海外(カンボジア)ビジネスで大切な事は全てサーシャに教わった㉒最終話、僕の決意

Bangkok Barを出てから、なんだかそのまま帰る気がしなく、サーシャも同じように帰ろうとしない。

もう一軒どこかいこうか。

こんなとき、きっとこれがドラマだったら、サーシャと男女の関係になり、朝まで一緒に過ごすのかも知れない。

サーシャのことを、いつの日からか女性として気になる存在になっていたのは否定できない。

だまされた元カレの話をきいたとき、勝手に嫉妬していた。

しかし、僕はサーシャのおかげで、経営者としてビジネスで成功したいと心の底から思うようになった。

サーシャは、あくまでもビジネスパートナーである。

これから先永遠にそれは変わらないだろう。

そんなことを店の前で一瞬、そう、ほんの一瞬、ものの3秒くらい考えていた。

「キャー!!!!」

サーシャが突然叫んだ。そして地面に横たわり急スピードで離れていく。

その先に、バイクのホンダDreamに乗った二人組がいて、奴らとサーシャの間にはハンドバッグの肩掛け紐がひっかかっている。

突然その紐が切れて、サーシャは止まり、バイクは勢い余って転倒した。

ひったくりだ。

急いでサーシャを抱きかかえた。首に紐が擦れてあざができ、腕が反対方向に捻じ曲がり、体と地面の間から流血している。一瞬で意識がなくなったようだ。

僕はBang Kok Bar の店員に救急車を呼んでもらうようにさけんだ。

そして、意識のないサーシャをずっとひっぱたきながらサーシャ、サーシャと呼び続けた。

30mほど先には、ひったくり犯を近所の人たちが囲んで、殴る蹴るの暴行をしている。カンボジアのネットニュースでよく見る光景だが、自分が関係者になるとは思っていなかった。

また、僕たちをスマホの動画をとる人たちも増えて、僕は早くこの場を去りたかった。

どれくらい経ったかわからないが、サーシャの意識がないまま、救急車はきて、その場で行き先の病院の確認と乗車料金が150ドルであることを告げられた。

カンボジアの救急車はある程度お金がないと乗れないのである。

少し前に、交通事故で重症の人のところに救急車が来て、その人を乗せてどこかにいき、しばらくして現場に金品を奪われ意識がなくなった死体を戻して去っていったニュースをみた。それを受け、カンボジア政府は無許可の救急車の取り締まりをしているということだけど、それがどれくらい徹底されているのかわからない。

サーシャと僕を乗せた救急車は応急処置をしながら無事24時間体制のフランス系の病院についた。サーシャがかかりつけだとよく言っていたところだ。

すぐに治療ははじまった。

長い長い時間が過ぎた。

明け方、ドクターから無事治療が終わった報告をうけた。

心の底から安堵した。

しかし、大げさに右腕に巻かれた包帯、右頬にまで広がる深い傷を追い、麻酔で意識がないサーシャをみると、怒りがこみ上げてきた。

なんで、サーシャがこんな目にあわないといけないんだ?

奴らは、近所の人たちにリンチされたあと、警察につかまり、すぐに保釈されるだろう。

なにもかも腹立ってきた。

罪を憎んで人を憎まず。

よくサーシャが言っていたことだ。

誰かがなにかしても、それはその人の人間性を責めるのではなく、なぜそうなったのか背景にあるものを推測し、これからよくなる方法を考えましょうと。

痛々しいサーシャを力を入れずにそっと抱きしめた。

なぜだか涙が溢れてきてどうしようもなかった。

あんなに強かったサーシャが一瞬でこんな姿になってしまった。

なさけないことに僕はなにもしてあげられない。

海外では外国人は無力である。

その土地に存在する運命にながされていくしかない。

さんざん意識朦朧のサーシャにうずくまって泣いた。

サーシャの閉じられた瞳からも涙がこぼれていた。

病室にサーシャを移動させ、そのままいつの間にか僕はサーシャのベッドの下で深い眠りについた。

起きたとき、長い時間寝ていたと思ったが、時計をみるとほんの一時間くらいしか寝ていなかったらしい。

立ち上がり、サーシャの顔をみながらサーシャと出会ってからいままでのことをひとつひとつnoteに刻むように、詳しく思い返してみた。

やがて、ひとつの結論に達した。

そして、まだ起きぬサーシャの寝顔に向かって決意した。

ビジネスを通じて、身近な人が幸せになることをしよう。カンボジアや日本、世界を良くするというビジョンを掲げることはかっこいいけど、いまの僕にはそれは大きすぎてイメージできない。
目の前のサーシャが幸せになれるために、ビジネスで課題解決をしていく、というのならできそうだ。
シャンパンタワーのように、まずはサーシャや家族、スタッフを満たし、スタッフの家族、近所の人たちを満たし、そして、プノンペン、カンボジア、日本、セルビアが満たされるように、そしてさらなる世界へと幸せのシャンパンが広がっていくように自分の中の幸せシャンパンを量産していこう。 
なにより、自分自身が毎日幸せを感じて生きていこう。

サーシャの手を握った。

無意識に、ほんの少しサーシャが握りかえしてくれた。

これでいい、ここからまたスタートしよう。



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