麻生大臣4

サンプル入れ替え時の遡及改訂の廃止が2015年介入の重要論点:衆議院予算委員会中央公聴会公述人意見陳述・逢坂議員質疑への答弁(2019年2月26日)

●逢坂誠二:

 立憲民主党の逢坂誠二でございます。きょうは、それぞれの公述人の皆さんから大変貴重な話をいただきまして、ありがとうございます。

 特に、江口所長から、現場の実態、現状に基づく非常に貴重な御意見をいただきました。さまざまな思いを、めぐらさせていただきました。本当にありがとうございます。

 それでは、何点か質問させていただきます。

 まず、上西公述人にお願いをしたいんですけれども、今回、毎月勤労統計、これは部分入れかえ方式に変わったということ、ただし、それは遡及して影響を及ぼさないということにしたわけですが、このことによって、どんな影響といいましょうか、課題、問題が考えられるか、教えていただけますか。

●上西公述人:

 まず、配付資料の11ページをごらんいただきたいんですけれども、この11ページは、2015年10月16日、第16回の経済財政諮問会議、こちらの方に麻生大臣が提出した資料(※1)で、真ん中のところに毎月勤労統計のグラフがありますけれども、サンプルを入れ替えると、その前のところですね、「遡及改訂により既発表値から下方修正」と書いてあります。
(※1)https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2015/1016/agenda.html
https://www.jiyu.co.jp/singo/

 サンプルを入れ替えると、入れ替えの後についても賃金が下振れ傾向になるんですけれども、それ以上に大きい問題が、過去にさかのぼって遡及改訂をすることによって、賃金が下振れをする。

 このことが、2015年の3月と2015年の9月に、官邸の介入があったのではないかという時の、一番大きな問題意識だったと思うんですね。

 今、国会の審議、やりとりを見ていますと、(厚生労働省の「毎月勤労統計の改善に関する検討会の」阿部(正浩)座長が日経新聞の取材に対して、記事(※2)になっていて、いや、サンプルを入れ替えても賃金が別に上がるとは限らないんだというような発言をされていて、それを引いて、安倍首相が、いや、サンプル入れ替えで、そんな、アベノミクスのために賃金を上振れさせるような意図はないんですよ、みたいなことを答弁されているんですけれども、問題はそこにあるのではなくて、むしろそれは何か問題を攪乱させるような答弁だなというふうに思うんですけれども、過去の賃金(水準)が遡及改訂によって実績として下がってしまう、値が下がってしまう(ことが問題だと意識されていたわけです)。
(※2)「官邸関与『精度向上が目的』 勤労統計の有識者検討会座長」日本経済新聞2019年2月21日) (https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41589210R20C19A2EE8000/)

 先ほども申し上げましたけれども、2015年の1月時点からサンプル入れ替えによって、2014年の10月、11月の名目賃金の伸びがプラスからマイナスに変わった、これが非常に大きな問題意識だったんだと思うんですね。そういうことがないようにしたい、過去の、せっかくあった実績が、無になってしまうような、そういうことがないようにしたいというのが、サンプルの全入れ替えと遡及改訂をやめたいと、いうことだったと思うんですね。

 2月の4日の小川淳也議員と麻生大臣のやりとりというのが非常に重要だと思っていまして、今、ご紹介した、経済財政諮問会議の、ここでの麻生大臣の発言というのは、いや、段差が起きるのが問題なんだ、だからこの段差を何とかしろという発言だというふうなことを答弁されたわけですけれども、でも、そのときに、段差があって、サンプル入れ替えで、上がったり下がったりするんだと、おっしゃいましたね。麻生大臣が。それに対して小川淳也議員が、いやいや、下がるんです、と。上がったり下がったりではなくて、必ず下がるんです、と。これまでの、景気のいい時も悪い時も、過去の実績を見たら、すべて下がっているんです、という風におっしゃった。

 それは非常に重要な指摘で、要するに、上がったり下がったりするから、より正確な、ではなくて、下がることに対する問題意識があったんですね。下がるということは、過去の実績が、フイになってしまうということ。

 だから、段差を単に滑らかにするだけだったら、別に過去を修正すればいいんですよ。補整をすればいい。だけれども、過去の補正によって、さかのぼりの修正によって、過去の実績が無になってしまわないためには、補正をしなくていい方式にしたい。そのためには、全入れ替えではなくて、部分入れ替えにして、より滑らかにしたい、というようなことが、2015年3月(と)、2015年9月の問題意識だったと思うんですね。

 これは、中江秘書官も姉崎部長も、同じようにそういう、プラスからマイナスにひっくり返ってしまうということに対する問題意識を語っていますし、安倍首相も、きのうまでの数字がいきなり変わるというようなことに問題意識を答弁されている。

 それは、要するに、過去の数字が変わるということなんですよ。だから、これからの数字をよくしたいではなくて、過去の数字が悪くならないようにしたい。

 ただし、そのときに重要なのは、厚生労働省の毎月勤労統計の検討会の議事録。私も全部理解したわけではないんですけれども、あれを見ていると、第5回の議論では、部分入れかえの方式も議論されているんだけれども、じゃ、部分入れ替えしたときのギャップ修正はどうするんだ、要するに補正はどうするんだという議論もしているんですね。部分入れ替えだから補正はしなくていいという議論ではないんですよ。

 で、結論のところでは、何か、第6回でいきなり変わって、部分入れ替えも検討するになっていますけれども、でも、だからといって補正をしなくていいという議論でもない。そういう結論も出ていないんですね。

 だから、部分入れ替えという選択肢が無理やり入れられて、結局のところ、2018年の1月から部分入れ替えにして、かつ、過去の補正をしないということになったんですけれども、これはどこかの過程でそういうふうに、専門家の検討なしに曲げられている可能性もあるんじゃないかなと思うんですね。

 私、統計委員会の方の議論をちょっと十分に追えていないので、そこはぜひ追及していただきたいと思うんですけれども。

 要は、今、安倍首相が、2015年のときの、そんなサンプルの入れ替えとかどうとか、そんないちいち細かいことは気にするわけないだろう、みたいな答弁をされているんですけれども、でも、過去の実績がプラスからマイナスに変わるということには、ものすごく問題意識があったはずで、これはアベノミクスのまさに弱点なわけですよね。

 この配付資料の中で13ページに、「三本の矢」の話を出してありますけれども(※3)、企業の業績の改善が賃金の増加につながる、そういう想定のもとに、まずは企業の業績のために、ということでいろいろな施策がとられてきたわけですけれども、企業がいかに利益を積み足していっても、それが賃金の方に回っていかない、内部留保ばかりが積み増していく。そういう状況に今、実際になっているわけで、そこをこれまで野党はずっと追及をしてきて、(安倍首相は)きちんと実績をもって答えられない状況になっている。
(※3):https://www.kantei.go.jp/jp/headline/seichosenryaku/sanbonnoya.html

 実績をもって答えられなくなっているから、その数字を曲げてしまおうというのが、今の状況だと思うんですよ。

 この13ページの上の方に、「成果、続々開花中!」というところ(※4)も、実はちょっとだましがあって、上の方に「実質GDP」と書いてあって、右の方に「実質民間最終消費支出」と書いてあるんだけれども、賃金だけ実質と書いていないですね。
(※4):https://www.kantei.go.jp/jp/headline/seichosenryaku/sanbonnoya.html

 「賃金引上げ」と書いてあって、これは午前中に明石弁護士が、名目の賃金が上がっても、物価上昇率がどんどん上がっているから、高いから、結局、実質賃金が下がっちゃっているんだということを指摘していましたけれども、そこの「不都合な事実」が巧妙に隠されているわけですよね。

 もう一つだけ。今、2015年にそういうことが変わったとしても、それが変わるのは2018年からだからと、そんなものはもう安倍政権の時代じゃないから、まあ、三選という制度がなかったから、だからそんなことをするわけないだろう、みたいな話だったんですけれども、でも、仮に三選がなくても、2018年にこのまま全取っ替えが継続していれば、2018年にもまた遡及改定というのがあって、過去の3年間の数字は下がっちゃうんですよ。

 だから、安倍政権の時代には実質賃金は上がらなかったね、という歴史が残ってしまう。そういうことは避けたかったんだと思うんですよね。

 だから、2018年のサンプル入れ替えに向けて、何とかそういうことが起きないようにというのが問題意識としてあって、だからこそ、そこに大きな介入があったのではないかと思います。

●逢坂委員:

 どうもありがとうございます。

 私は、今、日本の民主主義が非常に大きな危機を迎えていると思っています。それは、数年前から、公文書の改ざん、廃棄、隠蔽、捏造、こうしたことが、本当に信じられないことなんですけれども、行われているということ。

 それからもう一つ。国民の皆さんは、国会で、特に野党が何で繰り返し同じ質問をしているんだと、いらいらしていると思っているんですよ。でも、その背景にあるのは、実は国会の議論に必要な資料が出てこない。それからもう一つは、参考人、事実を知っている人がたくさんいるのに、その人を国会に出さない、こういうことが国会の議論を非常にわかりにくく、しかも同じことを繰り返し繰り返しやらなければならないような現実を招いているんだと思うんです。

 こうした国会で資料も出ないし、参考人も出ないというようなことは、多分、多くの国民の皆様はわからないことだと、私は思うんです。

 上西公述人からそのことを御指摘いただきましたけれども、残りのお三方から、こうした国会の現状についての認識、全然これは皆さんは、多分、もしかすると認識がないかもしれない。いや、そんなこと知りませんよという方もいるかもしれないし、ああ、そうだったんですかと思うかもしれないし、それほどひどいんですかというか、こうしたことに対する御自身のそれぞれの御認識というのを教えていただけますか。