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翻弄されたマドリー。翻弄したタディッチ。

 ホームチームがあれだけ脆くなるのかという衝撃も混ざったが、アヤックスのアタッキングフットボールが真っ向勝負でマドリー相手に立ち向かった結果なんだろうとも思い始めた。決めるところで決めていればマドリーが試合を終わらせていたかもしれないし、不運もあったため結果以上の内容ではなかったかもしれない。ただ1人だけピッチでの存在感が異常で、実力を思う存分発揮した30歳のアタッカーがタディッチだった。

ゼロトップとして再境地

 サウサンプトン、更に前に所属していたトゥウェンテでも基本のプレーエリアはウィングポジション。アヤックスでもフンテラールやドルベリが出場する場合は、ウィングもしくはトップ下で出場が多いが、CLグループリーグのバイエルンとの2戦や先日行われたレアル・マドリーとのファーストレグのように格上のチームとの試合の場合は、ワントップの位置に入ることが多い。だが、ストライカーのようにDFラインとの駆け引きやクロスに迫力ある飛び込みをするのではなく、サイドに流れたり、ポジション関係なくフラフラしてボールを受ける。そうしてチームのポジションチェンジを促進し、攻撃的なフットボールを組み立てる。

自陣では難しいことはしない。サポートが入れば積極的に使う。

 前半の開始から15分あたりまでは押し込まれる展開が多かった中で、タディッチは守備ブロックに吸収されることなく、攻め残りをしていた。そしてボールがアヤックスの選手に渡ると、CBから逃げるようにサイドに開き、ボールを受ける。もともとウィンガーなのでサイドでの受け方はもちろんよく、ボールキープ力も高い。確実に攻撃の時間が作るためのボールキープをしていた。

 タディッチは決して難しいことはしない。タディッチに預けて攻撃に参加してくるネレスやジーエフといった生きのいいテクニシャンや推進力のあるファンデベークの動き出しを利用し、簡単にパスをはたいていた。タディッチのところで取られてしまったらマドリーの2次攻撃が始まるので、もともこもない。戦力的に優位を保つことが難しいチームは前線でどれだけ時間を作れるかが大切。その任務がきっちりと遂行できていたのはベテランらしい試合を読む力と落ち着きだろう。

タディッチは待ち続けることができる

 この試合タディッチが相手のミスを見逃さずにボールを奪い、タディッチのアシストからジーエフが決めて、アヤックスが先制する。このシーンでもタディッチはジーエフの攻撃参加を待ち続けて、あとはシュートをするだけの状況が作られてからパスを出した。ここでも無理に仕掛けて自分からシュートを打つのではなく、よりよい状況にある味方を選択し、その状況が生まれるまで待つことができていた。

狙いはいつもゴールに直結するかどうか。

 前半に生まれた2点目を始め、後半に訪れたビッグチャンスもほとんどタディッチが起点だった。まずは2点目、カゼミロを軽やかに交わすと、背後を走っていたネレスにスルーパス。このシーンでもネレスができるだけゴールに近くなるまで待ち続け、丁寧なスルーパスを送った。

 後半開始直後のファンデベークの決定機を演出したプレーも、相手に飛び込ませない間合いを作りつつ、ファンデベークがスピードに乗ってDFラインを突破するまで待ち続ける。そして身体を少し後ろ向きにさせて、DFラインの意識も前方に向かせ、背後のスペース管理をおろそかにさせる。スルーパスもカゼミロの股を通しているあたりが、策略として考えていたことが伺える。

 60分近くのマズラウィに対してのスルーパスも似たような狙いだ。トップスピードになってDFラインを突破するまで待ち、ゴールに直結するスルーパスを送っている。

DFラインの背後を狙う

タディッチがおそらく意識していること  

・アタッキングサードに入れば、足元ではなく背後のスペース。 
・味方のトップスピードに合わせて、パスを供給。 
・最適な状況を演出できるまでは待つ。急がない。

スペースを把握する力。カゼミロ周辺で遊びたい放題。

 マドリーがカゼミロのアンカーシステムだったこと、そしてクロース、モドリッチが守備時の切り替えが遅かったこともあり、カゼミロの負担はかなり大きかったことは確か。カゼミロが横に振られて、アンカー脇をカバーしにいくことでバイタルエリアには大きなスペースが生まれていた。

 2点目のタディッチのルーレットも個人技に目が行きがちだが、タディッチはカゼミロが飛び出したスペースを利用するために、ルーレットで中央に侵入。カゼミロを引っ張り出したことが、あの個人技につながったのだ。

 シェーネのゴラッソを生み出したのも、振り返ればタディッチがサイド付近でボールキープし、カゼミロがファウルをしたことから生まれた得点。他にもカバーリングをするために、右往左往するカゼミロの視野から消えて、エリア内に侵入するプレーもあり、攻撃のファクターになっていたのは間違いない。

黒子ファンデ・ベークとのポジションの共有。

 タディッチが自由に動き回る上に、ファンデベークはDFラインとの駆け引きを行い、マドリーのCBをピン止めする。よってバイタルエリアも空くし、CBがプレッシャーを掛けにくくしている。そのプレーを利用しタディッチは、ポジションに固定されず自由に動いているのだ。


ファンデベークの攻撃時タスク 

・攻撃時には背後を狙う。 
・味方のスペースを作るランニング。 
・CB間を延ばす。CBの背中を取る。

 また2点目のシーンに戻るが、タディッチがネレスへスルーパスを出したとき、ファンデベークは裏抜けをする動きをして、ヴァランを引っ張る。そうさせることでタディッチへのプレッシャーを掛けさせず、ネレスへのパスコースも消させない。足元で受けたがる選手が多い中で、ファンデベークのランニングの質と役割はとても重要だ。また彼らは縦の関係だけでなく、横の関係にもなれる。ファンデベークがサイドに流れ、ヴァランを引っ張るのであれば、タディッチはCB間のスペースを利用して、裏抜けをする。それについていかないといけないマドリーは状況によってはカゼミロが対応する。そうなるとバイタルエリアのスペースはどんどん広くなっていくのだ。 

 一見スタートのポジションや守備時のポジションだと、運動量豊富なファンデベークが守備的なタスクを担い、守備ブロックに吸収されるが、攻撃時には最頂点の位置に動いていく。


アヤックスの攻撃イメージ図

申し分のない3点目。トラップ、シュート全てが完璧。

 思わず完璧と思ってしまうほど、受け方、トラップ、シュートまでがスムーズすぎたタディッチのゴール。ゴール前に飛び込んでいくのではなく、CB前でストップしてネレスからのクロスを受ける。2タッチ目で真横、しかも少し後方にボールを置き、相手からボールを離し、シュートブロックがきてもボールが当たらない位置に。トラップまでしたらあとは得意の左足で、クロスバーギリギリの左隅にシュートを打つ。一連の動作が速すぎてこれはさすがにクルトワもしんどい。トラップですべてが決まったと言っても過言ではないゴラッソだった。


最後に

 マドリーもクラシコ2連戦(しかも連敗)がなければ、とは言いたくなるがアヤックスの姿勢を称賛したい。そして30歳になり、キャリアには円熟味を増していた選手が、若い選手たちに刺激を受け、更なる飛躍、成長をしているなと改めて実感した。さあどこまで行けるか。ベスト8は更に高い壁だぞ。

久しぶりにこういった選手分析記事を書きました。いっちょ前に言いますと書かない時間が増えれば増えるほど、書けなくなる。そんな感じがしました。普段から時間を作ってもっと投稿頻度を増やせるようにしたいですね。

最後まで読んでいただたきありがとうございました。

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就活生です。サッカーばかりでしかもコアなところを攻めています。少しでも驚き、笑いがあった方はサポートお願いします。