弟、ハリウッド俳優に会う

 先週、弟が大阪のコミコンへと向かった。アメリカ映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作に出演していたクリストファー・ロイド氏とトーマス・F・ウィルソン氏に会うためである。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作のファンである弟は大枚をはたいて彼らと共に写真を撮ることのできる権利を獲得したのであった。ロイド氏85歳、ウィルソン氏65歳、弟19歳。白人ベテランハリウッド俳優2名ともやし体型の日本人男子大学生1名というあまりにも奇妙すぎる3ショットがここに実現した。
 4月の下旬に弟がロイド、ウィルソン両氏が来日するというニュース及び料金を支払えば彼らと写真を撮れる機会が与えられるということを私に教えてくれた時、私は弟に
「何が何でも行くべきだ。借金をこさえてでも行くべきだ。脚が折れたとしても君はあの2人と写真を撮るのだ。これはまたとないチャンスだ。後悔する前に行ってこい!」
と叫びながらコミコンの会場へ行くように促した。彼に行かないという選択肢をとってからの後悔はしてほしくなかったのだ。後悔するなら何かを行わなかったよりも行ったが故の後悔のほうが良い。
 早朝から電車を乗り継いで大阪コミコンへ向かい、帰ってきたのは夜の11時過ぎであった。帰ってきた時の彼の顔がとても晴ればれとしていたのを覚えている。早速とってきた写真を見せてもらう。コミコンのスタッフさんに質の良いカメラで撮って頂き、きれいに現像された賞状程の大きさの写真の中でロイド、ウィルソン両氏は爽やかでありながら沢山の出来事を経験しながら年を重ねた人間特有の少し翳りのある笑顔を見せていた。一方弟は緊張と興奮故の表情筋を無理やり引き延ばした無気味な笑みを見せていた。写真の左側にいるロイド氏は映画に登場するデロリアンの座席に腰かけており、高身長でガタイの良いウィルソン氏は低身長でひょろひょろな弟の後ろに立って弟の両肩に手を置いていた。これらのアンバランスな感じが余計にこの写真の奇妙さを引き立たせるのであった。弟曰く、写真撮影が終了した後、ウィルソン氏が片言の日本語で感謝の言葉を述べられたので慌ててお礼の言葉を返そうとしたところ、弟もおかしな発音の日本語を口にしてしまったそうだ。日本語を第一言語とする人間の大失態であったが、ロイド氏とウィルソン氏はそのことについては何も言わなかったらしい。多分気にしていたかったのだろう。
 まぁとにかく弟が憧れの人物と同じ空間で対面することができて大阪コミコンを堪能したようなので良かった。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作の登場人物を精巧に模したフィギュアも何体か購入していた。人形が入っている箱も映画の世界観をうまいこと表現していて洒落ているので、箱に入れたまま自室に飾っておくことにすると弟は言っている。
 そして私も弟からお土産を貰った。何とユニバーサル社制作の映画『フランケンシュタイン』に登場するフランケンシュタインの怪物のフィギュアである。弟が購入した3体のフィギュアと同じ会社から出ているもので、顔がまさにボリス・カーロフが演じた怪物そのものなのである。とても嬉しいサプライズであった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?