専用フォントの展開

デザインの方向付けの方法として「文字の使い方」「写真の使い方」「余白のとり方」など様々な方法があるなかで、自分が特に大事にしているのが文字の使い方だ。

普段はグラフィックデザインの仕事をしているが、仕事から終わってから、あるいは休日になるとフォントを作っている。学生の頃から文字のデザインに興味があり、雑誌のレイアウトを仕事にしてからさらに興味が深まった。

学生の頃もフォントを作ってはみていたが、当時はどちらかというとシンプルな方が好みで、特徴のうまく出せないものになっていた。
今では仕事でうまく特徴付けのできたロゴを書いたりすると、つくった文字から派生させて一通り揃えてフォントセットにする。すると、リード文くらいは組めるようになり、ロゴだけでなく、一気に全体の雰囲気を作れるようになる。

ここでこれまで気になっていた「文字を中心にしたデザイン」の例をまとめてみる。専用書体というからにはそれなりの特徴付けが必要で、かつ読みやすさも求められる。今後、自分のフォントづくりがなにかに応用できないかと考えている。

オリンピックのアイデンティティ

オリンピックでは、ロゴだけでなく様々なポスターや配布物、サインで文字が使われている。最近はオリジナルのフォントの開発から手がけていることも多い。

ロンドン2012
https://typographica.org/on-typography/a-fruitful-discomfort-the-face-of-the-2012-olympics/
デザイン:Gareth Hague
文字を見ただけで、「あのときのオリンピックだな」とわかるような特徴のあるデザイン。これまでのオリンピックのデザインでは、既存の割と伝統的なフォントを使われることが多かった。

リオ2016
https://99u.adobe.com/articles/53580/how-the-2016-olympic-logo-and-font-were-created
デザイン:Tátil Design de Ideias(http://tatil.com.br/pb/
ロゴマークとあったデザインで、筆記体風でもけっこう読みやすい。

メキシコ1968
http://luc.devroye.org/fonts-65820.html
デザイン:Lance Wyman(http://www.lancewyman.com
特徴が強い分、応用幅が広く、テキスタイルにも展開できるのがおしゃれ。

ソチ2014
https://company.paratype.com/the-olympic-font
デザイン:Paratype
ソチはテキスタイルがきれいな印象だったが、フォントはシンプルで良い。

ゲーム

スマホゲームも多くなってきた中で、その用途に権利関係などはっきりしているのかわからないが見る割合が多いのはフォントワークスさんのフォントではないか思う。
オリジナルデザインではひらがな、カタカナだけとしても結構な字数があるが、それでも、ゲーム全体の世界観をとるものとしてフォントデザインが行われているものもある。

スプラトゥーン
https://www.nintendo.co.jp/jobs/keyword/18.html
https://careerhack.en-japan.com/report/detail/965
デザイン:橘磨理子(任天堂)
スプラトゥーンは世界感の作り込みがすごいと思っていた。
「既存のフォントだとイメージにピッタリ合うものがない」として文字までUIデザイナーが手がけた例。

サインデザイン

とある建築家の方にお話を聞く機会があった。
公立の美術館の設計をした際、建物が出来上がってから相談もなく地元のグラフィックデザイナーがサインをデザインしていたことがあった、とのこと。
空間全体の雰囲気を決める要素のひとつになるものがきちんと統一していないのはもったいない。
限られた用途として字数が限られていることもあり、専用書体の導入できるものは、もっとあるような気がする。

みんなの森 ぎふメディアコスモス
https://www.ndc.co.jp/hara/works/2018/03/minna_no_mori.html
デザイン:原デザイン研究所/日本デザインセンター
大きく用いられる数字が印象的だが、部屋の名前など、サインに使われるものにも使用されている。

雑誌

ガーディアン紙フォントリニューアル
https://www.dezeen.com/2018/01/15/guardian-newspaper-unveils-new-compact-format-redesign-font-logo/
海外の新聞や雑誌は専用書体を持つことがままある。
ウェブサイトへの移行などもあり、媒体にあわせてリニューアルもなされる。

AXIS
https://www.axisfont.com
デザイン:Type Project
https://www.jagat.or.jp/past_archives/story/5838.html
(2002, JAGDA)
日本の雑誌では専用書体の導入はAXISが先駆的。専用フォントとして7ウェイトも展開があるのはすごい。


この他、都市のためのフォント開発や、フォントセットになっていないまでも
必要な字形だけ起こして使用されているものなど、様々な例にふれることがある。

「思い切った特徴づけ」「限られた用途」「使用メディアに合わせた展開」
というような専用フォントは、それだけに割く予算がなくてもグラフィックデザインの一環として考えることもできるし、また、専有期間を経た後に一般発売など合わせれば、開発費をそれを見越して考えることもできると思う。

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