Session-22 「悪質ブローカーが暗躍。外国人技能実習生の送り出す側・受け入れる側で今、何が行われているのか?」(出井康博・伊藤圭一・巣内尚子)2018年11月19日(書き起こし)

TBSラジオSession-22  2018年11月19日
悪質ブローカーが暗躍。外国人技能実習生の送り出す側・受け入れる側で今、何が行われているのか?▼出井康博×伊藤圭一×巣内尚子×荻上チキ▼2018年11月19日(月)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」平日22時~)
https://www.tbsradio.jp/315268
<スタジオ出演>
ジャーナリストの出井康博さん
全労連・労働法制局長の伊藤圭一さん
<電話出演>
ジャーナリストの巣内尚子さん

●南部広美 過酷な労働環境。暗躍する悪質ブローカー。外国人技能実習生をめぐって、送り出す側と受け入れる側で、今、何が行われているのか、その実態に迫る。
 外国人労働者の受け入れを拡大する入管法改正案の国会審議で、早期審議入りを目指す政府与党に対し、野党は技能実習制度の実態の把握などを要求。
 しかし、法務省が提出した外国人技能実習生の失踪に関する調査結果に誤りが判明したにも関わらず、衆議院法務委員会の質疑を欠席するなか、与党が審議を進めたため、自民党の葉梨法務委員長の解任決議案を提出しました。
 これを受け政府はきょう、失踪した外国人技能実習生に事情を聞き取った聴取票、合わせて2,870人分を法務委員会の理事に開示。仲介業者への多額の費用を借金でまかなったり、当初の説明より低い賃金しか支払われなかったりする事例などが多く、実習生を取り巻く過酷な状況が裏付けられた形となり、主要野党は、その実態は失踪ではなく緊急避難だとして、追及していく構えです。
 そこで今夜は、外国人技能実習生がどのように悲惨な労働環境に送られているのか、送り出し機関や国内の監理団体の実態に迫りたいと思います。

●荻上チキ 今夜は技能実習制度の実態について取り上げますが、ちょっと少しだけ今の国会の動きについて、簡単に触れておきます。
 今、国会で入管法改正案が出されています。これ入管法だけじゃなくて、複数の法律を束ねて変えるような部分があるわけですけれども、それらを変えることによって、実質上、技能実習制度を、より拡大するような内容になっているわけですね。
 しかしながら、現在の技能実習制度に大きな問題があるということは、いろんな報道でも出ている。その問題の根幹にあるのは、人権侵害。しっかりとした労働者として見ず、具体的な人権というものを様々に奪い、移動の自由もなければ、例えば賃金なども非常に劣悪で低い。もちろん労働環境が低い。そうした問題が指摘さているわけですね。
 そこで野党は、現場の技能実習制度の中で劣悪な環境で働かざるを得なかった人たちに対するヒアリング票、それを出してくれということを、再三要求していました。
 政府は何度も、それは出したくないというような趣旨のことをしゃべっていました。なぜならばそれを出すと、これから新たに失踪するときのヒントになるかもしれない、であるとか、個人情報に関わるから、であるとか、そういう風なことをいろいろ言っていたんですが、結局は、ゆっくり、ちょっとずつ出して、今、ようやくヒアリングの具体的な中身が出てきたということになります。
 その過程の中で、まずデータの、もうこれなんでしょうね、ミスだという説明してるんですけれども、事実と違う誤データ、誤ったデータというのが出されていて、そのデータでこれまで何年間も国会での質問に答えてきていたわけですから、いろんな議論の根幹がまず揺らぎました。
 そして今回出された具体的なヒアリングシートなどを見ても、今の現状の問題を解決しなければ、これからの具体的な法改正は難しいじゃないか、そうしたことを野党が追及していると。そういったタイミングなんですね。その外国人技能実習制度、一体どういうような形になっているのかを考えていきたいと思います。

●南部広美 では今夜のゲストをご紹介します。ジャーナリストで『ルポ・ニッポン絶望工場』などの著書がある出井康博さんです。よろしくお願い致します。

●荻上チキ 出井さんはこの外国人労働者、そして技能実習制度、この問題についてどういった取材、今なさっているんでしょうか。

●出井康博 もう私、10年以上、この外国人労働者ということで取材をしてきているんですけども、先日もベトナムに行ってきたばかりではあるんですけども、実習生の取材というのもやってるんですけども、最近はどちらかというと留学生問題というのをむしろ取材をしています。

●荻上チキ この留学生というのも、例えば日本の日本語学校に行ってきて、その後、今度は日本の大学に入ろうとして、その間また、前借金などを返すために働いていなきゃいけなくて。いろんな課題があります。

●出井康博 そうですね。多額の借金を実習生以上にですね、借金を背負ってくるわけですね。学費の分ということで。まあ出稼ぎを目的に来るということで、実習生以上にひどい状況に置かれているということで、私は今日のテーマとは少しずれてしまうかもしれないんですが、どちらかというと最近、留学生問題やってます。これは新聞・テレビではやらないことなんで。

●荻上チキ ただ、リンクする問題ですし。

●出井康博 ええ、同じですね。

●荻上チキ あと留学制度の方は、そちらの方で入ってくると、労働時間が非常に短く制限はされているものの、実際の状況はどうなのかというと様々な、そこは問題が。

●出井康博 ひどいですね。週28時間までしか法律上は働けないんですけどね。週28時間で働いてても、まあ生活はできるんですね。ただ借金を、これ100万、150万という借金を背負ってきていますので。日本に来るために。これ、28時間で働いても返せないんですよね。
 当初、日本語学校に入って、2年間過ごすわけで、日本学校は2年までなんで、2年間いるんですけれども、その間でその借金が返せないんですよ。だからその後、専門学校なり大学に入って行く、と。
 専門学校や大学っていうとですね、なにか試験があって大変なようなイメージも持つんですけども、私立大学でもですね、4割、5割、定員割れしてるんですよね。学生が欲しいんです。もう全く日本語なんか出来なくてもですね、来てくださいと。学費だけ払ったら来てくださいということで、ビザを更新して働き続けるという酷い状況の留学生。いま、数でいうとですね、実習生より多いんですよね。
 ということで、今、留学生ですね。中心にやっているのは。

●荻上チキ その留学制度もまた、日本の教育業界やブローカーや様々なものが一つの連帯というかつながり、紐帯を作りながら生み出している問題。根深い問題ですね。

●出井康博 おっしゃる通りですね。もう一つ言うと、人手不足の企業もそこに入っているということですね。

●荻上チキ だから技能実習制度では扱えないような業態の分野が、留学生ならば働けるということで、利用ているというような状況があり、で実際にいくつかの業界は留学生の労働時間、週の28時間の上限を、もっと上げてくれという要望も国会にしていますよね。

●出井康博 おっしゃる通りですね。もう本当に本末転倒もいいところであって、ひどい話だと思います。

●荻上チキ この留学生。以前もやりましたけど、またはいずれ、しっかりやりますので。今日は出井さん、技能実習制度も、よろしくお願いします。

●南部広美 もうひとかた。全国労働組合総連合(全労連)雇用・労働法制局長の伊藤圭一さんです。よろしくお願いします。

●荻上チキ 伊藤さんはこの技能実習制度の問題で、悪質なブローカーの事例なども多くご存知だということですけれど、そもそもやはりこういった労働組合として活動していると、相談事例としてもやはり来るということなんでしょうね。

●伊藤圭一 そうですね。全労連では熊本の2007年、とても有名な縫製下請け企業の研修生の、裁判闘争までやって勝った事例があるんですけれども、その頃からいろいろシェルターも使って救っていくようなことはやってきたわけですね。
 今も実習生からの相談というのはたくさんあって。ただ、私自身がそれにて長けているというよりも、その相談に非常に長けた、うちの地方組織のメンバーですとか、そういう相談対応の人たちの話をこちらで取りまとめて、時には一緒に行って話を聞いて、というようなことをしている感じですね。

●荻上チキ これ技能実習生の方々。例えば組合を作るって難しいでしょうし、ましてや・・・。

●伊藤圭一 組合作ろうとしたらですね、ものすごい勢いでそこはもう言ってきますよ。もう、あることないこと言ってですね、日本のユニオンってのは恐ろしいところだと、もう生涯食いつぶされるぞ、と。会社と一緒にお前も酷い目にあうぞ、みたいな脅しをかけてですね、本当にすごいことやりますよ。

●荻上チキ 自分たちがしていることを投影して語っているんですかね。

●伊藤圭一 あるかもしれません。とにかく怖がらせて、絶対、接点を持たさないようにしますね。でも本当に酷い目にあっている彼らは、意を決して相談に来る、と。そこまで脅されて、なおかつ相談に来る、あるいは失踪してしまうというのは、よほどの耐えかねる事情があるというふうに、むしろ考えた方がいいですよね。

●荻上チキ だから逆に言えばそういった相談機会に一切アプローチできていない人も、圧倒的に多いので、そうした状況を想像しながら考えなくてはいけないということですね。
 では今日はですね、外国人技能実習生。どういった流れで日本にやってきて、そこでどんな労働実態があるのかということを、それぞれ考えていきたいと思います。
 まずは、そもそも実習生たちが日本にやってくる過程の話。出井さん、先ほどベトナムに取材に最近、行ってきましたという話がありました。ベトナムと言えば、今はもう最大級の日本への送り出し国ということになっていますけども。そもそも実習生たちは、どのようなプロセスで日本にやって来るんですか。

●出井康博 まあ出稼ぎということなんですけれども。先ほど申し上げたように、出稼ぎには2つのルートがあると。一つは留学、もう一つは実習ということで。ベトナムの送り出し業者がやってるんですよね。
 これは政府の資料なんか見ても、または新聞を見てもですね、送り出し機関という言い方を、これ使うんですよね。

●荻上チキ 今、手元にパワーポイントがあります。これ政府資料ですけれどね。送り出し機関。

●出井康博 これ機関と言うとですね、日本側のこれから伊藤さんのお話もあるんだと思いますけども、監理団体っていうのも同じなんですけどもね、監理団体だとか送り出し機関というと、さも公的なイメージのところがやっているように、まじめにね、政府に関係しているようなところがやっているようなイメージなんですけども。

●荻上チキ 「実習センター〇〇」とか。

●出井康博 いや、これもう、ただの送り出し事業者というか、ブローカー。エージェントというか、民間の人材斡旋業者ということですよね。
 そこが今、現地の若者をリクルートして、日本に送り出すと。で、その受け入れ先となるのが監理団体ということですね。

●荻上チキ なるほど。この送り出し機関、要はブローカーということなんですけれども、ブローカーになるには例えば資格であるとか、そうしたものはいるんですか。

●出井康博 国によってということになるんですけど、例えばベトナムであればですね、登録ということで、アジアの国はそういうパターンが多いですよね。政府に登録してウチはやってますよという、一応届出だけは出す、ということで。
 ただまあ、それで別にはねられるとか、どうこうっていうんじゃない。だいたい賄賂を払って。それを手数料というのか、賄賂というのか、微妙なところですけど。それで登録して日本へ送り出すということですね。

●荻上チキ その際ブローカーは、どのようにして労働者たちをかき集めるんでしょうか。

●出井康博 これがですね、私もまあ現地に行くと面白いなと思うんですけども、人づてなんですよね。例えば日本で人を集めるんであれば、インターネットに広告を出すとか、求人情報雑誌に出すとか、そういうイメージだと思うんですけどね。私なんかが回った、送り出し機関って言いますけども、そういうところは人づてですね。例えばもうすでに、そこにいる子の田舎の、ここの同級生だとか、そういうレベルで人づて集めるパターンというのが非常に多いですよね。

●荻上チキ 誰の同級生?

●出井康博 そこに既に来ている子の同級生を連れてくるとか、同じ村の仕事にあぶれちゃって何もすることがないぶらぶらしている兄ちゃんを、じゃあウチのセンターに来ないかといって集めるというパターンが多いですよ。

●荻上チキ 既に技能実習制度に行こうとしている人のデータベースをもらってで、そこからさらに紐づける、と。

●出井康博 やっぱり人づてのコミュニティっていうのは、やっぱりベトナムに限らず、アジアの途上国、新興国っていうのは多いんじゃないですかね。

●荻上チキ またそうやってその実際の友人から、「今からこうやって日本に行こうと思ってるんだけど、どうも、うまい話らしいよ」って言う、まだ行かない段階でいい話をされれば、確かに説得力が出てきますね。

●出井康博 そうですね。で、その集めたお兄ちゃんも、送り出し機関から「おお、お前、よく集めたな」ということで、いくばくかのフィーをですね、キックバックをもらうという社会ですよね。

●荻上チキ 当然ながらの女性の技能実習生もいますので、それもまた同じく口コミで。

●出井康博 同じですね。口コミなんじゃないですかね。一番、多いのは。

●荻上チキ そういう仕方で人を集める。そのブローカーたちは、どのようにして儲かるようになってるんですか。

●出井康博 日本に行く子から手数料を取るということですよね。かつてであれば、日本側の受け入れの監理団体の方からもお金が入ったという話もあるんですけれども、最近は私、今回ベトナムに行って聞いたのは、むしろ逆ですね。受け入れてくれたらですね、8万円、10万円、監理団体の方に払いますよ、というパターンも出てきている。だから非常にちょっと複雑なんですけれどもね。
 だから、行く子から手数料を取ると。で、もう一つは実際に日本に送った後に、監理団体を通して、受け入れ先の農家ですとか企業に入って働くようになるわけですけれども、その後にも管理費ということで、送り出しの機関、会社の方にも、まあ毎月いくばくか、それは例えば1万円だとか2万円だとかっていうのが定期的に入るということですね。

●荻上チキ なるほど。ということは、この前データとして出されたんですけれども、実はこれ国会でね、(月額給与)10万円以下の人が半数近くの技能実習生の状況の中で、さらに家賃とか天引きされる人が多数いる中で、さらにプラス、ブローカーたちに取られているという実態が、まずあるというですね。
 そのブローカーなんですけれども、実際その送り出す前に、技能実習生たちには何かしら例えば教育であるとかレクチャーであるとか、そうしたノウハウっていうの伝えるんでしょうか。

●出井康博 一応ですね、JITCO(ジツコ)(公益財団法人 国際研修協力機構)というですね、実習生を統括する機関があって、そこの規定で一応、200時間ですかね、事前に1ヶ月、3ヶ月かけて、日本語は勉強してくださいよという決まりはありますけどね。送り出しの方で、事前に来日前に、少なくとも日本語は200時間はやってくださいよという、決まりはあります。

●荻上チキ そこで実際に日本語などを勉強して、日本で働けるような能力を身につけようということで、その段階では、日本に来ようという技能実習生は、一生懸命勉強する方が多いということになるんでしょうか。

●出井康博 そうですね。来る子はね、別に罪はなくて、一生懸命勉強するんですけれども、すでにこちらの番組もやられたかと思うんですけど、その実習制度の決まりとして、母国でやっていたのと同じ仕事を、日本に来てやって、その技能を高めるという決まりになっているので、複雑なんですよ。
 例えば実習の・・・ただ実際には、これ、母国でやってたのと同じ仕事をする子なんていないわけですよ。

●荻上チキ 例えば除染とか、ね。最近、話題になってますけれども。

●伊藤圭一 そもそも実習計画上、除染は対象外ですから、あれ、違法ですから。

●出井康博 例えば私もこれ、取材しましたけども、北海道の端っこでホタテの殻むきをずっとやってる中国人の女の子の取材したんですけどね。中国の山ん中から来てるんですよね。海のない場所から来て海辺で働いているような、もう本当にブラックジョークみたいな世界が展開してるんですよ。
 だからそういうのも結局、書類上やっぱりきちんと書類だけは、整えなきゃ、きれいにやらなきゃダメなので、そこでもまたお金が派生して、「ちょっと書類作るから、もうちょっとお金払いなさいよ」ということになっちゃうんですよ。

●荻上チキ そうしたノウハウをブローカーが持っていて、教育の部分と書類の部分と、あと送り出し先の、具体的なマッチングを行っていくということをやると。だから労働したいという側にとっては、お金を払ってでも、日本行く。それに対して払って日本に行くと、「あれ、違うな」っていうことが、また先に生じていくということになるわけですね。

●出井康博 そうですね。かつてはトヨタの最新の工場のビデオを見せて、 「あなたたちはここへいくんですよ、働くんですよ」なんつって騙して、じゃあ日本に連れてきたらもうトヨタの孫請け、さらに四次請け、五次請けの工場で働かせるというようなパターンがあったんですけども、最近はさすがにそこまではなくて、最近は、来る子達もだいたいわかって、こんなもんだということで来るんじゃないかと思います。

●荻上チキ なるほど。それでも絶望するぐらいの労働状況ではあるわけですよね。さて、ブローカー、送り出し側の話を伺っているところですけれども、リスナーの方からこんなメールをいただきました。

●南部広美 ペンネーム、〇〇さんですね。
 私は2年前、ベトナムの送り出し機関に関係する日本語学校で、技能実習生や技術者の人たちに日本語を教えていました。そこでは軍事訓練という名前で、集団訓練などを行い、生徒たちの人権侵害ではないかと思われるようなことが日常的に行われていました。
 私はボランティアということで賃金はありませんでしたが、1週間20時間の授業以外に、朝8時から夕方4時まで、狭い机に縛り付けられていました。 生徒だけではなく、そこで働く日本人ボランティアに対しても、人権侵害に思えるようなことが行われていました。疲れた時など休むベッドもなくて、学校内のアパートに戻って休もうとすると、注意されたりしました。そこで学校の責任者と話し合いを持ちましたが、最終的には帰国を勧告され、予定より1カ月以上早く、帰らざるをえませんでした。
 帰国後、弁護士に相談をして、その日本語学校を経営する企業に対して、未払賃金等、損害賠償請求訴訟を起こしました。今も係争中です。帰国後、ベトナムで教えた人で現在日本に働きに来ている人の様々な相談に乗っています。「残業手当がまともに支払われない」「上司が鬼のようだ」「突然、休業日が勤務日になり、その代休もない」「疲れきって頭がふらふらになり、ベトナムにもう帰りたい」「アパートをなかなか借りることができない」「家族を呼び寄せたいが、大変だ」などなど、実習生だけでなく、技術者として来日している人も苦しんでいます。
 日本語学校は、生徒だけではなく、そこで働く人にも苦痛を与えている場合があります。そこで働くベトナム人も、病気をしてもあまり休めない感じです。
 生徒1人50万円ほど徴収して、ハノイだけで1000人以上、ハノイ以外に、ダナン、ホーチミンなどベトナム各地で日本語学校を経営している企業が、ボランティアと称して中高年の日本人をただ働きさせている現状も、大問題だと思います。

●荻上チキ 日本人からも搾取しているんですね。日本人からも搾取して、タダで教えさせて、人権侵害で、なおかつそこで勉強している技能実習生たちにも、とにかく長時間勉強をさせて、休みもなし。これ、これだけ長時間勉強させるというのはどうなんですかね。まずは短時間で、早く200時間のノルマを達成したいということなんですか。

●出井康博 今、「軍隊式」という話がありましたけどね。私が今回、8月ですけどね、何件か送り出し機関をまわっててですね。やっぱり同じようなところがあったんですよ。というかね、大体そうなんですよ。こうベッドが、二段ベッドが、ダーッと、もう1部屋に並んでて、軍隊式でぴしっとシーツだとか枕とか自分の持ち物だとか、揃えてあるようなですね。「うちは軍隊式でやってますよ」と。「だからしっかり教育しているんですよ」というようなですね、アピールをしているところがありましたよね。

●荻上チキ そういうふうにやることで、どんなメリットがこれはブローカーにもあるんですか?

●出井康博 日本の受け入れ先へのアピールだと思いますよ。「ちゃんとやってる、ちゃんとこうやってるので」。

●南部広美 いい人材が、と。

●荻上チキ もう、従順な奴隷ですね。

●出井康博 そうですね。「受け入れてください」と。もう一つ言うとですね。今、確かに悲惨なケースだと思うんですけども、ひとつ言うと、送り出しの方にも日本人が関わっているというのは、非常によくあるパターンです。日本語学校なり向こうでですが、日本語学校を、送り出しをやってるところには、日本人が絡んでるっていうのは非常に良くあります。

●荻上チキ 向こうのブローカーで日本人が絡んでいて、そこにボランティアでやって来る日本人からすら搾取をして、という構造。もう1通、メールいただけました。

●南部広美 ラジオネーム〇〇さんです。
 私は2年前、ベトナムの技能実習生送り出し機関で、半年ほど日本語教師として働いていました。そこでは、主に建築系の実習生が、200人ほど日本語センター内の寮で共同生活をしていました。

 当時から技能実習生の逃亡・失踪は問題になっていたと思いますが、センターで行われていた朝礼では、毎朝実習生全員が「逃亡をしない」と唱和させられていました。
 また時おり本社から日本人の社員が来ては、実習生たちに「お前ら、逃亡だけはするんじゃねえぞ」と何度も話していました。
 現地の送り出し機関からしたら、実習生が逃亡したら、日本の企業からの信頼を失って仕事が減るから、実習生たちを洗脳しようとしているんでしょうが、もちろん、逃亡したくて逃亡しようとしている実習生はおらず、賃金などの待遇面があまりにもひどいという背景があるからこそでしょう。
 希望を持ってやってきた実習生や留学生たちが、不当な扱いを受けずに日本で生活できるようになれば良いのですが。
 そして日本の企業だけでなく、悪質な送り出し機関や実習生監理団体も存在していると思うので、そこも取り締まりをしっかりしていくべきだと思います。

●荻上チキ 日本から企業が来て、「これから受け入れるんだから逃げんなよ」っていう風に言うっていうのは。これはもう、自分たちの労働環境の劣悪さを前提とした行為だということになりますよね。

●出井康博 そうですね。そうなんですけども。やっぱり、そこまでしても日本に行きたい子が多いんだということも、あると思いますね。

●荻上チキ なるほど。さて、これが送り出し機関と政府が言っているブローカーの実態なんですけれども、一方で今度は、日本では受け入れる監理団体というものがあるわけですね。伊藤さん、この監理団体というのは、どういった役割を担っているんでしょうか。

●伊藤圭一 基本は送り出し機関と話の調整をして、彼らが学びたいと思う職種・業務について、適切に受け入れてくれる企業ですね、これ実習実施機関っていう言い方をしますけども、いわゆる受け入れ企業なんですけどもね、そことのマッチングをしてあげる、と。加えて、通訳をしてあげたり、いろんな日本での慣れない生活をサポートしてあげるということが、監理団体には求められていて。
 以前はですね、ほんとに要件もいい加減だったものですから、これは本当に人権侵害が横行しているというのは批判を受けて、16年の法改正、2017年11月(施行)ですから、もう技能実習法ができて、本当に1年ちょっとなんですけども、ここにおいてようやくその許可制で、監理団体はちゃんと国も見ると。酷いことがあれば許可の取り消しもあるよということで、今、「機構(外国人技能実習機構)」というところがですね、ちゃんと見張っているような感じになってるんですね。

●荻上チキ この監理団体というのは、まずは、なろうと思えばなれるわけですよね。

●伊藤圭一 これは、なれますね。これも先ほどのお話になった通り、書類審査が基本なので、そこで暴力団でないことだとかそんな要件はありますけど、暴力団ですって紙に書いて出す人いませんから、まぁ大抵のことは通ってしまいますね。

●荻上チキ これ、許可制だというのは、免許制じゃないということは一つポイントですか。

●伊藤圭一 許可ということは、一応、禁止していることを排除するっていうのが、法律上の建前があるので、一応、超簡単にはできないけど、許可をとってできるよというふうなぐらいに厳しくしたというのが、まあ技能実習法の、以前の入管法だけで位置づけられた技能実習制度と、今回で違うよ、ということにはなっているんですけど。
 だけど本当にそれできれいに監理団体がちゃんとしてるかというと、おそらくそんなことはなくて、私もつい最近、監理団体の顧問という方が、珍しいんですけれども、相談だと来られて、お話を聞いたら、あまりにその責任者がひどすぎると。要は、受け入れ企業がですね、「こういう人が欲しい」と言うと、本来、例えば建設機械の操作を学ぶために来ている人たちを、産廃の業者の方が人手不足だといえば、もう産廃のところに送り込んでですね、日々その産業廃棄物の手仕分けを、ずっとしているというわけですよ。これ、もう完全に違法行為なんですよね。
 他にも残業代未払いだとか、いろんな労働法令違反も、これも満載だというのは、本当に事実であり、国が発表している通りなんですけども、そうした時に本当は監理団体は、そんなことをさせちゃいけませんし、きちんと通告してですね、場合によってはそこを引き上げるということをしないといけないんですけども、まあ、させているわけですね。要は受け入れ企業からお金もらってますから、受け入れ企業としては渡航費用を含めて、相当なお金を払っていて、監理団体、送り出し機関というのは、受け入れ企業からの多額のお金プラス、実習生自体からもお金を取って、半ば二重取りしているような形で、お金を儲けているという風に言って良いと思いますけれども、監理団体、その中で本当に人を、なんでしょうね、人材ビジネスがそのままやっているようなところもあるんですね。

 最近あるのは、監理団体の役員の中に、実際は派遣会社をやっている方が、看板を買い取って、理事に自分が滑り込んで、お金で監理団体を運営する主体になっているというのが結構あるんですね。
 で、本当に最近のひどい例でいうと、ある留学生がですね、身に覚えのないアルバイト、非常に仕事をたくさんしたということで、国税庁から何か言われたと。要は、週28時間で年間300万も儲かるわけがないという話で、「おかしいじゃないか」と言ってきたら、実はその留学生は、名前を使われていたんですね。誰に使われていたかというと、その失踪者が働くときに、その留学生の名前で派遣されてた、と。どうも見ていくと、その派遣していた派遣会社は、いわゆるその監理団体をやっているところと同じ1枚看板で、同じ事務所でやっているような派遣会社がやっているわけですよ。
 要は、失踪、ひどい状況に耐えかねて失踪したと。失踪するというのは本当に、在留資格を失う恐ろしいことなので、そんな簡単に仕事を探して、見つかっても大変だという時に、留学生の名前を借りて、他の人を欲しがっているところに送り込むというようなことすらやっている。

●荻上チキ これ、悪質ですね。違法ではないんですか。

●伊藤圭一 違法ですよ。ですが、これをですね、入管、これはもう労働法令違反じゃないので、法務省のマターになりますけど、やるとですね、要は失踪した労働者だけ、外国人労働者の方だけが、違法行為をしたととがめられて。

●荻上チキ 不法就労だそうです。

●伊藤圭一 で、その業者の方に行かないんですね。本当にね、酷い事例がいっぱいありますけど、監理団体の。だけど、それで彼らは本当にお取り潰しになっただとか、許可の取り下げになったなんてことは、ないんですよ。

●南部広美 え・・全部、個人の責任になる・・・。

●伊藤圭一 受け入れ計画は、取り下げになるので、しばらく受け入れできないとか、そういうことにはなるんですけど、彼らは本業で派遣業をやってたり、このあいだ聞いた事例では、支部みたいなものをいくつも持ってて、一つが受け入れて停止になっても、ほかのところでやればいいっていう形で、それで生き延びてきますよね。

●荻上チキ 監理団体は、建前上は、どういうことを技能実習生に対して行い、どういったことを企業に対して、例えば指導とか、いや、それはやめてくださいとかっていうことを、しなきゃいけないようにはなっているんですか。

●伊藤圭一 基本がそれは実習法ができて以降はですね、人権侵害がダメということになっているので。
 例えば先ほど家賃の話があるんですけどね、家賃を適正な市場単価で徴収するということになってるんですけども、実際には一軒家を、例えば10万で貸してもですね、何人も放り込んで一人から何万円も取れば、それだけでピンハネでできるわけですね。そういうことをやってしまっているような事例を、本当はやっちゃいけないんだとか、そういうことを正していくのは、監理団体の役目ですよね。
 柔軟に実習計画に沿った実習が、受ける企業で行われているかということを、きちんと見ていくっていうのが、監理団体の本来の仕事です。

●荻上チキ この監理団体は、日本の監理団体はこれ、民間ということになるんですか。

●伊藤圭一 そうですね。

●荻上チキ で、監理団体として登録した人が、その管理の役割を担うと。

●伊藤圭一 監理責任者っていうのがいて、そこには通訳者だとか、それから外部からの監査も必要だということで、顧問を雇ってとか、そういう形式だけは一応、整ってるんですね。ところが、先ほどの顧問がわざわざ相談したっていうくらい、中がひどすぎて、しかもその顧問も顧問料を払われてないっていう、自分自身の未払いもあったっていう、そんなガタガタな団体がですね、許可されてるんですよ。

●荻上チキ いい人だから引き受けてみたものの、中身ひどいからということでSOS。

●伊藤圭一 最初の哲学は、いいんですよね。国際貢献のために技能実習生は海外との交流をとか、いろんなきれいなこと言って、実際、中身が全然違うと、そんなような相談ですよね。

●荻上チキ なるほど。例えば少し前に、技能実習制度の問題。最近でこそ人権侵害だということでクローズアップされるようになりましたが、少し前、監理団体に入っていくドキュメンタリーみたいなのが何本かあったんですね。その時には、監理団体の人たちが、失踪した、失踪って、緊急避難ですね、緊急避難をした実習生たちを連れ戻しに行くというようなことをしていたんですが、それは監理団体の役割なんですか。

●伊藤圭一 いや、本来であれば、失踪した人を保護して、適正な実習先を探す。要するに、実習生は、自ら使用者を選ぶことができず、非常に弱い立場にありますから、実習先があまりに酷くて、暴力沙汰なんて本当にざらですから、そういうところはやっぱり不適切だということで、送り出し機関とも調整して、新たな受け入れ企業、まともな所を探すのが本来の役目ですよね。
 ところがその失踪した人、本当に例えばセンターで我々はかくまっていても、連れ戻しに来るわけですよ。寝込みを襲って。パスポートだって本当は取り上げて、逃げられなくするんですけど、なんとかパスポートを持って逃げてきても、とにかく連れ戻しにきますよね。
 で、戻しに来たら、新しい受け入れ先を、本人たちの希望、もちろんの借金も背負ってますから、まず働きたいわけですが、だけど失踪したことをもって、違法行為だ、と。在留資格を失ったということで、強制帰国に持って行ってしまうことで、自分たちのやった悪いことが見えなくするっていうことを、彼らはやってしまっているケースが多いんじゃないでしょうかね。

●荻上チキ 伊藤さんたちがこうやって組合で相談して、その後シェルターで身を守っているんだけど、そこにこっそりやってきて、連れて帰ったりとかっていうことになるんですか。

●伊藤圭一 そういうこともあります。組合の事務所に泊まらせるケースがあるんですけども、やっぱり気をつけてないとですね、本当に連れ戻しに来ます。これは徳島でも本当にそういう事例があったし、そこを何とか守って、労働基準監督官もですね、不払い残業だとか未払賃金その他含めて、これもう正式にやろうって腹をくくってもらった時にですね、今度は、送り出し機関から連絡があって、「妹さんを誘拐した」と。「家族の命が惜しかったら、取り消せ」みたいな、そういう話が、送り出し機関からくるんですよ。

●荻上チキ ブローカーの方から。結託しているわけですね。

●伊藤圭一 そうですね。とにかくそういう違法行為を行ったことを、公的な機関が介入して明らかにしようとしたら、それが現地にも行って、彼らはやっぱり現地の家族を人質にとられたら、本当に取り下げます、と。取り下げてくれ、というような話になってしまって。

●荻上チキ ブローカーも、自分たちが、要は(評判が?)傷つくと、新しくいる労働者を囲い込めないから、誘拐までする。

●伊藤圭一 優良監理団体になりたいわけですよ。できるだけ長期に彼らをやって、1年、2年で、さらに5年っていうような、長い期間での実習計画を取りたいので、(評判)傷つけたくないんですよ。

●荻上チキ なるほど。話を聞けば聞くほど、出井さん、「フルスペックの人身売買」だと思うんですけれども。

●出井康博 荻上さんの今、お話があった、ご覧になったドキュメンタリーっていうのは、 NHKのクローズアップ現代だと思うんですね。

●荻上チキ そうです。

●出井康博 それは私、批判記事、書いたんですけども、アイム・ジャパンという大きなですね、これ監理団体なんですけどね。そこにNHKが潜入取材したということだったんですけど、本当に茶番でですね。本当にもう、どうしようもない番組でした。その団体自体がピンハネしているわけですから、そこに密着して潜入して実習生を取り返しなんてほんとね、とんでもないドキュメンタリーですよね。

●荻上チキ そういったようなタイプの「報道」、カッコつきの「報道」ですよ。っていうのは、これからいろいろ、入管からリークとかもろもろ増えていくと思いますが、ではさらによりこの技能実習制度の実態に迫っていきたいとます。

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●荻上チキ さて、送り出す側と受け入れる側で、今、何が行われているのか。人権侵害だということは分かっていたんですけれども。その言葉でくくることのできないぐらいですね、異常な事態というものが蔓延しているという話を伺いました。
 後半はですね、さらに、技能実習生の送り出し機関を取材する方にお話しを伺いたいと思います。ジャーナリストの巣内尚子さんにお電話、繋がっております。巣内さん、こんばんは。巣内さんは今、どちらにいらっしゃるんでしょうか。

●巣内尚子 今は、カナダのケベック州というところにいます。

●荻上チキ 今はケベック州で、研究をされていらっしゃるという事ですか。

●巣内尚子 そうですね。もともと私は、ベトナムとインドネシア、フィリピンという、移住労働者の送り出し国で、記者やライターとして仕事をしていたんですけど、ベトナムからの移住労働を研究したいと思っていまして、日本の大学院で最初、勉強したんですね。その後、昨年からですね、カナダの大学に来まして、こちらで研究をしています。

●荻上チキ その巣内さんにお伺いしたいんですけれども、この技能実習生の中に、ベトナム人、今、かなり多い状況ですよね。そのベトナムの技能実習生の方々が、どういった送り出し機関での教育研修というものを行っているのか。いかがでしょうか。

●巣内尚子 先ほどもお話にあったような形で、なぜか軍隊式の訓練が取り入れられている送り出している機関もあるんですけれども、だいたいあの往々にしてやっていることは何かというと、日本語の学習なんですね。技能実習生の方に、来日前の第二外国語の学習歴というのも聞いてるんですけれども、ほぼ100パーセントぐらいの割合でも、送り出し機関の研修センターに入るまでに、日本語を勉強した経験っていうのは、皆さん、ないんですね。
 ですから研修センターに入ってですね、ほぼゼロの段階から「あいうえお」の「あ」というか、50音のところから、日本語を学ぶということになります。
 同時に行われているのが、そんなに時間はないんですけれども、日本の製造業のスローガンというか「5S」ってありますよね、それとか日本の文化ですとか、そういうものも学ぶということになりますね。

●荻上チキ ある種、日本の企業風土みたいなものを学ぶということになるわけですか。

●巣内尚子 おっしゃる通りで、先ほど軍隊式のトレーニングを取り入れている所があるっていうことですけど、本当にそういう仕方をして、命令に従順に従うような、そういう労働者を作るような、そういう仕組みがあるんですね。

●荻上チキ 先ほどお話しいただいた、例えば「5S」。これは「整理整頓」、それから「清掃」と「清潔」と、あと「しつけ」ですよね。日本でこれが言われるときは、なんていうんでしょうね、いろんな解釈があると思うんですけれども、ま「5S」っていう企業ってあんまり良い評判、僕の中ではないんですが、送り出し機関、つまりブローカーが言う「5S」っていうのはどういうバージョンなんですか。

●巣内尚子 これはもう、これに従うことが、日本の近代的な働き方と企業風土とか、そういうものを身に着ける、非常に良いこととして教えられていますよね。

●荻上チキ なるほど。社員が例えば掃除をすることや、しつけですね、しつけること。(それが)日本企業の風土だ、というふうにブローカーが教えていると。

●巣内尚子 そうです。ですから例えば、私が訪問したことがある、ある研修センターなんですけれども、私が教室に入った瞬間に、そこにいた日本語の授業を受けていた学生さんが、皆さん、いきなりこう、立ち上がったんですよ。それで直立不動で、非常に大きな声で、私は先生でもなんでもないんですけども、ただ行っただけなんですが、「先生、おはようございます」と。もう、おなかの中から絞り出すような声で、こう挨拶して、こう直角になるような感じのお辞儀です。あれをやらせていたんですね。
 で、その研修センターでは、何が軍隊式なのかというと、例えば寮に持ち込める私物の数が限定をされている。携帯電話を使えるのが、寮のベッドがある寝室だけで、教室には絶対、持ち込めない、とか。また歯ブラシや石鹸ありますよね、ああいった私物も、置く場所が全部決まっていて、1ミリでもずれてしまえば、怒られるわけですね。

●荻上チキ 「ミリ」ですか?

●巣内尚子 そうです。そういうミリ単位でずれたら、本当に怒られるという形で、すごく規則正しく生活することが、求められてるんですよね。
 で、もしそういうその規則に反することになれば、どうなるかというと、これから働きに行く日本の会社、実習の企業ですけども、そこに対してですね、「あなたはちゃんとやっていないということを企業に言いますよ」というふうにして、脅すんですね。
 それによって、これから日本人に行こうとしている人が、日本に働きにやっぱり行きたいわけです。どうしても。ですから働きにいけないと困るので、そういう規則に従っていくと、いうことになりますね。

●荻上チキ ということはもう、ブローカーの段階から日本に来てまで、もう、端からは端までもう、ずっと何かを人質に取られているような状況ということになるわけですね。

●巣内尚子 そうですね。他方でですね、送り出し機関の研修の内容を取材していて、私が思っていることですが、労働者としての権利を守るような、そういう発想を抱かせるような教育が不十分なのではないかなと思ってるんです。
 技能実習生の方、みなさんこうお話を聞いていると、日本のですね、監理団体とか送り出し機関の連絡先とかコンタクトパスの情報があることは結構あるんですけども、例えば技能実習生を日本で支援をしている労働組合であるとか、あるいは労基署とかですね、そういった組織の具体的な情報とか、そういった組織がどういうふうに技能実習生を支援してくれているのか、みたいなことは、もう、誰も知らないんですね。
 ですから送り出す前に、労働者が海外に働きに行くというのは、別に技能実習生に限らずですね、移住労働においてはいろんなリスクがやっぱりありますので、労働者が自分の権利を守るために、渡航前に教育をするっていうことが可能性として、あるわけですよね。
 ですけれども、本来はあるべきですし、私はとても必要だと思うんですけども、技能実習生にお話を聞いてても、労働組合の仕組みを知らないですよね。労働組合って何だろうから始まるんですね。
 で、ベトナムは労働組合というのもですね、唯一のナショナルセンターがベトナム労働総同盟という国の機関なんですね。そういう事情もあって、労働運動とか社会運動なんかも、他の、たとえばフィリピンとかに比べると、そこまで市民が一生懸命やっているというか感じが、ないわけです。言論統制ですとか、そういった状況がありますので、デモとか集会って、禁止なんですね。
 そういうところから来ている人たちが、国境を越えて移住労働に行くのであれば、やっぱり労働者としての意識を持たせてあげるとか、労働組合って何だろうとかですね、事前に教えることっていうのは、とても有意義だと思いますが、そういうことをですね、してもらったという話は、聞かないですね。

●荻上チキ それはもう、だからこそ、日本の受入企業などは、喜んでそうした人を呼びたいという形に作られているということでわけですね。

●巣内尚子 そうですね。そうだと思いますね。

●荻上チキ これ例えば、教育を受ける時に、もう本当に従順な人を作ろうという意志がすごく感じられるわけですけれども、そうした権利であるとか自由であるとか、そうしたものというのは、もうほぼ、教えられないどころか、タブー視されるような、そんな空気というのもあったりするんでしょうか。

●巣内尚子 やっぱりやっている、具体的に何を教えているかという内容は、要は、日本語教育をしているだけなんですね。労働者として、どうやって身を守ったらよいのかといったことは教えられてない。さらに軍隊式の方法をされているので、おっしゃる通り、「空気」として、企業の方に従っていくことが良いこととして、「社会化」される。研修センターで「社会化」されるということになっていると思います。

●荻上チキ なるほどわかりました。まだまだお話し足りないと思いますが、この話はですね、まだまだ番組でも取り上げていきたいと思いますので、改めて巣内さん、よろしくお願いします。

●荻上チキチキ ジャーナリストの巣内尚子さんにお話を伺いました。もうとても1時間あってもしゃべりきれないぐらいの実態があるということがよく分かりましたけれども、これ今のところ紹介したのは、まずブローカーである送り出し機関と、それから日本で受け入れる監理団体、この2つに着目をしてお話しを伺ったんですけれども、出井さん、これ構図としてはさらに複数の機関が、関わっているんですよね。

●出井康博 これだけ多くの人が批判して、もうこれ10年ですよ。10年、これ批判しているのに、なぜこれ変わらないのかと、この制度が変わらないのか。これ、朝日新聞から産経新聞まで、もう右も左も全部批判している。荻上さんのような影響力がある方もこれだけがんばっているのに、なぜ変わらないのかっていうところを考える必要があると思うんですね。
 それ何かというと、政治の利権ですよ。一言で言って。もともとこの実習制度、かつの研修制度ですけども。中国からの受け入れは社会党系、それ以外のアジアは自民党系。要はその監理団体の後ろに政治家がいるんですよね。
 落選した政治家が監理団体をやっていたりとだとか、辞めた人がですね。監理団体の顧問をやっていたりとか、そういうパターンがあるんですよ。結局、これ政治の利権になっていると。
 これ今日、リスナーの方でご興味ある方は、一般社団法人日本ミャンマー協会というのはちょっと検索していただきたいんですけども。ここはですね、ミャンマーの実習生、ものすごく今、増えてるんですよね。去年で6,000人です。これ5年前は200~300人だったが6,000人になっている。ミャンマーから実習生を受け入れようとすると、この日本ミャンマー協会を通さなきゃダメなんですよ。
 監理団体が会員になって何万円か払ってですね、1人の実習生を受け入れるのにまた1万だとか2万だとか払うんですね。ここ、最高顧問、麻生太郎さんですよ。

●荻上チキ 一般法人日本ミャンマー協会ですね。ホームページのトップに出てくるのは、仙谷由人副会長。

●出井康博 仙谷さんは、亡くなっちゃいましたけど。これ理事の方、私、名前、言いませんけど、立憲民主党から公明党から自民党から、大物政治家並んでますよ。
 副会長は大手商社トップ3名。理事には大蔵、まあ今、財務省ですけど、通産、今の経済産業省ですけども、もう次官経験者、元ミャンマー大使、もう、オールジャパンですよ。

●荻上チキ 役員名簿すごいですね。名誉会長が中曽根(康弘)さんですから。
http://japanmyanmar.or.jp/yakuin.html

●出井康博 こういう構図があるんですよ。こういうところが、これ利権。これ別に、麻生(太郎)さんがね、名前、取ってるとは思いませんよ。ただこういう後ろに政治家の介入があるから、これ、いくら今、国会で野党がやってもこれ、変わらないんですよね。

●荻上チキ うーん。なおかつ今回の件は、監理団体までしか取り上げませんでしたけど、その背後にある「機構」、そしてこの制度を支えている政府、むしろ国会で議論する国会議員や、本来だったら管轄すべき厚労省や法務省など、あるいは農林水産省など各分野が、むしろそれがなければいけないという、暗黙、むしろ推進しているという実態があると、いうことまでがまず分かりましたと。

●出井康博 ブラック企業問題じゃないです。これなぜこんな給料安いのかって。実習生、安いのかっていうのは、ピンハネ。いろんな人がピンハネしてるんですね。政治家も官僚も、たかってるんですよね。

●荻上チキ 今日はね、第1章です。また次回、この続き、やりたいと思います。

●南部広美 出井さん、伊藤さん、お待ちしております。ありがとうございました。