見出し画像

塩は氷を融かすのか、作るのか(2)

 前の記事では、食塩によってジェラートが作れる様な氷点下の低温が実現する一方、逆の効果の様にも見える路面凍結の防止剤としても食塩の成分が使われることがあるという、一見して矛盾するような食塩の影響の与え方に触れてみました。本記事では続きで、一見矛盾するこれらの作用を統合的に説明することに挑戦してみます。

食塩が混ざった水について

 食塩が氷を融かすのか氷を作るのか、その辺りを考える為に、食塩が混ざった水について大雑把に想像してみます。
 水は、大体において水分子の集合です。20g程の水は、6の下に0が23個も続く様な膨大な数をさらにちょっと超えるくらいの数の水分子でできている様です。0が12個で兆、16個で京ですが、その上の垓までは少なくとも使う、大きな数量ですね。
 そして液体の水の状態では、分子と分子の間で相互に作用をしつつ結晶化などの個体としての性質を持たない状態で、食塩、すなわち塩化ナトリウムが混ざっているわけです。
 塩化ナトリウムは常温でそれだけで存在する場合はイオン結合による結晶構造を取るようですが、水に溶けるとナトリウム+イオンと塩化物-イオンがばらばらになって動き回る性質があり、食塩が解けた水というのは、水分子、ナトリウムイオン、塩化物イオンがうじゃうじゃと動き回る、そんなおおざっぱなイメージの集合体と言っていいで……よくはないですが、ここでは正確さはともかく、直感的理解の為にそう置きましょうね。

凍結防止剤としての食塩

 道路に食塩を撒くと、そこに既にある水気、またはその後の露や降雨による水気に溶けますよね。溶けると食塩水となり、前章で説明した感じでうじゃうじゃ状態になると考えられます。
 通常、純粋な水はおよそ0℃まで温度が下がると液体の水から個体の氷に変わろうとします。が、食塩水にはうじゃうじゃにナトリウムイオンと塩化物イオンがまざっていますから、水分子同士が手をつないで氷の結晶構造になろうとしても、流体内部のエネルギーの相互出入りや結晶形成等の上で邪魔をされ、なかなか氷の結晶になれない状態になるわけです。そして温度自体は0℃まで下がりはしますが、邪魔されて結晶になれませんから水のままで0℃、さらにそれ以下になることになります。
 0℃よりも温度が低くなると、結晶になりたいという水分子の動向が0℃の時よりも強力になり、そのなりたい動向が不純物であるナトリウムイオンと塩化物イオンの邪魔する作用を超えた段階で、やっと結晶化が可能になり固体の氷になるのですが、マクロの視点ではそれが水に不純物が混ざっていると凍る温度、凝固点が降下した様に観察されるわけですね。
 従って、食塩水の状態であれば凝固点が0℃より低くなっていますから、地面の温度が0℃になってもまだ凍らないで液体のままでいられることになります。もっとどんどん下がればいずれ凍結してしまうとは言え、この凝固点降下の作用が、真水のままの時と比較して、路面凍結までのいくばくかの余裕を作り出してはいることになります。
 食塩が凍結防止剤として働く、大雑把な理屈です。

ジェラートを作る時の水と氷

 次に、すでにもう氷が存在する場合のことを考えてみます。より厳密に言うと、固体で結晶している氷と液体で比較的分子が動き回ることができる水が、0℃の温度で共存している、そんな状態です。
 0℃という温度は存外難しい温度ですね。といいますのも、固体の氷でも液体の水でもどちらでも存在してかまわない温度というのは、では実際氷なのか水なのか、どういう状態で存在するのか、確実に言い当てることはなかなか難しい感じです。気圧なども含めた様々な条件の微妙な変化によって、凝固点が厳密に0℃ではなかったり、そういった周辺事情も含めて考えると、さらに輪をかけてなかなかの難物です。
 ここでは簡単に、0℃の水も氷も両方存在し、ミクロの視点では凍ったり溶けたりをランダムに繰り返して両方の状態が平衡的に並立していると考えましょう。一番簡単ですし、ありそうです。
 純粋な水であれば、ここまで書いた通りの状態でいるわけです。
 しかし、そこに食塩を投入してみます。さて、どうなるでしょうか。
 まず考えられるのが、食塩水と言えば凝固点の降下というお話をここまでさんざん書いてきましたので、ここでもそれが起こるのだろうなあ、という想像です。
 同時に、ジェラートが作れる様な0℃より低い温度に実際に到達するという観察的事実が存在します。
 両方をあわせると、直感的に「食塩を水に混ぜて凝固点が降下すると、それにあわせて実際の温度まで自動的に下がるのか?」と考えたくなるのですが、それは無いですね。凍るべき温度が下がったからと言って、今0℃である氷水も「それじゃあ」と言って温度を下げてくれる、そんな義理は氷水には無い筈です。単に凍る温度という設定条件が変化しただけですから、それが実際の温度にまで影響をあたえる必然性は、直接にはありません。
 しかし、結果的に現実に、温度は0℃よりも低いところまで確実に下がっています。
 間尺にあいません。
 字数の関係で今回はここまでとして、次の記事へ続きます。


サポート頂ければ大変ありがたく、今後の記事作成の励みとさせて頂きます。