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「リーク」を呼びこむVtuber・運営間の力学~外圧はVの演者を助けるか?

10月19日夜、金魚坂めいろの契約解除がにじさんじ公式より発表された。以前に合意解約に至っていたこと、そしてこのほど契約違反の事実を確認したとして契約解除を行ったというものだった。

私が問題にするのはこの文章が既にあるにじさんじ外のVtuberの動画内で出されていたことだ。「物申す系Vtuber」として様々なVtuber関連の不祥事、炎上ネタを動画にしてきた彼だが、「リーク」情報として公開されたものが出てきたことで彼は信用を得、ますます影響力を高めることになった。

私は彼の名前を書きたくない。そもそもあまり言及もしたくない。私は彼の在り方を是とはしないし、今回のような問題は本来なら運営や演者が歩み寄って解決する事柄だからだ。ところが今回の件で、彼は受益者になった。そのような歪な構図はなぜ出来ているのか――。

今回の記事では、この外部Vtuberへの「リーク」がなぜ行われたのか。そしてそのような「リーク」に演者が頼る原因は何か。その点を考察する。

Vtuberは事務所に名前と姿を握られている

前提として、Vtuberの運営は、所属する演者に対して、芸能事務所などよりも「強い」影響力を行使できるということを確認しよう。

一般に、芸能事務所の役割は、仕事の斡旋や調整等を所属する演者に対して行うというものだ。この時、事務所と演者はマネジメント契約によって結びつけられていて、一般の雇用契約とは異なっている。最低賃金で保障されたかたちでの給与が支払われないケースがあるのもこの契約の中で歩合制が採用されている場合があるからだ。このような取り決めの性質上、演者の立場は「個人事業主」になる。

所属する芸能事務所に不満がある場合、移ることもできる。最近では声優の中村悠一氏が所属事務所を変更したが、その理由は、「専属のマネージャーがいる体制で仕事をしてみたかった」というもので、この場合、働く環境を変えるための転所といえる。

転所に際してトラブルが起こる場合もある。女優ののん氏は所属事務所から独立したが、その際に芸名を現在のモノに変更した。これは前事務所が独立の際のトラブルが解決していないとして本名でもある彼女の芸名を使わせないという態度を取ったからだ。彼女は本名にもかかわらず芸能人として名乗れないということになってしまった。

Vtuberの場合、運営は著作権者としてVtuberの名前と姿を所有している。ビジネスふうに言い換えればVtuber事業とはマネジメント事業であると同時に「IPコンテンツ」を取り扱う事業だ。そのため、他の事務所に移る場合は上記のような「転所」ではなく「IP譲渡」となり、運営業務自体を移す場合は「事業譲渡」ということになって合わせて移動することになる。

これもVtuberにおける演者にとっての不利な部分といえる。運営との折り合いが悪かったり要望が通らなかったりする場合、泣く泣くそれまでのキャリア(Vtuberとしての姿)を捨てざるを得ない。

しかし、それでも運営になんらかのアクションを起こさせようとすればどうなるか。――そこに登場するのが「外圧」としての外部Vtuberだ。

外圧としての外部Vtuber

今回、にじさんじ運営が発表した『ご報告』は、運営自身にヘイト(悪感情)が向くように書いてある。

「配信内での発言に対して厳重注意を行ったこと」と「引退の申し出を受けて合意解約したこと」、「契約違反の事実を確認して改めて契約解除を通知」はそれぞれ独立した内容として書いても良く、事実、連続した出来事かは曖昧にしている。しかしこれを続けて書くことで、運営が行った「悪行」として強調し、「悪者は運営」と印象づけられるからだ。

この文章の仕掛けは、外部Vtuberが動画のソースに使用した「リーク」にある、①運営とライバーによる圧力、②それに対しての他ライバーの反感、を払拭するための防御反応ととれる。
運営が悪い、金魚坂めいろは被害者、という図式に落とし込むことで関係する各ライバーの存在を隠そうとした、ともいえる。

この外部Vtuberがにじさんじ内からのリークを元に動画を作るのは今回が初めてではない。以前にも、大手音楽レーベルS社がいちからに大きな影響力を行使している――という(ディティールが雑な)内容を動画にし、これに公式ライバーが1回の配信を丸々使って「反論」した、という一件があった。

この時の情報の確度はピントがずれた部分もあったが、一部に一致するところがあり、それなりに出来事を知る人物からのリークだったと考えられた。

では、そもそも、このような「リーク」がVの演者を助けることになるのだろうか。

「リーク」動画はブラックジャーナリズムにもならない

外部Vtuberがリークしてきた人物について明言することはまずありえない。それは当然だがリークした情報源の保護と自身の信用に関わるからだ。秘密を保持できない人間に秘密を言う人はまずいない。

一方で、彼が踏み込まない理由の一つはそれが一Vtuberの分を超えているから、というのもあるだろう。知り得た情報を元に脅迫し、商品を販売してビジネス関係を結ぶビジネススタイルを「ブラックジャーナリズム」という。こういう犯罪まがいのビジネスを志向しない限りは「リークネタ動画」の範疇を超えることはまずない。

ブラックジャーナリズムはターゲットに対して恐怖を与えなければ「集金」できないため、影響力を高めることと恐怖を与えることに余念が無い。かつてブラックジャーナリズムを行う人間がヤクザと関係を持っていると言われていたのも、権威付けと恐怖をいっぺんに与えることができるからだった。

一方で、このブラックジャーナリズムという「ビジネスモデル」は90年代後半という不況下には流行ったものの、現在ではおよそ下火になって久しい。「取材」か「脅迫」かというすれすれのところにあるというグレーさ、長続きしないビジネス関係に、企業の信用情報がかつてほど重視されていない金融環境などが影響している。

外部Vtuberの手を借りて、少しばかり騒がせることは出来ても、根本的な問題は解決しない。だからこそ「2例目」が出てきた、ともいえる。

では、どう対処していくべきなのか。

芸能界にくすぶる法律問題をカギにして

運営が強権的だった場合、どう対処するのがいいのだろうか。芸能事務所の例を引けば、法的防御を高めておくという手段が効果的だろう。

2019年に一部の芸能人が「闇営業」を行っていた問題が発覚したあと、芸能界では各事務所が粛々と「契約書作り」を行っていた。というのも、明文化せずにマネジメント契約を結ぶという非常識が罷り通っていたことが白日の下にさらされたからだ。そして、問題は契約書の有無に留まらず、公正取引委員会が見解を発表してそれまでの商業慣行に手が入った。

平成30年2月、公正取引委員会が芸能人などのフリーランスにも独占禁止法を適用すると見解をまとめてからだ。事務所が契約を終えた芸能人の移籍や独立を一定期間制限したり、活動を妨害することを示唆したりすれば独禁法で禁じる「優越的地位の乱用」にあたるとしたものだ。

マネジメント契約において、事務所と所属タレントの関係は「親事業者」と「下請け」になりうるため、場合によっては下請け法や独占禁止法の対象となりうる、というのがその見解だ。
こういった点は一般的な知識ではない。法曹関係者をアドバイザーにするのは知識を身につける意味でもよい対処になる。

Vtuberのなかには気が引ける人もいるかもしれないが、ビジネスにおいて懇意の弁護士を持つことは普通のことだ。自身の利益を守るために、やっておいてほしい。

リスナーとして、もう「リーク」動画はこりごりなんだ。

※10月21日11時、冒頭部分に外部Vtuberについての説明を追記

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