見出し画像

サンシャイン60をエクステ!

 サンシャイン・シティの屋外ガーデンで日向ぼっこをしていると、恰幅のいい初老の男に声を掛けられた。
「わたしはこのサンシャイン・シティの統括管理者ですが、見たところ、あなたはいかにも暇そうですな。そこで、どうだろう。1つ、仕事を頼まれてはもらえないだろうか?」
 男の胸には金色のバッジが光っている。どうやら、本物の統括管理者に間違いないようだ。

「どんな仕事ですか?」わたしは尋ねた。
「なあに、簡単なことだよ。ほれ、サンシャイン60がそびえているね? あのてっぺんに、東京タワーを移設してもらいたいんだ」
「えー、無理ですよ。無理無理っ。建築のことなど、何にも知りませんし」即座に断った。
 けれど男は引き下がらない。

「いや、何も難しいことをしろと言っているんじゃないんだ。屋上にだね、ぽんっと東京タワーを――」
 相手が最後まで言い終わるまえに、わたしは言ってやった。
「それが難しいことだと言ってるんですよ。無茶な人ですね、あなたは」
「そこをなんとか」
「なんとも、なりませんっ」
「本当に?」
「本当に、です」
「本当に本当?」
「しつこいなあっ!」

 男は近くのベンチにどすん、と座り込んだ。気の毒なほど落胆した様子である。
「あの……」見かねて、つい問いかけてしまった。「一体、どうしてそんなことをしなくちゃならないんですか」
 男はぱっと顔を上げ、よくぞ聞いてくれた、と言いたげに目を輝かせた。
「スカイツリーって聞いたことあるかね?」
「そりゃあ、有名ですから」
「あれに対抗するには、サンシャイン60の上に、東京タワーをどうしても乗っけなくちゃあならんのだよ」

「はあ。でも、それじゃ足りないと思いますが。スカイツリーって630メートル以上ですよね? サンシャインと東京タワーを合わせても、まだ届きませんよ」
「なに、サンシャイン・シティの地下を底上げするさ。へっちゃら、へっちゃら」
「えー、底上げって……。60メートルもですかっ?」驚くというより、呆れ果てた。

「そんなわけで、君。どうか、手を貸してくれたまえ」統括管理者と名乗るその男は、にこやかに握手を求めてきた。交渉成立と、すっかり勘違いをしている。
 わたしはその手を軽くはたいて退け、きっぱりと言った。
「絶対にお断りします!」
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?