「宇宙ヤバイ」はヤバイ詩である

ゆるふわレビューに「スキ」をいただいておりまして、ありがとうございます。


あんなに好き勝手書いて、正直、詩を好きな方からは、腐った卵を投げつけられても仕方ないのでは?と覚悟していたのですが、幸いにもまだ無事です。
営業時代、ある日のWEB日報に「メールや電話でぼろくそに言われても、直接会って水ぶっかけられるより全然マシなのでハッピーハッピー!」みたいな意味のことがもっと格言的な言い回しのオブラートに包まれて掲載されており、そのときは己の職業が抱える業に心底怯えたものですが、現在は「その考えにも一理ある」と自己暗示をかけてnote上で虚勢を張っております。
それなのに、冷水を浴びるどころか、好意的なリアクションをいくつも頂き、たいへん恐縮です。ありがとうございます。noteからの通知がくるたび、とても嬉しい気持ちです。
これを励みとさせていただいて、今後も卵の影にそわそわしつつ、はったりをかましていきたいと思います。



さてタイトルです。
「宇宙ヤバイのコピペ」を御存じでしょうか。
発祥は匿名掲示板「2ちゃんねる」の哲学板と言われており、作者不明のスレッド(掲示板に書き込まれた文章)のひとつが閲覧者に広く受け入れられ、多くの人にコピー&ペーストで広まっていったものです。
私はこの宇宙ヤバイのコピペが大好きで、現代の「詠み人知らず」だと思っていて、詩のレトリックとしてもヤバイんじゃない?とも思っていて、御託はうるせえちょっと読んでよめっちゃポエジーじゃない?という感じなので、ここでご紹介します。


全文はこちらです。
宇宙ヤバイとは-はてなキーワード


外部サイトにぶん投げたところで、なんなの?という感じなので、以下コピペ本文を引用しつつ、宇宙ヤバイがいかにレトリックヤバイかご説明します。


ヤバイ。宇宙ヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。
宇宙ヤバイ。

書き出しうますぎ問題
書き出しって本当に難しいですよね。ここで詩や文章の出来がほぼ決まると言っても過言ではありません。
その冒頭で「ヤバイ」どーん。このインパクト。えっなに?って100人中999万人が思う魅惑の書き出しです。次に「宇宙ヤバイ」主題ばーん。この順序はJポップのサビの文法とかと同じです。少ない文字数で的確に視聴者を惹きつけるテクニックがここで既に発揮されています。
畳みかけるように「まじでヤバイよ マジヤバイ」日本人大好き七五調とリフレインの合わせ技です。もう続きを読むという選択肢以外が存在しない。

まず広い。もう広いなんてもんじゃない。超広い。
広いとかっても
「東京ドーム20個ぶんくらい?」
とか、もう、そういうレベルじゃない。
何しろ無限。スゲェ!なんか単位とか無いの。何坪とか何㌶とかを超越してる。無限だし超広い。

「ヤバイ」「ヒロイ」「マジヤバイ」「チョウヒロイ」と韻を踏んでいてリズム感が良い。
「マジ」(MAJI)のJは日本語の音としては弱い子音なので、「チョウ(チョー)」の長母音と相性が良いです。
「とかっても」と崩す音が入ってくるのも心地いいですね。
「東京ドーム」と具体的な単語が突然入ってきて、ワードチョイスにも緩急があり読者を飽きさせません。
そして何より「スゲェ!」この存在感。もう絶対ここ声に出して読みたいでしょ。「何しろ無限。スゲェ!」って音読したいもの。良い詩というのは決まって音読したくなるものなのです。

しかも膨張してるらしい。ヤバイよ、膨張だよ。
だって普通は地球とか膨張しないじゃん。だって自分の部屋の廊下がだんだん伸びてったら困るじゃん。トイレとか超遠いとか困るっしょ。
通学路が伸びて、一年のときは徒歩10分だったのに、三年のときは自転車で二時間とか泣くっしょ。
だから地球とか膨張しない。話のわかるヤツだ。
けど宇宙はヤバイ。そんなの気にしない。膨張しまくり。最も遠くから到達する光とか観測してもよくわかんないくらい遠い。ヤバすぎ。

「東京ドーム」と同様の、具体性を持ち出す緩急の手法ですが、こちらは語りかけるような会話調のたとえ話になっており、〝同じ構成の繰り返しなのにレトリックに変化をつける〟という、なかなか技有りな演出です。
喩えなので一文が他に比べやや長くなっていますが、前後や合間に短い文(「ヤバイよ、膨張だよ」「ヤバすぎ」)・砕けた促音撥音を含む言い回し(「しないじゃん」「泣くっしょ」)を配置し、冗長になりすぎない配慮がなされています。
「話のわかるヤツだ」「そんなの気にしない」は擬人法です。レトリックのレパートリーも豊富。
急に人格を与えられる宇宙と地球。

無限っていったけど、もしかしたら有限かもしんない。でも有限って事にすると
「じゃあ、宇宙の端の外側ってナニよ?」
って事になるし、それは誰もわからない。ヤバイ。誰にも分からないなんて凄すぎる。

これはコピペなので連など存在しないのですが、もし連分けするとしたらここがおそらく一連のラスト。
「宇宙広い」の話が「誰にも分からないなんて凄すぎる」と結ばれるこのエモさ。
そもそも「宇宙」って詩になりやすいとてもポエジーな存在なのですが、ここの結ばれ方は、「宇宙のポエジー」を丁寧に丁寧に平坦な言葉にしていくと、この「凄すぎる」にたどり着かざるを得ない、とも言うべき、圧倒的な説得力があります。ここまでの一連の中で小気味よくレトリックを重ね、感情が乗せられているので、「凄い」という広義の断定に納得せざるを得なくなっているのです。

あと超寒い。約1ケルビン。摂氏で言うと-272℃。ヤバイ。寒すぎ。バナナで釘打つ暇もなく死ぬ。怖い。
それに超何も無い。超ガラガラ。それに超のんびり。億年とか平気で出てくる。億年て。小学生でも言わねぇよ、最近。

「宇宙広い」に重ねるように、宇宙のヤバさを列挙。類聚(るいじゅ)の技法です。枕草子と同じ。宇宙はヤバし。広し。寒し。ゆるゆるとなりてをかし。
あまり語り過ぎないのが素晴らしいところです。詳しければ詳しいほど書き連ねたくなるものですが、たったの2行に抑え、起承転結の承の役割を見事に果たしています。ここは知識を並べるのではなく、サラリと触れる程度に短い文でテンポよく進むのがかっこいいのです。枕草子と同じ。

なんつっても宇宙は馬力が凄い。無限とか平気だし。
うちらなんて無限とかたかだか積分計算で出てきただけで上手く扱えないから有限にしたり、fと置いてみたり、演算子使ったりするのに、
宇宙は全然平気。無限を無限のまま扱ってる。凄い。ヤバイ。

ここからはいわば最終連であり、「なんつっても」に含まれる強意が結末に向けての盛り上がりを示唆しています。
一連オチの部分を繰り返して有限無限の話題を出したあと「凄い/ヤバイ」と韻を踏みつつ締めくくるのが上手い!という感じ。
話が直線的に進むだけではなく、一連の語を取り入れることで前連と相互に影響し合い、より深みが生まれています。

とにかく貴様ら、宇宙のヤバさをもっと知るべきだと思います。
そんなヤバイ宇宙に出て行ったハッブルとか超偉い。もっとがんばれ。超がんばれ。

最後の最後に個人名が出てきて、ずっと宇宙を語っていたのに、ここでグッと「人間」にフォーカスされる。対比の技法です。「宇宙」に対する「人間」を描くことで、相対的に「宇宙」のヤバさを描き出しているのです。


そして全体を通して「宇宙ヤバイ」という主題、そして宇宙に対するたいへん好意的な感情が余すところなく伝わってきます。このコピペの中で「宇宙が好き」とは一言も言っていないのに、「ああ書いた人は宇宙が好きなんだろうな」と容易に想像ができる。作者が伝えたいであろうことがきっちりと伝わる詩は、それだけで良い詩と評価できるのではないでしょうか。

もちろん「宇宙ヤバイ」はコピペなので、「作者」は存在しません。
多くの人の手を渡る中で表現も変更されており、また現存する中で表記の揺れも存在します。
しかしそれも含めて「現代の詠み人知らず」、大衆の詩と言えるかと思います。

いかがでしょうか。
宇宙ヤバイはヤバイ詩である、というタイトルにご納得いただけたでしょうか?
完全にそれっぽく言っているだけで根拠も何もありませんので、「そうかも、良い詩かも」と思ってくださった方は、私が言うのもなんですが純粋すぎて心配です。キャッチセールスとかお気をつけくださいね。

こんなふうに言葉で遊ぶのも楽しいです。
詩ってこ難しくされがちなのですが、「こんなもんなんだ」って思ってもらえたらいいなと思います!

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地元・大分で開催される国民文化祭「おおいた大茶会」にて、
現代詩を中心とした文芸振興イベントを開催します。
温泉と芸術のまち、湯布院で、言葉と音に触れてみませんか。


11/18(日) 《出張版》ポエトリー☆アゴラ -詩と音、文学、ときどきポップス-
会場:ゆふいん文学の森(https://bungaku-mori.jp
公式サイト:https://mdevent.one-pg.com/15338
公式twitter:@MDGallerys

ポエトリー☆アゴラ 前フリイベント
10/26(金)、29(月)、31(水) Art Poet Fest
大分市リーディング事業「回遊劇場」内にて
会場:「回遊Cafe#204」(大分県大分市 府内町2丁目4-5 若竹ビル2階)

サポートして下さる方を募集しています。
noteからのサポートは、11/18まで全額を「ポエトリー☆アゴラ」運営費用に使用させて頂きます。
応援よろしくお願いいたします。

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ラジオ出演いたします。
CLOVER MEDIA 76.7MHz
「松本侑大の9%くらいの音楽の話」
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アプリやサイマルラジオでもお聞きいただけます。
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個人作品展を開催いたします。
新作詩集(11月刊行予定)『愛ににたものとなりはうつろ』の発行に合わせ、2017-2018年の作品を「ヴィジュアライズに重点を置いたバリエーション」で展示いたします。


11/16(金)-18(日)「酒井衣芙紀個人作品展 うつろのいろ展」
会場:ゆふいん文学の森(https://bungaku-mori.jp
11:00~17:00(最終日~16:00)
作品・グッズ販売有り


●ライブ制作「すまほ、だざい、せいほうけい」
17日(土)13:00~
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16日(金)13:00~
17日(土)15:00~


詳しくは個人サイトをご参照ください。
〝原稿用紙はもういらない詩〟をご覧いただきたいなと思っています。
どうぞ会場に足をお運びください。お待ちしております。

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