800字SS

肖像

「では教科書128ページを開いて」
生徒達はタブレット型の教科書でページを捲った。
「前回はAIの歴史について学習しましたね。今日はその続きです」
教師は電子黒板に年表を表示させると、タッチペンで赤丸を付けた。
「現在ではAIをメイン知能として持つ、いわゆる"AI持ち"の人たちも他の人間と同じように人権を持つのが当たり前となりましたが、AIが出来たばかりの頃はまだ人格を持たないものが殆どで、その人権については考えられることがありませんでした」
子供たちは少し退屈そうな顔で教師を見つめる。
「その後AIも人格を持ち、2XXX年、AI持ちの人たちもひとつの人種として認められるよう活動を行った人がいました。……この人が誰か分かるかな?」
教師は電子黒板に青年の写真を表示させた。
「はい!1万円札の人!」
「そう、皆さんお札の絵で見たことがありますね。名前は分かる?」
「アイリス!」
「正解、アイリスさんです。今日はそのアイリスさんにお話を伺います」
「えっ!?」
教室内はにわかにざわめき立ち、教師は満足そうに微笑むと、通信アプリを立ち上げて電子黒板に表示した。
「アイリスさん、こんにちは、今日はよろしくお願いします」
『あ、皆さんこんにちは、アイリスです。今日はよろしくね』
アイリスが手を振ると、教室内は歓喜と拍手に満ち溢れた。

「ふぅ、子供たち、ちゃんと話分かったかな」
アイリスは通信アプリを閉じるとため息をついた。
「先生お疲れさん、俺には分かりやすかったぞ?」
そばで見ていたアイリスに似た顔のアレンはパチパチと拍手した。
「先生なんて止してくれよ。200年前の思い出を話しただけさ」
「しかし、まさかお前がお札の肖像になるなんてなぁ。同じシリーズとして誇らしいよ」
「生きてるうちにお札になれる人は初めてらしいよ。生きてるっていうか……動いてるうちに?」
ふふっ、と笑うアイリスの表情は、お札に描かれたものより穏やかだった。

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第4回100人共著プロジェクト
「100人で書いた本~一万円篇~ (キャプロア出版)」より

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