マスメディアの曲がり角

・プロローグ 1

午前零時過ぎ、太平洋テレビジョンの相談役である藤田は、自宅の書斎の椅子に深々と腰を掛け、全身の呼吸を全て吐き出すほどの溜息をついた。
日付は変わったものの、ほんの数時間前の記者会見で、東洋テレビとの合併統合の発表を行ったばかりである。
日本の放送業界を、NHKとともに牛耳ってきた民放であるが、キー局と呼ばれる大手2社の統合ということもあって、新聞社をはじめとする各社の記者からの質問が矢継ぎ早に寄せられ、同じような質問が繰り返し続くのに些かウンザリした。
全く、マスコミの連中ときたら・・・。
そう内心で思いながらも、藤田自身がマスコミ大手である太平洋テレビジョンのトップの座に長く君臨してきたこともあって、独り思わず苦笑しながらも、さすがに疲れは隠しようもなかった。
若い頃から精悍な風貌でリーダーシップを発揮してきた藤田だが、さすがに70を過ぎた辺りから明らかに疲労を感じるのが早くなった。
企業の合併といった重要な発表は、通常の企業であれば、両社の社長が揃って行うものだが、放送業界では会長や相談役が主役となって説明するのが当たり前のことになっている。それを長老支配などと言う輩が多いことには、藤田も常日頃から腹立たしく思っているが、なかなか理解を得られない。
今日の記者会見にもいたなと思い出した。
大声で「社長はお飾りで、本当は相談役が全てを仕切っているということですか?」なんて質問をした奴がいた。あれは週刊誌の記者か?あんな奴まで会見の場に入れる必要があるのか?
いつものことだ。
放送局では経営者など育ててこなかった。優秀な人材とは、視聴率の取れる番組を作れる人間、スポンサー企業への営業が上手い人間、とにかく金を稼げる人間だ。そういう人材が最後に座るのが社長の椅子だ。世に言う経営など、俺がやれば十分だ。それも20年になる。さすがに、これが最後の大仕事になりそうだ。
今晩は眠れそうもない。明日以降また、出社前から自宅の玄関先に記者たちが群がるのだろう。
それにも慣れた。
藤田はそう思いながら静かに目を閉じた。少しでも休みたかった。

                                                                                        (つづく)


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Epitaph

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