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ウキウキ・ウェイクミーアップ と トレスポのCHOOSE LIFE

■1984年の「選択」


年にこの『Choose Life』人生を選べ!と大きくプリントされたTシャツを着たジョージ・マイケルが飛び出してくる Wham! の「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」のプロモーション・ビデオ見た時、高校生になって市内まで電車で通学することになって、新しい日常の景色とともに16歳の僕の気持ちは上がっていたと思います。
曲調ももちろんですが、ジョージ・マイケルとアンドリュー・リッジリーの髪型や笑顔からこぼれる歯の白さや、このTシャツ以外のパステルカラーのファッションの色調も全てが気分を明るくするような、上げるようなものになっています。何といっても日本語の曲のタイトルが「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」ですからね。歌詞もご陽気そのもの「君は僕のハートドキドキさせる、君の愛で僕の気持ちは天まで届いて、頭の中は踊り出し、足もバンバン鳴っちゃう」って、もう女の子のことしか考えていないようなおバカな内容。
それで女性のバックコーラスを従えて陽気に踊るんですから、ジョージの胸にでかでかとプリントされた『Choose Life』に深刻な生きるための選択などありません。あっちの女の子かこっちの女の子、デートに着ていく服はこっちの服かあっちの服か、無限に消費されるライフ・スタイル、どちらを選択しても何を選択しても、例えば選択を失敗したとしても、本質的な明るい人生は何も変わらない「選択」のことを言っていたような気がします。

この曲がリリースされた1984年。東西冷戦の出口前ではありましたが、西側の経済は安定しており、消費することの価値観が高まっていたんだと思います。本質的なものに増してスタイルが重視されている雰囲気だったかもしれません。ジェンダー的なものなんかも含め多様化が始まったのはスタイル重視の世の中の雰囲気は大きく影響していたんだと思います。
アメリカではプリンスみたいにセクシャルなイメージを前面に出してお尻も出した人種を超越したようなアーティストが人気だったり、マドンナが「ライク・ア・ヴァージン(処女のように)」と歌ったり、UKではボーイ・ジョージやピート・バーンズがいて、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドみたいなバンドまで現れたのはそんな時代の雰囲気や背景があったからだと思います。
ただ、UKの経済経済は低位安定だったのかもしれません。
イギリスを含めユーロ圏の先進国は成熟した国家をどう成立させていくかが大きな課題であり、拡大しない国力の中で高福祉な社会を維持しようとする国が経済的にアメリカや日本に対抗できず、高い失業率を招き、若い人たちから活気を奪っていったのかもしれません。イギリスではワーキング・クラスが金持ちになるにはフットボールの選手になるかロック・ミュージシャンになるしかないと言われた時の話です。
アメリカ、日本を中心とした経済バブルに乗ってユーロ圏の経済も一定程度は成長したはずですが、さまざまな産業の民営化と福祉医療の絞り込みにより、イギリスの格差社会は加速したようでした。そんな中でイギリスでも不動産バブルがはじけ一気に景気は下降し、イギリスの若者も日本の若者と同じような閉塞感を感じるようになって行くという時代背景があったと思います。

■1994年の「選択」


、10年ほどが過ぎた頃。1996年のイギリスの若者カルチャーを描いた映画「トレインスポッティング」の冒頭、ユアン・マクレガーが演じる主人公レントンは『Choose Life』と言っています。それは1984年のジョージ・マイケルのTシャツにプリントされていた意味と全く異なってはいますが、「人生やめますか?薬(ドラッグ)やめますか?」と言うようなドラッグ撲滅キャンペーンのスローガンでもありません。「人生」と同じところに列挙されているのは仕事やキャリア、大型テレビやCDプレーヤー、老後や子供のことであり、それは人並みの人生を形成するものたちに過ぎません。この「人生」の選択すら不確かものはものとして描かれたこの映画は当時の日本の若者の共感も得てインディペンデント映画としてはすごくヒットしました。
イギーポップの ”Lust For Life”、アンダーワールドの ”Born Slippy” といった劇中でも使われた曲の入ったサントラも人気で、「トレスポ」と略して語るのがおしゃれだったりもしました。
渋谷のシネマライズでは異例のロングランになって、次に上映が決まっていたシド・アンド・ナンシーの公開スケジュールがなかなか決まらなかったっていうのが当時の思い出です。
私自身のその頃はちょうど会社勤めを辞めるのが1996年の春で、アルバイトをしながら自営でTシャツのプリント販売を始めた頃でした。まさに『Choose Life』だったんです。ジョージ・マイケルのように明るい未来に浮かれてる事はありませんでしたし、かといってトレスポの若者たちのように刹那的かもっと緩やかなものを選択するようなものでもありませんでした。『Choose Life』は重要な言葉ではありましたが、もう少し簡単に自分のできることを知りたい、知りたかったということです。自分は「どういう人間と言えるのかの選択」でした。それを選ぶための『Choose Life』だったんですね。
なのでこの単純に人生を選べと力強く太い文字でプリントされたTシャツを見るたびに自分のやったことを思い起こす事になるんです。やっぱりこうしてTシャツと音楽と少しの映画についてお話しできるのもあの時の選択があったからだとつくづく思うわけです。

■Choose Life Tシャツ


言うわけで、Tシャツの紹介です。ジョージマイケルが来ていた『Choose Life』Tシャツはイギリスはロンドンのブランド、「キャサリンハムネット・ロンドン」のものです。
デザイナーのキャサリン・ハムネットは1983年にこの白地に太い黒文字でスローガンをプリントしたTシャツを販売しました。そのごく初期のものがお話ししたWham! のビデオクリップで使用された『Choose Life』と言うわけです。
Queenの"Hammer to Fall"と言う曲のプロモーションビデオの中でもドラムのロジャー・テイラーが全く同じTシャツを着用しています。
今でも販売されているこのTシャツ、現在は前面プリントのみですが、発売初期のものは背面にも『Choose Life』とプリントされた両面プリントになっていました。Wham!のPVでも Queen の PV でも両面プリントであることが確認できます。私の持ってるものもキャサリン・ハムネットロンドンの最近のものなので、前面のみプリントでキャサリンハムネットの小さいロゴがプリントされています。なので、実際にジョージやロジャーが着ていたものとは異なるんですが、一応公式のもの、オリジネーターのものと言うことでとても気にいっています。

Tシャツにプリントされた文字の意味も時代の移り変わりによって意味が変わったり、イメージが変わったり、とても面白いなぁと思うわけです。
80年代と90年代をつなぐような話をしましたが、次回は同じようなタイプなのでもっと80年代なTシャツを紹介します。

■おまけ


人生とは選択の繰り返しであることは、今更僕のような人間が語るまでもありません。そして、同じようにその都度都度の選択が「正しかったのか」、「そうでなかったのか」の相対的な比較は永遠に不可能なのです。であれば、選択の正否を考えることに意味はあるのでしょうか?
よりよく生きるために過去の経験を顧みることはとても大切なことでしょう。そういった意味では選択の正否を考えることは「意味ある」ことかもしれませんし、今ある結果に何の変化ももたらさないといった意味では「意味のない」ものなのでしょう。
間違いないのは、「選択を誤った」といった思いに囚われることには意味がないということだと思います。その思いに囚われて変えようのない今を悲観する時間がたっぷりあるほど人生は長くないような気がします。
おまけにしては少々説教くさいことを記しましたが、人生100年時代としても折り返し地点を過ぎた頃から、そんな思いがはっきりしてきました。
皆さんに良い人生の選択がありますように。


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