#98 ノブレス・オブリージュという“やわらかな煽り”
田中さん
ちょっと前の、ぼくがノブレス・オブリージュをまだちゃんと言えてなかった頃に、某高校の校長先生とサシ飲みしてて。
「なんだっけな、なんとかオブリージュってのがあって」と言ったら、校長先生が「ノブレス・オブリージュですね、私の好きな言葉です」と目を輝かせました。
そのあと、言葉の意味やら語源をコースターの裏に書いて説明してくれてさ、あれはいい夜だったなぁ。なんか、やっと分かり合えた感があった。
その時に思ったのは、「なんだ、ノブレス・オブリージュって言った方が通じるじゃん」ってこと。ぼくが泥臭い言語で若者支援を語り、富の再分配の必要性なんかを熱く語るよりも、ノブレスな人たちには、「ノブレス・オブリージュ」が通じるんだなって。
この言葉って、格差の下から上に向かって突き上げる言葉じゃなくて、格差の上の方の人たち同士が使う言葉じゃない? だからだと思うけど、ノブレス・オブリージュに、ぼくは“やわらかな煽り”を感じてるんだよね。
ぼくはアジテーションじゃ社会は変わらないと思っているから、この“やわらかな煽り”は使えるなって思ってて。田中さんに教えてもらってから、ずいぶんと飲み込むのに時間がかかっちゃったけど、ぼくなりにこの言葉は今年の講演会では連発しますよ(笑)
100回までこれ入れてあと3回ですよ!チャオ〜
いしい
※
「発信できる代弁者」
石井さま
石井さんの原稿を読むと、日本のノブレスたちに優しくて、結構癒されました。
僕は若い頃はアンチノブレス的なスタンスで医療問題の雑誌を毎日作っていたので、なかなかノブレスに寛容になれないんですね、未だに。
その違いが、僕と石井さんの5才ほど(もっと近いのかな)の年の差だと思っており、やっぱり石井さんたちより下の世代がこの日本をリビルドしていくんでしょうね〜。
それはさておき、この前某メディアの取材を受けたのですが、その記者の方も見事にノブレスしており、それもまた、メディアの方の割には「下流層」や「非正規雇用層」が日本の何割を占めているのかも知らない、まあ「お嬢様」でした。
僕が懇切丁寧に(というかいじわるな感じで)現在の社会状況を伝えると、彼女はびっくりしていました。加えて僕は、
「支援の現場のレベルを上げていくのはもちろんですが、記者さんのような方が、隠蔽されている下流層の実態をできるだけ正確に伝えていくことが、現在の最大テーマなんですよ。つまりは『顕在化の発信』ということです」
と強調しました。
そう、国民の4割を占める下流層の人間らしいドロドロした実態を、今のところメディアは伝え損なっている。
よくある「美談な貧困」エピソードの集積なんですね。
紋切り型でリジットな下流層の人間らしさを下流層自身は伝えることができず(だからこそ下流当事者)、その実態を伝えるのはジャーナリズムか文学しかないと僕は思っています。
中上健次はもういないので、希望はジャーナリズムですが、残念ながら伝えてはいないと思います。
メディアが自信喪失気味なのです。
だからこそ、石井さんや僕のような、「発信できる代弁者」がこれからもどんどん出てきてほししいと思うんですね。★
田中
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