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相手の顔を見ずにインタビューをする名パーソナリティ

40年以上にわたり、米国の公共ラジオ局NPRの人気番組「Fresh Air With Terry Gross」のホスト兼共同プロデューサーを務めてきたTerry Grossという人がいる。

大物政治家からアーティスト、芸能人、アスリートまで、数千人を超える人物にインタビューをしてきた彼女は、いわゆる“名物ラジオパーソナリティ”と聞いて想像するような、饒舌なタイプではなく、静かな口調で、率直かつシンプルな質問を投げかける。相手へのリスペクトを惜しまず、けれど時に鋭く刺すインタビューにはいつも惚れ惚れしてしまう。

最近、そんな彼女のインタビュー集「All I Did Was Ask: Conversations with Writers, Actors, Musicians, and Artists」 を少しずつ読み進めている。

そこで驚いたのが、彼女がほとんどのインタビューをリモートで行なっていることだ。毎週、フィラデルフィアのスタジオから音声をつなぎ、相手の顔を見ることなく、インタビューをする。

スタジオまでの交通費や時間の問題もあるらしいが、何より、自分がinvisible(透明)になり、相手の声を耳を介して聞く状態が、心地よいのだという。

私はもともと人目を気にするタイプでした。なので、ゲストやリスナーにとって自分が見えない状態であれば、物理的に、自意識を取り除くことができるんです。(中略)それに、誰かとヘッドホン越しで会話を交わすのはとても親密に感じられる体験です。彼らの声が脳に直接届いてくるのです。

耳を介するコミュニケーションの親密さには身に覚えがある。視覚情報がないからこそ、声から相手の表情を想像できたり、声色の変化から感情がより敏感に感じ取れたりする。わたしが小5の頃からラジオを聴き続けている理由の一つだ。

彼女は、その耳を介したやりとりならではの親密さを、リスナーだけでなく、インタビュー相手とも共有しているのだろう。それにより、きっとインタビュー相手は少し無防備になり、他の場所では語らない話を口にするかもしれない。

これからも、そんな血の通ったインタビューを届け続けてほしいなと思う。そしていつかわたしも、顔を見ないインタビューを試してみたい。

最後まで読んでいただきありがとうござました!