ、あっ、通してください」
御簾が上げられると、見慣れた服装の数人が跪いていた。
「巫女様、大事なお話がございます」
使者の一人がそう言ってウインクをした。ああ、やっぱり救助の人だ!
「やっと助けに来てくれたんですね!」
「いいえ、勧告しにきました」
思いもしなかった言葉に私は戸惑うしかなかった。
「あなたにはこのままガルナダの巫女として働いてもらいます」
「そ、そんな……!」
「あなたがガルナダの巫女になるのは歴史通りです。必要な支援はさせていただきます」
歴史通りって……。私は混乱したままだったが、必要書類を持たされ、淡々と説明を受けた。ああ、これは、転職の手続きか……。
「お会いできて光栄でした、巫女様」
彼らは用事を済ませると、恭しく古代式の礼をして帰っていった。……やるしかないか。機能拡張チップをつけてもらったスマホを胸に抱いて、私は神殿前に集まったガルナダの民の前で宣言した。
「遠方の国よりの使者から正式にこの国の巫女として認められた。我こそは、ガルナダの巫女なり!」



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