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2023.5 良かった新譜

Bring Me The Horizon - LosT

 2023年5月4日リリースのシングル。アルバムごとどころか一曲ごとにシーンを揺るがすインパクトを残し続けている彼らだが、今回も当然のように凄い曲。本楽曲は「DiE4u」以降の"Future Emo"路線へのあまりにも早い自己批評で、そのベクトルが安易なトレンドのキャッチアップや単なる懐古には向かっていないことを示している。「超ポップかつ激ヘヴィなもの=エモ」という再定義がその根底にある発想であり、「LosT」はそれをサウンドで形にしながらメンタルヘルスというテーマと繋ぐ。とてつもなくキャッチーなメロディーと強烈なブレイクダウン、「大量のケタミンを打ちながらエヴァ見てる」という倒錯気味な歌い出しが印象的なリリック、飾り立てた爪で自身を傷付けるアートワーク、何よりも躁鬱の症状そのもの…すなわちすべての「ポップかつヘヴィなもの」、それを表現できる音楽がエモだという発見。Madina Lake「Here I Stand」やThe Red Jumpsuit Apparatus「Choke」が持つ煌びやかなメロディーを、TikTokでメガヒットしたAJR「World's Smallest Violin」レベルまで一般化させるポップセンス。


DRAIN - LIVING PROOF

 カリフォルニア州サンタクルーズ出身の3人組による、Epitaph Recordsへの移籍後初となる、通算2枚目のアルバム。前作以上のテンションと磨きをかけた高精度のアレンジで迫る快作で、波に乗るバンドの勢いと進化が感じられる一枚。とりわけSammy Ciaramitaro(Vo)の存在感は目を見張るものがあり、Rage Against The MachineのZack de la Rochaをも彷彿とさせるようなアジテーションとデスコアにも迫るエグみのあるシャウトは、クロスオーバー・スラッシュの顔役に相応しい。7月に初めて開催されるジャパンツアーは、これ以上ないタイミングでの来日公演と言えるだろう。


forest spirit, sun on your back - forest spirit, sun on your back

 マサチューセッツ州のミュージシャン・Noahのプロジェクトによる、2023年5月1日リリースの1st。昨年birds fear death「livestream death compilation」に食らった人(はい、僕です。昨年1番良かった音楽作品だと思います)は必聴のLo-fiエモ・パンク。とはいえ、儚くロマンチックなピアノの旋律やバイオリンの音色が響くミディアム・ナンバーからパンク・バンド然とした前のめりなアンサンブルまで、そのサウンドはベッドルームからはみ出す程度には多岐に渡る。でもなんだろうこの孤独な感じ。人と関わるほどに自己と社会を隔てる輪郭の濃さに気付いていく。そんなやるせなさを吹き飛ばそうとしたり、吹き飛ばさなくてよりやるせなくなったりする、そんなアルバム。


The HIRS Collective - We're Still Here

 ペンシルベニア州フィラデルフィアに拠点を置くパンク・コレクティブによる2023年3月24日リリースのアルバム。Soul Glo、My Chemical Romance、Melt-Banana、Converge、Full Of Hell、Saosin…17曲にわたり、35名以上のミュージシャンがゲスト参加する極彩色のグラインド・コア。(比較的)リベラルな思想を共有しつつも、未だ白人男性が実質的なパワーを握るハードコア・パンクシーンにおいて、多様な人種・キャリア・セクシュアリティやクィアネスを持つ個人がマイクをリレーしていく本作は、その在り方自体が大きな主張でありアートだ。ワンアイデア・ワンソングのファストチューンの中で、それぞれが叫ぶ「We're Still Here」。自分という存在が社会に在ると示すために、大声で叫び続けること。


HMLTD - The Worm

 ロンドンの5人組による2023年4月リリースの2nd。聖歌隊やオーケストラなど、47人のミュージシャンが参加。2年をかけて産み落とされたのは、ジャズ、ゴスペル、オペラ、そしてロックを飲み込みのた打つ異形の怪物。ドレスコードのある劇場で、タキシードに身を包みながらグロいB級映画を観るみたいな、変な体験。整理されていないのに洗練されていて、芝居がかってるけど生々しい。


Jessie Ware - That! Feels Good!

 ロンドン出身のシンガーソングライターによる、2023年4月28日リリースの5th。ディスコ路線に舵を切り批評筋からの大絶賛を受けた前作「What's Your Pleasure?」の熱狂を絶やさず受け継ぐ、ニュー・クラシックな一枚。真芯を1mmも外さないアンセム・アフター・アンセム。特に#3「Pearls」とか、向こう半世紀歌い継がれ&聴き継がれ&踊り継がれるべき名曲だと思う。#7「Freak Me Now」も大好き。てか全曲最高。まさにThat feels goodすぎて、快楽に感動できるアルバム。いつまでも終わらないでほしいパーティー。


JJJ - MAKTUB

 Fla$hBackSでの活動でも知られるラッパー・トラックメーカーによる2023年5月26日リリースの3rd。豪華な客演陣のテイストに合わせその形を変えながらも、同じ質感でリスナーに寄り添うトラックが心地良い。夜の東京の、彩度が違えど温度は変わらない、色々な街を歩くJJJの横顔を追うカメラみたいなアルバムだ。と思っていたら、#10「U」で彼が目黒シネマの座席に腰を下ろした時、そこに自分の姿がフレームインして驚く。リリシストだけが特別な言葉や情緒に選ばれているのではなく、そこら中に漂うそれを掬い取れる感性を持ち得るか否か。「MAKTUB」とはアラビア語で「それは書かれている」で、出来事はすべて意味や因果の下にあり、それを感じ取れるかはその人次第…なんてことを意味しているようだ。


LE SSERAFIM - UNFORGIVEN

 HYBE LABELS傘下SOURCE MUSIC所属の5人組K-POPグループの1stフル。1stミニ「FEARLESS」からの3曲(メンバー脱退に伴う再レコーディング版)、2ndミニ「ANTIFRAGILE」からの3曲に新曲7曲を加えた13曲を収めた、コンピレーション的な作品。…という事実をトラックリストの公開時に察した時は正直少し拍子抜け感もあったのだが、実際に聴いてみるとそれはそれで良くまとまったアルバムになってると思う。ポエトリーな#1「The World Is My Oyster」、#4「The Hydra」、#7「Burn the Bridge」がインタールード的に挿入される構成は、自立→前身→連帯へと至るストーリー(かつLE SSERAFIMというグループのドキュメント)を的確に補強してる。後続曲としては異例のヒットを飛ばした#10「이브, 프시케 그리고 푸른 수염의 아내 (Eve, Psyche & The Bluebeard's wife)」のクオリティもさることながら、洗練されすぎずに多彩な音楽性に挑戦しているのも本作の魅力であり、彼女達の親しみやすい佇まいに合ったプロダクションだと思う(僕は、この「カッコよすぎなさ」故にLE SSERAFIMが好きなので…(いや、もちろんめちゃくちゃカッコいいけど…))。


Panchiko - Failed at Math(s)

 イギリス・ノッティンガムの5人組による1stフル。まるで創作のような出来すぎたサクセスストーリーとその真偽(こちらの記事に詳しい)が取り沙汰されがちなバンドだが、そのバックグラウンドは差し置いてもとにかく曲が素晴らしい。Radioheadの「OK Computer」や「Kid A」を聴くと、欲しい音が欲しいタイミングに欲しい配置で鳴る、その編曲の正確無比さに恐ろしさを感じたりするのだが、このアルバムにはそれに良く似たある種の"冷たさ"と、サイケデリックな陶酔が同居する。我々が辿り得なかった、もう一つの00年代のアトモスフィア。


Soulkeeper - Holy Design

 ミネソタ州ミネアポリスの4人組メタルコアによる1st。低重心なNu-MetalcoreをトリッキーなMathcoreで味付けし、レトロフューチャー・インダストリアル・グリッチなシーケンスをトッピング。同じ鋳型に少しポジションを変えたリフを流し込むだけの作業にも思えるこのジャンルでの作編曲において、こぼれ出てしまうセンス。ZOMBIESHARK!、Blind Equation、fromjoyらという客演陣のチョイスにも慧眼が光る(このあたりのサイバーグラインドシーンに目を向けつつ、ガチガチのNu-Metalcoreを志向してるバンドは新しいと思う)。

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