映画『キングスマン』に出てくるサヴィル・ロウのテーラーで背広を作った話 その1

映画『キングスマン』。英国紳士がスパイとして活躍するこの映画で、キングスマンという名前のテーラーがスパイの秘密基地として登場する。『キングスマン』は大好きな映画で何度も観ている。"Manner maketh man."の決め台詞もかっこいい。

この秘密基地のモデルであり、撮影地にもなったHuntsman(ハンツマン)というテーラーが英国はロンドンのSavile Row(サヴィル・ロウ)に実在する。(トップ画像は公式サイトから)

今回はこのHuntsmanでBespoke(ビスポーク)、フルオーダーのスーツを作ったときの話を書きたい。と言っても作ったのはもう2年ほど前の話なので今と異なる点や忘れている部分もあると思うけれど、どこかの誰かの参考になれば幸いである。

店員が全然話しかけてこない

Savile Rowは短い通りながらも紳士服店が密集していてGieves & Hawkes、Richard Anderson、Henry Poole & CoなどHuntsman以外にも紳士服の名店が立ち並んでいる。

しかしどの店も入りづらい。というのも、ロンドンらしい建物の作りのせいで概ね入り口が狭く、お店もウェルカムな空気ではないことが多いからだ。Huntsmanも例外ではない。

階段を少し上ったところにある扉を開けてHuntsmanに入ると暖炉もあって英国らしい雰囲気のある店内に吊るしのスーツやネクタイやシャツなどが置いてある。とてもオシャレな店内で、日本で言うと表参道ラルフローレンのようなちょっとオトナな気配が漂う。

スーツでパリッと決めた店員が居るものの、向こうからは話掛けてこず黙々と作業をしている。洋服屋に行ったら店員から話しかけられるものだと思っていたので、しばらく店内に置いてあるものを眺めて待っていたが、待てど暮らせど店員は話しかけてこない。

Bespokeを作る段取りや勝手を把握していないので、店員と話さないと何も進まないと思い、緊張しながら"Excuse me."とこちらから声をかける。そうしたら初めて店員が対応してくれた。

後で聞いた話だがキングスマン効果で、買い物客ではない観光客の来店も増えているため積極的に声は掛けていないようだ。Huntsmanに限らず、ロンドン市内で中国人観光客に間違えられることはしばしばあるので、彼の対応も致し方ない。

As You Like

私が話しかけた彼の名前はAndreas。メガネを掛けてHuntsmanを身にまといスマートな出で立ちだけども威圧感はない、そんな彼に結婚式に向けてBespokeのスーツを作ろうと思ってることを伝えると、お店の奥に案内してくれた。ちなみにAndreasは既にHuntsmanを辞めて他のお店に移っている。

店内は道路から奥に長くなっていて、手前の入り口側には小物やシャツ、既製品のスーツが並んでいて、作業台と試着室の向こうの一番奥に商談スペースがある。そこでAndreasと話を始めると、こう言われた。

「何でもあなたの好きなようにできるけど、どういったものをご希望ですか?」

Bespokeは当然フルオーダーなので、文字通り何でも好きなようにできる。それは分かっていたのだけど、いざ何でも好きなようにできると言われると急には出てこない。そんなわけでその場ですぐに決めるのではなく、次のアポイントメントを取ってこの日はお店を後にした。

次のアポイントメントまでそんなに日がなかったので、洋服屋で働いている友人にスーツのことを教えてもらいプランを練ることにした。

Huntsmanはワンボタンでゆったり深めのシルエットのスリーピースがシグネチャーということだったので、それを作るつもりだった。しかし、決めることはこの他にもたくさんある。

ジャケットは襟、ベント、袖元、丈の長さ、サイドポケット、裏地、インナーポケット、ペンポケット、ボタンなど。

ベストは、ラペル、ボタン、ポケット、裏地、尾錠やら何やら。

トラウザーはベルト、タック、チャック、サイドポケット、バックポケット、裾とか何とか。

色々と考えた結果、クラシックなものが良いという結論に至り、ジャケットはノッチラペルでサイドベンツ、ベストもラペル有で、トラウザーはダブルという具合になった。アドバイスをくれた友人には心より感謝している。

こうして無事欲しいスーツのスタイルを決めてHuntsmanを再訪した。

スタイル決めとスーツのお値段

アポイントメントの日に訪れると、Andreasが待っていた。彼と話しながら考えたスタイルの希望を具体的に伝えていく。そしてスタイルに加えて、生地も選んだ。

生地見本を見ながら決めるのだけど、この生地見本がまたかっこいいのだ。英国産の上等なウールの生地が綴られた見本はそれ自体で本になるような厚さとデザイン性を持っていて魅力的だった。めくってもめくっても素敵な生地しかないのだが悩んだ末に、自分には青系のスーツが似合うのは知っていたので、紺のヘリンボーンを選択した。

それはそうと、この日に出された水が英国の高級ミネラルウォーターHILDONだった。今となっては全く味を覚えていないが、当時のメモを見ると上品な味で気に入っていたようだ。

HILDONを飲みながらAndreasと30分ほど話して、決めることは決めたのでここで値段が提示された。

レシートがすぐに出てこないので正確な値段ではないのだが、約5,800ポンドだったと記憶している。当時のレートで85万円ほど。洋服に掛ける値段としてはこの時点で過去最高である。

決して安くない買い物ではあるが、好きな映画の舞台になったテーラーで、背広の語源となったともいわれる(※諸説あり)Savile Rowでオーダーメイドのスーツを作れる機会は今後絶対にないのだから、まあ仕方がない。

どういうスーツにするかが決まった後は採寸なのだが、Andreasはあくまでもコンサルテーションの担当で採寸を行うのは別の人ということで、また別の日に採寸の予約をすることになった。

採寸後の話も色々あるので、ここから先の話はまたいつか。

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