見出し画像

ちょっと正気を失って

2006年の春ごろから〜2009年の春まで、秋葉原から末広町の駅の方に向かって中央通りとジャンク屋の通りに挟まれた通りにある雑居ビルに『Schatzkiste』と書かれた看板がかかっていました。エレベーターもないこのビルの階段を5階まであがって重い扉を開けるとそこは日常を忘れさせてくれる素敵な空間がありました。
そのころの思い出と私の中のロック音楽とメイドさんのミッシングリンクのお話しです。

■80年代のピンク・フロイド

中学生の私が当時読んでいた音楽雑誌『ミュージック・ライフ』ではピンク・フロイドの活動を追うような記事は少なく、既にバンドの中心メンバーであったロジャー・ウォーターズと残ったメンバー(デビッド・ギルモア)との間のバンド存続に関するゴタゴタを知らせるようなものが多かったと記憶しています。コアなフアンは日本にも多くいたことですから、ホント気がきでない思いで各音楽雑誌の記事を正に固唾を飲んで読んでいたことと思います。
駆け出しのロック少年であった私はもっともっとわかりやすいもの、MTV的なものの方に興味があったので、ピンク・フロイドのニュースよりデュラン・デュランのメンバーやジョージ・マイケルのグラビアページの方を一生懸命に観ていたかもしれません。
それでも、ロジャー・ウォータースの脱退。ピンク・フロイドは存続。ニューアルバムの作成に入ったということは、リアルタイムでピンク・フロイドのアルバムが聴けるという期待感みたいなものがあったような気がします。

そんな中、1987年にデビッド・ギルモアを中心にしたというか、ほぼデビッド・ギルモア一人のピンク・フロイドはニューアルバム”A Momentary Lapse of Reason”を発表します。
ミュージックライフのアルバム評価は星四つだったと思います。期待を膨らませるには充分でした。日本発売直後にレコード店で購入。そうして初めてリアルタイムで経験するピンク・フロイド、”A Momentary Lapse of Reason”
正直なところ、最初に聴いた時、どんな印象を持ったのかさえも記憶にないくらい印象のないものでした。プログレッシブロックというより、80年代に流行った大人のロック、AORのような音で、BGM的な音ゆえの印象の薄さだったと思います。

■アルバムジャケット

ただ、印象が薄いといってそのままラックにしまわれてしまうようなことはありませんでした。何度も何度も聴きました。正にBGMとして聴いたのです。
アルバムの曲をBGM にして、私はずーーーっっとアルバムのジャケットを眺めていました。ピンク・フロイドのジャケットに復活したヒプノシスのストーム・ソーガソンが手がけたジャケットのアートワーク。
海岸線の先、見えなくなるまで敷き詰められた無数のベッド、一つのベットに腰掛けうつむきたたずむ男性が一人、波打ち近くに数匹の犬と遠くの空のハングライダー。そして見開きになっているジャケットの裏側に当たる部分にはベッドメイキングをしているのかシーツを持ったメイドの女性がこちらを見ている。
まるでダリやマグリッドの絵画が現実になったかのようなシュールな風景。一体何を意味していて、このジャケットの風景はこのアルバムの曲とどのような関わりがあるのだろうか、そんなことを考えながらジャケットの写真を隅から隅まで、ジーーーっつと眺め他ものです。アルバムの曲をBGMにして。
もちろん、答えが見つかるようなものではありませんでしたが、もうあまりに観すぎて、好きすぎて、そこから何回か引っ越し岐阜→奈良→大阪→東京→鎌倉→横浜と、引っ越す度にそもそもレコードプレーヤーすら持たなくなって久しかったにもかかわらず、ずっと持ち歩いているアナログレコードなのです、(CDジャケットだと小さすぎてダメなのです)

■白と黒のメイド

裏ジャケットのメイドの女性のことも余り観すぎて、ちょっと好きになってしまうくらい、もう黒の制服に白いエプロン白いカチューシャの黒と白のモノクロコントラストがたまらなく、その時は意識していなかったのですが、それから20年の後に秋葉原でシャッツ・キステと言うメイド喫茶的なところでクラシカルなメイドスタイル、黒いロング丈のワンピースに白いエプロンと白いカチューシャに出会い、もうパーンと頭の中にあった海辺のメイドへの記憶と憧憬が呼び起こされて、またそのシャッツ・キステというカフェもいわゆるメイド喫茶からイメージするアキバとか萌とかとかといったものからは一線を画していたこと、そこに集う人たちのサブカルチャーへの愛みたいなものも心地よく、ついつい通うようになったということがありました。シーズン1の第3回でもお話ししたちょうど秋葉原がアキバと言う呼び方に変化する時を経験したものにとっては嬉しく、そしてどこか安心する経験でもあったのです。

それ、ただメイド喫茶にハマったのを言い訳してるだけだろ?!と言う方もいらっしゃると思いますが、まぁおっしゃる通り言い訳が大半なのですが、まぁそのメイドカフェ的なところのオーナー、美しく聡明な方が主催したワークショップでサブカルに造詣持つ仲間と同人誌を作り、その同人誌の中で”A Momentary Lapse of Reason”というこのジャケットを題材にしたショート漫画を描いたことが今から14年ほど前の思い出なのです。
1987年の”A Momentary Lapse of Reason”、裏ジャケットのメイドの女性から20年の後にメイドさんと”A Momentary Lapse of Reason”の漫画を描いた、ロックと秋葉原の想い出。
ピンク・フロイドは2014年に"The Endless River"というアウトテイク集を最後のオリジナルアルバムとしてリリースしたのちに静かに消えて行った状態です。
残念ながらそのメイドカフェ的なところは昨年閉店されたとのことです。生き馬の目を抜く業界の中でも老舗的な良いお店として人気であったことから多くの人から惜しまれてということだったそうです。

■シャッツキステ

シャッツキステと言うお店でした。私が通ったのは2006年から2008年頃の2年間ほどでしたが、その時の思い出は私にとってとても大切なもので宝物のようなものです。ドイツ語でシャッツが宝物ということと、惜しむらく閉店されたそのお店から受けた影響を尊敬の念も込めて、このチャンネルの名前に込めたワケです。
Keep Calm On Tee Schatz シャッツはドイツ語のシャッツ、シャッツキステのシャッツです。

今回、全くTシャツの話ししていませんが、こちらは”A Momentary Lapse of Reason”リリースに伴う1987年から1988年にかけての北米ツアーのTシャツです。ここでも”Dark Side Of The Moon”の「三角プリズムによる光のスペクトラム分散」です。


画像1

おまけのお話し
狙ったわけではないのですが、シャッツキステさんが閉じられて丁度一年だということです。
昨今の時勢の流れで、自宅にいることも多く、色々なものを整理しているうちにシャッツキステの思い出の品もたくさん出てきました。動画のサムネイルと最後に一品もののグッズを載せてみました。
あと、自分が作った同人誌なんかもダンボールから出てきて恥ずかしかったり、懐かしかったり...
そんなことをしていたら、なんと”A Momentary Lapse Of Reason”の Remixed & Updated 盤がジャケットも新装されリリースされました。
なので、急遽リミックス&アップデート盤をレビューした動画を作成して、もう一度メイドさんのイラストを描いてみました。
次回の note 記事はそちらです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?