スプー

カボチャ・レース

 町内カボチャレースに、わたしは飛び入りで参加した。

 会場はすでに大勢が集まっていて、わいわいと盛り上がっていた。拡声器のハウリングに混じって、町長のがなり声がワンワンとこだまする。
「ご町内の皆様! これより、第2756回・カボチャレースを行います。参加者はエントリー・ナンバーの書かれたたすきを受け取って、待機してくださいっ!」

 わたしは受け付けに並び、たすきをもらう。ついでにレースの内容を係員に尋ねた。
「カボチャレース、これが初めてなんですけど、どんなことをするんですか?」
 古館一郎にそっくりな係員は、メガネの真ん中を指で押し上げる。
「みなさん、勘違いなさっているかと思うんですが、カボチャレースは、決してカボチャの馬車で競争をするとかじゃないんです。その点はまず、はっきりさせておかなくてはなりません。参加者には、三輪車があてがわれます。ええ、普通の三輪車。つまり、幼児が乗って遊ぶ、あの三輪車です。それに乗ってですね、町外れのカボチャ畑まで走ってもらいます。そう、ここからすでに競争になっているわけですね。それから畑のカボチャを拾って、三輪車の荷台に載せ、スタート地点まで戻ってきていただきたい、とまあ、こんなルールです」

 機関銃のようにこれだけのことを一気にまくしたて、「わかりました?」と言いたげに、じっとこちらを見つめるのだった。
「あ、はい。単純なルールなんですね。わかりました、ありがとうございます」わたしは礼を言い、待機場所の簡易テントへ向かった。

 レースはすぐに始まり、三輪車が次々と飛び出していく。
 それにしても、大の大人が真剣な顔で三輪車を漕いで走るのを見るのは、滑稽であり、情けないような、力の抜けた笑いが込み上げてくる。
 だが、笑ってばかりもいられない。順番が来たら、わたしもあんな姿をさらけ出すことになるのだから。

 いよいよ自分の順が回ってきた。(できるだけ)さっそうと三輪車にまたがると、合図を待つ。
 わたしはこの瞬間が苦手だ。緊張して鼓動が倍くらい速くなる。

 パンッとピストルが鳴った。
 総勢30名が三輪車のペダルをガチャガチャと音を立て、一斉に道路を走り出す。
 ちょっと出遅れたかもしれない。半数がすでに先を行っていた。負けず嫌いのわたしは、力を振り絞って追い上げる。1人抜き2人抜き、そして先頭に躍り出た。

 町を出ると、広大なカボチャ畑が広がっていた。そこかしこに、緑色をした大きなカボチャが転がっている。
 三輪車を飛び下り、畑の中をずぶずぶと走った。手近なところに落ちているカボチャを抱えて、三輪車へ取って返す。
(優勝はいただきかなっ)心の中でほくそ笑む。

 ここで問題が発生した。
 カボチャが大きすぎて、三輪車の荷台に載らないのだ。もたもたしているところへ、後続の三輪車が続々とやって来る。
「まずい、なんとかしなくちゃ……」
 とっさに思いついたのが、カボチャの中身をくり抜いて頭にかぶる、というアイデアだった。

 目鼻にもちゃんと穴を穿って前が見えるように工夫をし、わたしはカボチャをすっぽりとかぶる。
 これでよし! さあ、出発だ。

 カボチャをかぶり、三輪車でギコギコ町中を走る。沿道からの声援に混ざり、こんな声が聞こえてきた。
「やだ、あの人、カボチャかぶってる。カボチャ頭だわ。そうよ、カボチャ頭のジャックよ」

 脳みその代わりに、カボチャの種が詰まっている気がした。

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