アートボード_1

築地三号丸ゴ試作

試作の背景

「築地三号細仮名」は大日本スクリーン(現・スクリーングラフィックソリューションズ)からリリースされた書体で、東京築地活版製造所の三号活字の仮名を覆刻したものだ。三号は22.5級程度となる。他の号数と比べても、骨格は見出し〜中見出しの用途だと思われる。
「築野蘭」という写植の書体はこの字の骨格をベースにL/M/B/Eと4ウェイトに展開されていた。
もともと細い字で、おそらく太い漢字と組まれて使われていたと思う。見出し用の骨格ということもあるのか、太いウェイトに展開しても格好いい書体だと思う。
字形の縦横の幅にリズムのついた構成で、正方形に収める活字書体らしいというよりは、筆の動きのある書体と言える。

フォントワークスの藤田重信さんは、筑紫書体の特に「オールド」や「ヴィンテージ」で、独自の骨格の書体を制作している。インタビューなどを見ると、古い書籍の文字にインスパイアされることもままあるようだ。筑紫書体は、同骨格で丸ゴシックにも展開されているものもある。

そこで「築地三号細仮名」の骨格をベースに丸ゴシックを作ったらどうか、と思ったのが、以下の「築地三号丸ゴ試作」となる。
(築地体の三号に丸ゴシックは多分ない。あったとしてもこの骨格ではないだろう)


(丸ゴシックの)骨格とは何か

上で何度も「骨格」と書いたが、文字の骨格とは何かと改めて考えてみると、とてもむずかしい。
例えば単純に「抑揚を取り払った実質的な線/筆の動きを上下の動きなしに平面的な手の動きを捉えた線」とし、この線を抽出して先端部分を丸くすることで丸ゴシックにしてみようと思って作業してみると、そういうものではないと気がつく。

横画を例にすると、始筆の斜めにはいる部分は、筆の上下の動きが現れている部分なので、単純に筆の平面上の動きと一致しない。よって、この斜めになっている部分をどう取り入れるか、など、解釈の仕方がある。

現代において筆よりもボールペンやサインペンのような「筆のように上下の力の入り方が字形に及ぼす影響が少ない筆記具」のほうが一般的に使用されることが多い。
この点においては、線の抑揚の少ない丸ゴシックはこのような書き文字に近い部分があると言える。

丸ゴシックのジャンルは特に「ナール」以降、字面いっぱいにデザインされるものが主流だった。
ここ10年ほどで、さきに挙げた筑紫丸ゴシック(2008/フォントワークス)や秀英丸ゴシック(2012/大日本印刷)、丸丸gothic(2009/砧書体製作所)など骨格のタイトな丸ゴシックが次々にリリースされている。この流れは、書き文字の近さからくる親しみ感が受け入れられているのではないかと思っている。

ここでつくる書体の骨格の解釈として、「手書きのように見える」ことをベースに考える。
手書きのように見える要素として

1、「字面いっぱいのデザインでなく、文字固有の上下左右幅をもったものにする」(ただし、正方形のグリッドに収まる活字書体ベースの使用の想定)

2、「始筆や終筆の筆記具の動きを多少強調する」(横線の例をとれば、平面上の動きだけでなく筆の上下の力の入り方を取り入れながらつくる)

また、丸ゴシックにするにあたり、線の込み具合がかなり異なるため、文字の懐をとる意味でも、もとの骨格を取るだけでは成立しない。
例えば「ぬ」の字形は左に線が集中するが、懐を広げるために、特に太いウェイトでは調整が必要になる。
他に、カタカナの「シ」「ミ」のように線のつながったものについては、抑揚のない線でそのままにすると読みにくくなるため、線と線の間の部分はかなり絞ってある。
字面いっぱいの丸ゴシックでも線が均一の線に見えるように、実際には線の縦画と横格、カーブの部分で微妙に線幅を調整しているが、ここまで絞る部分があるのは他にないくらいなので、ほぼ反則だとは思う。


いろいろと試作をすすめて、ひらがなとカタカナはほぼ字形が揃い、レギュラーとボールドの2種類があるが、公開の予定はとりあえずない。

参考資料

「築地三号細仮名」スクリーングラフィックソリューションズのウェブサイトより
https://www.screen.co.jp/ga_product/sento/pro/typography/05typo/pdf/054_3goH.pdf

九楊先生の文字学入門

フォントワークス リリースノート
https://fontworks.co.jp/company/information/releasenote

丸丸gothic 砧書体制作所
http://www.moji-sekkei.jp/mmg.html


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