風呂を増設する

 居間に風呂を増設してみた。
 座椅子ごと湯につかれるとあって、たちまち評判になり、隣近所からひっきりなしに人が訪れるようになった。

「なんやねん、なんやねん」と奇声がするので振り返ると、明家いわしが、窓枠に前歯を引っ掛けてのぞいている。たまたま、近くを通りかかったらしい。
「あの、よかったらうちの風呂に入っていきませんか?」と勧めるが、
「あ、ええねん、ええねん。ほんなら、わし急ぐからっ」と足早に去っていった。

 30分も経たないうちに、テレビで明石家いわしを見る。
「……でな、わし、銭湯を経営することにしたんや。儲かるで、ありゃ。ほんまやっ」
 どこに銭湯を建てるつもりだろう。完成したら行ってみようかな。

 明石家いわしの銭湯は、渋谷の道玄坂辺りに作られたという。連日、行列ができるほどの大盛況らしい。
 友人の桑田が湯上がりのさっぱりした姿でやって来て、わたしにこう言った。
「なんだ、むぅにぃ。おまえ、まだ『いわしの湯』に行ったことがないのか。いいぞ、すごいぞ。湯船が100もあって、人が10万人入っても、ぜんっぜん余裕なんだな、これが。おっくれてるぅ~っ。まーだ、入ったことないなんて~、ふんふ~ん」

 悔しいので、わたしも行ってみることにした。
 うっかり新宿駅で降りてしまい、しかたなく渋谷まで歩く。明治神宮辺りまで来たとき、先の見えないほどの列に出くわした。
「あの、これってなんの列ですか?」わたしは、並んでいるおばさんに聞いてみた。
「何って、あんた。いわしちゃんの銭湯に決まってるじゃないの。『いわしの湯』よ。あ、あんた、洗面道具持ってきてる? あそこケチだから、貸し出ししてないわよ」

 それにしても、すごい人だ。1キロは続いているのではないだろうか。
 わたしはなんだか面倒になり、今日は引き返すことにした。
(次に来るときは、ちゃんと洗面道具を持ってこよう)

 明石家いわしはテレビに出演するたびに、「いわしの湯」を自慢していた。確かにそれだけのことはある。増築に次ぐ増築で、今や都庁のツイン・タワー並に巨大なものになっていたのだから。

 後日、ウィキペディアで調べてみたところ、「いわしの銭湯御殿」と呼ばれるようになった、と記されていた。

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むぅにぃ

こんにちは、むぅにぃと申します。 いつも空想ばかりしています。 眠ることが大好きで、必ず夢を観ます。 夢はいつもリアルで、総天然色3DMAX(@^○^@)匂い・味付き! ドビュッシーが大好き。
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