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Rock’n'Roll Photographer, Mick Rock

■プロローグ

実は今回Queenの写真集が発売されたのと、ちょうど同じタイミングでロンドンのポップアップストアで販売されたQueenのTシャツが届いたので合わせて紹介する動画を撮ろうと思っていたんです。で、11/18に購入したこちらの浅沼ワタルさんが撮影したQueenの写真集を見てて、この写真集もとても貴重な"Night At The Opera"を制作中のスタジオ内のショットとかあって見ていてワクワクするようなものなのですが、表紙であったり、"Night At The Opera"に収録されている言わずと知れた名曲ボヘミアンラプソティのこの曲はプロモーションフィルムが作成されているのですが、その撮影風景のショットを見ると、このフレディがマレーネ・デイトリッヒを真似たポーズと右にジョン、左にロジャー上にブライアンの構図ってこれQueenの2枚目のアルバム"QueenⅡ”じゃんって、そしてその構図で写真を撮ってるのはミック・ロックじゃん、そしてミック・ロックにはプロモフィルムに全く関与していないどころか、何の断りもなく使われたって、ちょっとぼやき気味に語っていたことを思い出して、ミック・ロックが撮った初期のクィーンの写真集も引っ張り出してきて眺めたりしてたんです。
そうしたら、なんでしょう、本当に何か驚いたのですが、その写真家であるミック・ロックさんの訃報が飛び込んできました。なので、急遽Queenの写真から繋がってミックロックさんの追悼動画ということで、今回お話しをすることになりました。

■追悼、ミック・ロック

実はいつも我々のチャンネルの動画の最後にスペシャルサンクスとして名前が出ているレーヨンヴェールの川口眞人くんというのは僕の高校生の時からの友人で主に舞踊ダンスなどの舞台の総合プロデュースの仕事をしているのですが、そういった観点でこの撮影スタジオの設計から、動画のライティングであるとか音響とかに力を貸してくれているんです。その川口くんはかつてミック・ロックさんが東京で写真展を開いたときに仕事で関わりがあって、実施に会ったり仕事でやりとりなんかをしたことがあるんです。僕もその写真展は観に行ったんですが、実はその時は写真展に川口くんが関与しているのを知らなかったんです。それで後になってからあの時の、って話になって盛り上がったんですが、なので今回はいつもは表に出ていない川口くんにインタビューというような形式でWikiには載っていない話しを聞けたらと思います。

■ミック・ロックとの思い出

ー川口くんは元勤めていた会社でミック・ロックさんとお仕事をしたことがあるということですが、ミックさんの思い出というかエピソードはありますか?ー
当時私はカンバセーションという会社にいました。その会社は神保町にあったんですけど、そこにいきなり長髪パーマーにサングラスで入ってきたんです。
ロック・スターみたいな人だなぁと思って見てたら、会社の上司が「ミック・ロックさんでーす」と紹介したんですね。で、ミックさんは「フフフッ」と笑って私に一瞥をくれたんです。当時私はミック・ロックをよく知らなかったんですが、後でミック・ジャガーやデビッド・ボウイやクィーンの写真を撮ってる有名な写真家だと知ったんです。2003年のことですね。当時その会社はクイーンのミュージカル『We Will Rock You』を招聘しようとしていて、そんな流れもあってミック・ロックの写真展覧会を開こうと企画したんです。
(容姿、服装は)Gジャンを着てて軽装だったけれどおしゃれでしたね。
ミックさんが成田に着いたらアテンドに行って、タクシーでホテルまで送迎することになるんですが、ミック・ロックさんはリムジンを指定してて、リムジンじゃないとダメだって、お金が結構かかったという(笑)

ー一緒にお仕事もされてどんな方でしたかー
当時の会社はコンサートなんかを企画するノウハウはあったんですが、写真展は初めてでした。
写真をどのように展示物にするかよくわかっていなかったんです。
なので、写真のポジフィルムを渡されて「これを8m大に引き伸ばして展示したいんだけど」と。
自分はたまたまポジをスキャンできるスキャナーを個人で持っていたので、私のスキャナーに(ミックさんから送られたポジを)取り込んで東京都写真美術館の壁に展示しました。そんな大事なものをよく自分の会社で加工しようと思ったなぁと
ミックロックさんからポジをDHL(郵送)で送ってもらって、加工して、また送り返すという、今では考えられないようなアナログなことをしていましたね。

ー最後にミック・ロックさんへお言葉をお願いしますー
スターを撮るという写真家としてのスタンス、アーティストに対する敬意のある人だったと思います。敬意というのがどこに現れているかというと、アーティストとの距離が近すぎず、遠すぎずというところ。
近いということは関係性が深まるということで、(アーティスト)の精神性、内面に入り込み過ぎるということ。ミックロックさんの場合はアーティストだったりステージだったりから一歩引いたスタンス、距離を感じるんです。舞台の写真なんかだとローアングルの写真が多く客席最前列からアーティストを見上げる構図が多かったと思います。同じような(アーティストを撮影した)もので、こちらも亡くなられた中村勘三郎さんの公演「平成中村座」これはNYでも公演をしているんですがその写真もミックロックさんが撮ってらっしゃるんですけど、歌舞伎をローアングルで撮るというのは非常識でありえないことなんです。そしてキメのポーズを撮るというのが歌舞伎の写真の一つの腕なんですけれど、(ミック・ロックの写真は)そうでない素になったところだとか息継ぎをしているところだとか、非常に生なところのライブ感のある写真になっています。そういうところを撮れるというのはそのアーティストを見つめていたということだと思うんです。そういうところに(ミックロックのアーティストに対する)敬意を感じます。
ー本日はありがとうございましたー

■話し足りなくて再登場


ミックロックさんの写真についてもうちょっと話すべきことがあったと思ってまた出てきてしまいました。
アーティストの写真を撮る人って世の中には多くいると思うんですけれど、スタジオでキメ(ポーズ)が入った見せ所のある写真いわゆるアー写というものを撮る写真家も大勢います。それはもう本当にアーティストをモデルのように美しく撮る方も多くいます。ただミック・ロックさんの場合ルポルタージュという側面が凄くあったと思います。それはアーティストに対する敬意、そしてとても良い距離感を保ちながらその現場にいてアーティストの生きている瞬間を切り取ることを使命として感じられていたんじゃないかという気がします。
例えばこのミック・ロンソンとデビッド・ボウイの写真ですけど、これは舞台の裏側を撮っているんですよね。ステージの袖から撮っているんです。ステージの袖ってスタッフがいたりローディがいたりして、僕なんかもよく目にするんですけどローディが写真家に「邪魔だよ!」なんて怒っていたりするケースが結構あったりするワケです。「オメェがいたら仕事になんねぇよ!」とかあったり、舞台裏って熱いものなんですけど、そういうところに入って行って裏側から見つめる目線というのが凄く大事というか、それこそ、素のアーティストに信頼され、アーティストに敬意を持っていた写真家であるミック・ロックさんじゃないと残せなかったんじゃないかと思うんです。被写体としてではなくアーティストを生きる対象として、絶えず敬意を払ってその姿を100年後、200年後に残してやろうという気持ちが凄く感じられました。
この写真が撮られたのは70年代で今から約50年前です。その時代を切り取れる後世に残せるメディアは写真しかなかった。そのメディアで100年後、200年後にアーティストを残すということを凄く意識してされていたんだと思います。
写真というメディアはもちろん時間が経てば次のメディアが出てくるかもしれませんがその瞬間では未来永劫その人を残すという意味でとても重要なメディアだったと思います。そこに対する使命感であったりその時代にしかできなかったことを気付かれたのかなぁと思います。
感謝しかありません、今でも過去のアーティストの生きる姿生き様精神のありどころを残してくれた素晴らしい芸術家(アーティスト)の一人だと思います。ミックロックさん敬意を評します。
ありがとうございました。

■エピローグ

いかがだったでしょうか?
ミック・ロックさんは初期のヒプノシスのメンバーだったようですし、その繋がりというわけではないのでしょうが、ピンクフロイドを脱退した後のシド・バレットのソロアルバムのジャケット写真を撮っていたりしますし、ルーリードのトランスフォーマーやイギーポップアンドストージズのロウパワー、冒頭話したクイーン2や3枚目のアルバムシアー・ハートアタックなど、もう僕自身がものすごく好きなアルバムやアーテイストの本当に印象的なしゃしんを撮っています。
なので、本当に残念で悲しいんですが、このクラッシッククィーンの写真集の中でフレディと二人で映るポートレイトが多くあります。インタビューなどからも当時ミック・ロックはフレディととても仲が良かったそうですし、亡くなられた日付も近いのでなんかやっぱりそういうこともあるのかなぁと思ったりもしました。
ミック・ロックさんのご冥福をお祈りします。そしてミック・ロックさん、我々ロックミュージシャンのかっこいい姿を見せてくれて、本当に本当に感謝しています。ありがとうございました。


■おまけ Rock 'n' Roll Eye 写真展

川口くんがカンバセーション時代に制作に携わったミック・ロックさんの写真展『Rock'n'Roll Eye』の話をおまけに加えておきます。
2003年の夏、僕は少しまとまった夏休みを取っていました。まとまった休みを利用して東京都内から鎌倉の材木座海岸の近くに引っ越しをするのですが、その年の夏は冷夏でせっかく海の近くに引っ越したにも関わらず、キラキラした夏の海の景色を見ることがなかったという思い出があります。その日も雨こそ降っていなかったのですが蒸した風の吹く曇りの日。僕は海とは反対側の鎌倉駅から湘南新宿ラインに乗って恵比寿に向かいました。ミック・ロックの写真展『Rock'n'Roll Eye』を観に行ったのです。
この写真展は単に美術館に写真が展示されているだけではなく、様々指向を凝らしたものでした。動画の中で語られている壁8mの写真はロックのライブステージから声援を送るオーディエンスを写したもので、ほぼ実寸大で表現するために引き伸ばしたものでしたし、妖艶に微笑む若きフレディ・マーキュリーの写真は横たえられ周りにたくさんの黒や紫の花が飾られ荘厳な雰囲気を出していました。デヴィッド・ボウイのコーナーではミック・ロックが撮った"Life On Maes?"のビデオが流れるなかジギー時代の様々なショットが展示されてているといった本当にロックコンサート会場にいるような賑やかな写真展でした。
この辺りの演出もミックさんの案や指示だったようですし、展示された写真にはミック・ロックさんの解説があって、販売された写真集には日本語解説もついていました。シド・バレット、フレディ・マーキュリー、ルー・リードそしてデヴィッド・ボウイ、ロック・スターとして輝やく彼らの姿を永遠に切り取った写真。彼らのロック・スターとしてのイメージはミック・ロックの写真による部分が物凄くあったんだということを気づかせてくれるようなそんな写真展だった。

川口くんはQueenの『We Will Rock You』の仕事をしたりした後、その会社を辞め様々な仕事をする中、2012年頃、SNSを通じて僕と再会するもこの写真展に関わっていたことを知ったのは2021年になってからミック・ロックのポジデータが残っているという話を聞いた時のことだった。そのデータが『Rock'n'Roll Eye』写真展のもので、14年前、僕が写真展で購入した『Rock'n'Roll Eye』写真集の中にもあるものだったからだ。
そして、その写真集は今でも大切にしており、今回の動画の中でも登場いただいた。

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