「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン 新語・流行語大賞 トップテン 「ご飯論法」 受賞スピーチ 文字起こし 2018年12月3日

「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン 新語・流行語大賞
トップテン 「ご飯論法」 受賞スピーチ 2018年12月3日
映像:https://youtu.be/sYcNgCjqu1o

【上西充子】

受賞させていただきました。ありがとうございます。

この言葉はもともと私の twitter のツイートに発しています。この言葉を広めていただいたツイッターの住民の皆さんにも、感謝を申し上げたいと思います。

「朝ごはんは食べたんですか」と問われて「ご飯は食べておりません」、実際はパンを食べてたのに「ご飯は食べておりません」というふうに答えるのがこの「ご飯論法」です。ツイートを私がして、そのツイートに「ご飯論法」と名付けをしてくださったのが紙屋高雪さんです。

この「ご飯論法」のポイントは、パンを食べてたけど絶対に「パンを食べてた」と言わないというところなんですね。どのように聞かれても、「パンを食べてた」というふうには言わない。そして、でも「ご飯は食べておりません」と言うことによって、あたかも何も食べていなかったように、質問した人を騙してしまう、その2つにポイントがあります。

なぜ私がこういうツイートをしたかというと、働き方改革の国会審議の中で、当時の加藤厚生労働大臣が、非常にこういう、のらりくらりとした論点ずらしの不誠実答弁をするんですね。それをなんとか分かってもらいたいと思って、朝ごはんにたとえたものです。それによって、「あ、そういうことだったのか!あの答弁は!」というようなことが広く認知をされるようになって、私も「ご飯論法」という言葉を積極的に広げました。

なぜそういうふうに積極的に広めたかというと、これ、「名付けて退治」の言葉なんですね。先ほどもご紹介いただきました「セクシャルハラスメント」という言葉が広がることによって、共通認識になることによって、セクハラという行為が抑止される。あるいは「振り込め詐欺」について、「オレオレ詐欺」とか「母さん助けて詐欺」というふうに、より具体的に示されることによって、「あ、私が受けているこの電話って、もしかしたらそれかしら」というふうに気づける。そういう言葉として、単に「詭弁」だとか「不誠実答弁」だという言葉だけでは通じない、「あ、これは『ご飯論法』なんだな」、「私たち、騙されてるんだな」と気づけるような言葉を、広めたかったんですね。

ビールを飲んでても「お酒は1滴も飲んでません!」というのはよくありますよね。あれと同じように、朝ごはんは食べてたけれども「ご飯を食べてません」と言うことによって、あたかも食べてないかのように言う。これは非常にわかりやすく認知がされたと思います。

そう言ってごまかされているものは何かっていうと、働き方改革で言うと、あたかも「長時間労働の是正のための法案ですよ」という形で出してきたんですけれども、実際にはその中に、過労死を増やしてしまうような「」裁量労働制の拡大」」ですとか「高度プロフェッショナル制度の創設」というのが混ぜ込まれていて、それをできるだけ隠して法案を出してきたわけです。そこに野党が追及をすると、その問題に向き合いたくない、そういう指摘をきちんと引き受けたくないがゆえに、「ご飯論法」ではぐらかすというのが、ずっと続いたんですね。

そういう国会審議をそのまま容認していると、結局大事な問題が審議されないまま、法案が通ってしまう。それは私たちの生活に跳ね返ってくることなので、単に野党が騙されてるという問題ではなくて、「ちゃんと国会審議で問題に向き合え」という意味合いも、この言葉には込められています。

「ご飯論法」という言葉は、5月ぐらいから報道されたんですけれども、なかなか実際の国会審議と照らし合わせて紹介されませんでした。私、今、国会パブリックビューイングという、国会の映像を切り取って街頭で上映する活動しています。高度プロフェッショナル制度について一つ作品をつくったんですが、2作目が、昨日ユーチューブに公開をしました「ご飯論法」というものです。働き方改革の(国会審議における)加藤厚生労働大臣と安倍首相の答弁を紹介しています。実際に番組で観ていただいて「ご飯論法」を読み解けるか、ぜひご覧いただきたいと思います。ありがとうございました。

●【街頭上映用日本語字幕版】国会パブリックビューイング 第1話 働き方改革-高プロ危険編-(収録映像一覧情報あり)
https://www.youtube.com/watch?v=LQ71hlwBEVo&t=1663s

●【街頭上映用日本語字幕版】国会パブリックビューイング 第2話 働き方改革-ご飯論法編-(収録映像一覧情報あり)
https://www.youtube.com/watch?v=pDqswKSfBrw&t=1404s

【紙屋高雪】

ブロガーの紙屋と申します。今日、選んでいただきまして、どうもありがとうございます。
今日、話を聞くと、他の国語辞典(大辞泉)でも(「新語大賞」の「次点」として)この「ご飯論法」を選ばれたっていう話を聞いてて、ちょっと私自身もびっくりしています。

といっても私自身は、上西さんの話をツイッターで「ご飯論法」と名前を付けただけなんですけども、ただ聞いた時にですね、初めて「あ、これ森友の問題でも、加計の問題でも、すごくよく見る論法だよね」と。政権全体にこれが広まってるんじゃないかと、すごくビックリした記憶があります。

例えば、森友問題で佐川さんっていう財務省の局長だった人がいますね。あの方が「文書は、捨てたことは確認しました」という答弁をしたんです。その時に、その後文書が出てきちゃって、「あなた、確認したって言ったよね」と証人喚問で追及されちゃったんです。その時に佐川さんが「いや、確認したっていうのは、文書を1年で捨てるという、そういうルールを確認した、そういう意味なんですよ」っていう言い訳をされたわけですよ。つまり「私、一般的なルールを確認しただけであって、実際に文書を捨てるところを目で現認したわけじゃありませんよ」という、そういう開き直りをやったわけです。

これ、典型的な「ご飯論法」だなというふうに思いました。「ご飯」という言葉をすり替えてやるのと同じように、「確認する」という言葉をすり替えてやるっていうやり方ですから。調べてみると官房長官もやっているし、首相秘書官も、さっきもありましたけれどもやってるし、政権全体に広がっているわけですよ。

昨日、ちょうど M1グランプリがありましたけれども、その言葉のすり替えでコントやってるみたいなもんなんですね、これ。政権全体がコントやってるみたいな。だから、もともと昔から官僚っていうのは、あいまいな答弁とか、ちょっと小難しい答弁をするっていうのはやってたんですけれども、そういう「わかりにくい答弁」じゃなくて、言葉をすり替えて「嘘を言う」、「フェイクを言う」、そういうやり方だと思うんです。

だから国会の答弁というのは、民主政治の基礎になっているので、それが、フェイクが積み重ねられていっちゃうとですね、政治全体がフェイクになっちゃう、そういうふうに思います。なので、そういうところの危機感が、「ご飯論法」と聞いたとき、最初笑われる方もいらっしゃると思うんですけども、「実はそれは笑い事じゃないんだな。恐ろしいことなんだな」という、そういう危機感が今回、こういう形で選ばれたり、受賞につながったのかなというふうに思っています。どうもありがとうございました。