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通りすがりの魚屋さん外伝【アサシン断章】#3

これまでのあらすじ1)
Mystic Horizon On-line……みほおん編集部が謎の黒服トルーパーの襲撃により爆発。一方とある町に住む何の変哲もない青年、レイには謎のアイテムが届いていた。鈍く輝く金属の籠手に刃が仕込まれた暗器……神秘的な魚売りの女性に相談するも、正体は分からなかった。
そしてレイにも黒服トルーパーの魔の手が!魚売りの女性と通りすがりの禅僧の助けによりその場は切り抜けたが、戦いの中レイの意識は様々な時代のビジョンを垣間見る。さらに謎めいた暗器は彼の運命を狂わせてゆく……。


(これまでのあらすじ2)
宿で休息をとっていた三人の元に、ある女性が現れる。彼女こそみほおん編集部の生存者、シルフィードであった。彼女はみほおんが真に魔術結社であり襲撃によって世界崩壊の危機が訪れた事、襲撃者はドブガワ・グループなるメガコーポの尖兵である事、そして……。
レイの元に謎の暗器……アサシンブレードを送ったのは自身だと語ったのだ!シルフィードは何らかの予言を基にレイに希望を託したのだと言う……しかし、またもや黒服トルーパーの魔手が!魚売りは謎の協力者の力を借り皆を空間転移させた……!


「言っとくけど、『姫』に軽々しい態度はとらないようにね!!」

激しいヴォーテクスの門を突き抜け、何処までも蒼く深い深海じみた空間を降下する四人。魚売りが皆に注意を喚起した。

「特にボンズさん!!」
「何故俺だ!?」「そういうとこ!」
「すみませんお姉さん、『姫』って誰ですか!」「すぐわかるわよ!」
「あの……貴方の事は何と呼べば」「魚屋さんでいいわ!」

三人から疑問の声が上がるが、魚売りは適当に返す。無論説明する気が無い訳ではないが……。
「三人も一緒に転移するのは初めてなの!集中させて……」
皆を護る超自然の泡の維持転移先座標とのずれ修正『姫』との精神同調に精神的リソースを割かねばならない!

……そして、『水底』が近付く……下降速度は徐々に緩やかになる。

「もうすぐよ、着底に備えて!」


(……『姫』……来客です……!!)((あら……久しぶりね……))


「ルリャアァァーッ!!」
魚売りの神秘的シャウトと共に超自然の泡が急速に膨張、外部との境界が……消失!それと共に皆がふわりと着底する……

……その眼前に『彼女』は居た。


――――――――――――


「『姫』……わたし達陸の方で色々危ない目に遭っちゃって……この人達も此処で少し休んでいっていい?」
『あらあら……少しと言わずゆっくりしていっていいの……誰が来る訳でもないし』

『姫』と呼ばれた存在は玉座めいた珊瑚の上に座し、思念を介し直に語りかけてくる。
その姿は複数の尾を持つ有翼のマーメイドにも、海月やクリオネと人間の女性が融合したかのようにも見える。

「おいおいあれは……」「お姉さん、これは……」「まさか……!?」
異様に異様を重ねた状況に魚売り以外の三人は動揺する。まず禅僧が口を開いた!

「……その姿もしや、ソロモン72柱42位のアクマ、ウェパルかグワーッ!」
「ルリャーッ!」魚売りが禅僧の脛に鋭いローキックを見舞う!「言わなかったかしらボンズさん?」

『まあまあ止めましょう……さて、ウェパル……そんな名で呼ばれたこともあったわねえ、昔の話よ』
「えっ!?」魚売りが思わず聞き返す。
『……言わなかったかしら』

『姫』が語るには、禅僧が言及したソロモン72柱の魔神ウェパル……旧約聖書に記されし海の魔獣リヴァイアサン……バビロニア神話の母なる海の神ティアマト……《深きものども》の崇拝者達に語られる母なるハイドラ……それらあまたの神や悪魔は……。

『……まぁ、全部わたしだとも言えるし……違うとも言えるの。全ては人の子が見出した一側面よ』

驚愕の発言!皆が混乱をきたすのも無理はないだろう。
シルフィードは魚売りに顔を近付け、必死に情報を聞き出そうとする。
「すみません、全く状況が把握できないのですが……魚屋さんはどの様にしてかくの如き高位存在との協力関係を」「話すとすごく長いわ!」
魚売りはこの話題をはぐらかす!その後ろで頭を抱え恐れ慄くレイ!
ふと禅僧が魚売りに耳打ちする。

「……あの『姫』とかいうの本当に信用していいのか?」

魚売りの喉首突きチョップが禅僧に放たれる前に『姫』が反応した。

『あらら……どうも信頼がないみたいねぇ。なら……これでどう?』

そう告げると『姫』はふわりと珊瑚玉座からシルフィードの目前に舞い降りる。そしてシルフィードの肌に残る痛々しい傷痕を見ると……半透明の羽衣じみた触手を伸ばし、そっと触れた。
シルフィードは一瞬恐れるような表情を見せたが、それはすぐに心地良さそうな笑みに変わる。幾つもの傷痕はたちまち瘡蓋に変わり、剥がれ落ちて跡形も無く消え去っていった……。

「……有難うございます……!!」シルフィードは深々と頭を下げる。
「少なくとも、協力的な存在なのは理解できた」禅僧も信用したようだ。
「凄い……!!」超常の力に唯々圧倒されるレイ。

『信じてくれて嬉しいわ……話はだいたいこの子から聞いてるから、よろしくね』
「……と、いう事よ」魚売りが三人に告げた。


――――――――――――


「そう言えば、何故海の底なのに普通に呼吸ができるんだ?」
「それはわたしが説明するわ……確かこの海は虚数で座標が定義されてるとかで、わたし達が住んでる実数で座標を定義する世界の法則とは違うらしいのよ」
「よく分からないぞ、異次元みたいなものか?」
「その程度の理解で問題ないと思うわよ」

「あの、すみません……」
魚売りと禅僧の会話に傷の癒えたシルフィードが割って入る。
「怪我も治りましたし、これから如何すれば良いか皆さんで一旦相談しませんか」
「それもそうね……」魚売りがシルフィードの方を向いて頷く。
「とりあえず身の危険は去ったが、これからが問題だ」
「シルフィードさんが言うには、このまま放っておいたら世界の危機なんですよね」
レイがにわかに信じがたい現在の状況を反芻する……ふと彼は自らを凝視する視線を感じた。

『姫』だ。大きなアンモナイトを撫でながら、レイを優しい視線で見降ろし……やがてその目の前にふわり、と降りて彼を抱き寄せた。

『……あら、可愛らしい……食べちゃいたいくらい……』
「ウワーアアアアッ!?」強大な存在格が原初的恐怖を呼び起こす!
この状況には下手に出ていた魚売りも流石に苛立ちを隠せない。
「……ちょっとやめてくれない、本気で怖がってるじゃない!!」
『うふふふ、冗談よ……』
「……レイ君、『姫』はいつもあんな感じだから気にしないでね」
「アッハイ……」

『ところで右手に着けてるそれ……アサシンブレードよね。懐かしい品物だわ……でも、ここに在るべきではない』
『姫』は全てを見通したかのように核心に切り込む。レイを抱いたまま。

「ご存知なのですか、アサシンブレードの事を……!!」
「だとすれば、新たな情報が手に入るやも知れぬ」
「それはそうと、レイ君だいぶ気に入られたみたいね」

レイは顔を上げると『姫』に尋ねた。
「……教えてください。これが何なのか。僕とどういう因果があるのか」
そして彼女は応えた。

『……どうやら、昔話をする事になりそうね』


『……わたしはずっと古くから……それこそ神話の時代から人類史を見守ってきた』
「この雰囲気……出任せやハッタリではない、にわかには信じがたいが事実だろう」
わたしの能力も『姫』がくれたものだけど、初耳の話がぽろぽろ出てくるわね」
「魚屋さん、実際『姫』とやらとどういう経緯で知り合ったんだ……」
それは秘密よ?ボンズさん。さて、話の続きがあるわ」

『……人の子が地に満ち文明を持つに至り、互いに相容れない思想を正義とする者達が争うようになったわ』
「ありがちな話だな、今でもある」
「……待って、僕何か思い出しそうな……」
『……人類史の裏で暗躍した二つの勢力……民の完全管理を是とする騎士団と人の子が持つ自由意志を尊ぶアサシン達がその最たるものよ……』

レイは己のニューロンに引っかかっていた何かが外れたような感覚がした。

「ちょっと待って、今騎士団って言いました!?」『言ったわよ』
「騎士団……黒服の男……イシェザク……大聖堂……ロンドン……!!」
レイは宿で己が見た産業革命期ロンドンのビジョンを必死に手繰り寄せる。
『ロンドン……確かブリテン島の大都市ね、海の記憶にある人類史を洗って騎士団とアサシンが何かしてないか確かめるわ』


――――――――――――


『……やはりね』「「「どういう事……?」」」三人が息を呑む。

『……人の子が火を以て水を沸かし、重い鉄の絡繰りを動かすようになった頃よ。ブリテン島では騎士団とアサシンの暗闘が繰り広げられていたわ』
『騎士団は人の子はあまりに増え過ぎたと憂い『世界統制機構』を用いて世界規模の管理を敷こうとした……その指揮を執ったのは』
イシェザク騎士団長代理、ですよね」レイが言葉を続ける。

『……どうして知ってるの?』「わからない、けど僕は見たんだ……過去を。あいつはアサシンに倒されて統制機構も潰えた筈だけど、何か引っかかる」
『過去視ね……アサシンブレードはその名の通り人類史の裏でアサシン達に受け継がれてきた武器……何の因果もなくその手に渡るはずはないの』

ここに明かされる恐るべき歴史の闇!

「シルフィードさん最初から知ってて……ごめん、僕が不甲斐ないせいで」
「いえ、レイさん……私も出来れば巻き込みたくは無かったのですが……」

レイは海底に立ち、シルフィードの方を向き直る。『姫』はそっと離れた。


僕だってアサシンです。覚悟はできてます」
「私も力になって見せます、無理はしないで……


『ずいぶん仲良くなったみたいね、あの二人……』
ふと思い出したように魚売りが『姫』に声をかける。「これは推測だけど」
『……あら、言ってみて』「騎士団の隠れ蓑として日本のメガコーポが使われている可能性」『……人類史上大いにありうるわよ。心当たりあるの?』「ドブガワ・グループを調べられる?本社は東京よ」
『あらあら、東京なんてついこないだまで海の底だったから簡単よ……』

「で、どうなんだ」禅僧が割って入る。
『……良くないことになってるわ。まずこの子の勘は当たり、ドブガワ・グループとやらは騎士団の隠れ蓑で間違いないわよ』
「……やっぱりね!」「良くないこととは具体的に何だ」
『『世界統制機構』が再起動する兆しがあるの……!!』
「何、イシェザクとやらの企みはとっくの昔に潰れたんじゃないのか」
「Mystic Horizon襲撃事件もその『世界統制機構』と関係ある?」
禅僧と魚売りの問いに『姫』は続けた。
『……ブリテン島で騎士団はアサシンに敗れ、統制機構も失敗に終わったわ。アサシン達は統制機構のエネルギー源たるパワーレリックを奪い、別々に封じたの』
「じゃあ、統制機構が再起動するって事は……」レイの表情が険しくなる。
『騎士団が再び力を手にしたっていう事』

「私が説明しても良いでしょうか」シルフィードが口を開いた。
『もちろん……こういう時は力を合わせないとね』
「アサシンの予言には、何れ来る決戦の時……大いなる力、世の理を示す六つの宝珠の存在が記されています」
力・技・心・時・空・そして……」『、ね……その全ての力を引き出した者は、神にも等しい力を得る』
「しかし既に力・技・時・空の宝珠が襲撃者の手に……!」
『虚の理の宝珠は……確か宝物庫に隠してあるはずよ、あなた方に託しましょう……』
……だがその時!!『あれは……!?』


GZZZZZZOOOOM!!!!


頭上の水面に穴が開き、冒涜的漆黒色彩の砲弾じみた潜水艇が三隻出現!
中央の小型艇一隻を護衛するように威圧的な大きさの二隻が随伴する。

『あなたたち、ここはわたしの領域よ!挨拶もなしに何しにきたの!?』『姫』が思念波で呼びかけるが反応なし!話の通じる相手ではない!
小型潜水艇の船首下部から世の理に背く黒よりもなお黒い光線が放たれ、城砦めいた岩山の一角を抉り抜く!

『目的は宝物庫ってわけね』

『姫』の思念が強まり、増大する存在格に魚売り一行も押し潰されそうになる!!
「これが歴史の上で神格とされた所以か……!!」「……ここまでのはわたしも見た事がないわよ……!!」「……ひえぇっ……」「海が……怒っています」それに呼応し、無数のアノマロカリス円錐形オウム貝が潜水艇を包囲!

小型潜水艇下部が展開し岩山の穿孔部へマニピュレータが伸びる……。
アノマロカリスが、円錐オウム貝が、甲冑魚が、宝物庫を守るべく潜水艇にアタックをかける!だが護衛潜水艇の冒涜漆黒太陽じみた魚雷を受け、次々と消滅!


CA-BZZZZZZ!!!!CA-BZZZZZZ!!!!


「あの魚雷、レイ君を襲った奴らが使った手榴弾と爆発が似てるわ!」
「ここまで攻めて来やがったか、チクショウ!!」

その間にも、マニピュレータが何か珠のような物を掴み……縮み始める!

『…………さぬ』

「「「「え?」」」」

『……断じて許さぬぞ』


『我が聖域に穢れた力で押し入り、宝物庫までも涜すとは……矮小なる人の子よ、その業は汝の手に負えぬ物と知れ!!』


『姫』の口調はつい先程までの穏やかなものから一変、今や鬼神の如き荒ぶる海の怒りの体現者である!
更にその体はカイジュウめいて巨大化、錨めいて湾曲した角と大海蛇めいた尾に鰭めいた翼を備えた大海竜と化した!
その恐るべき威容に、皆はただ圧倒されるのみだ……。

DOMDOMDOMDOM!!!!DOMDOMDOMDOM!!!!
護衛潜水艇がより大量の魚雷を大海竜に放つ!しかし……。

『キュオオオォーッ!!!!』GOOOOOOM!!!!

『姫』の口から竜の吐息じみて放たれた波動が全弾を跡形も無く消滅させ、護衛潜水艇の分厚い装甲を大きく歪ませる!
護衛潜水艇がぐらついた隙を突き、更に竜の尾をしならせ打撃を見舞う!


『小さき我が眷属よ、共に戦ってもらいたい』大海竜の眼が魚売りに向く。
「勿論、喜んで!」魚売りは片膝から跳躍し、戦闘態勢!

反対方向から数発の魚雷!魚売りは『姫』の力を借りパワーを増幅した回転水流障壁を展開!
「ルリャーッ!!」
ミスティック・シャウトと共に超自然水流が魚雷の軌道を曲げ逸らす!その一発が発射した護衛潜水艇に命中!

CA-BZZZZZZ!!!!

漆黒太陽じみた悍ましい爆発現象が装甲を大きく抉る!
「今よ!行けぇーっ!!」
その呼び声に応え彼方頭上から現れたのは……白亜紀の海を支配した海蜥蜴の王、モササウルスに他ならない!ワニの如き恐るべきあぎとで潜水艇の装甲が抉れた部分に食らいつき、体をスクリュー回転しながら容赦なく噛み砕く!白亜紀!!

CLAAAASH!!

船体が海底に叩きつけられる!!


もう一方も……!!

『裁きを受けるがよい!!』
護衛潜水艇は致命的なダメージを受け、航行するのがやっとの状態だ。何とか離脱を試みるが……『逃がさぬ!!』
『姫』は翼を広げ、竜角を構えて突撃した!!

CLAAAASH!!

船体を大海竜の角が貫通、爆沈!!

……だが既に護衛されていた小型潜水艇は姿を消していた。
虚の理の宝珠も持ち去られたようだ……。


――――――――――――


『……怖がらせちゃってごめんなさいね……』
「いや、俺は大丈夫だ」「僕も大丈夫」「凄い物を見る事が出来ました」
今は『姫』も穏やかな姿と口調に戻っているが、心中は穏やかでないのが明らかだ。

「結局、事態は好転するどころか悪化してるのよね……戦力差は歴然だし」魚売りが悲しげに口を開く。
『……大丈夫よ』「……『姫』……!?」

『わたしさっきので決めたの……ドブガワ・グループだっけ?騎士団と戦うなら、力を貸すって

その言葉に、皆の顔が明るくなる。
「『姫』……ありがとう」「心から感謝する」「ありがとう!」「有難うございます……!!」
『うふふ、お礼なんていいの……わたしはそういう笑顔をこれからもずっと、見守っていたいだけ』

『ついでにわたしのファンクラブの皆も呼んでこようかしら』

ファンクラブ……?」禅僧は少し怪訝な顔をしたが、少なくとも敵ではないと判断した。


――――――――――――


日本某所、とある離島。

この島は戦時中要塞として使われていたが、今は無人島……というのは表向きの話である。実際はある湾岸カルトの隠れ里となっているのだ。
その奥の洞窟でフードを被った屈強な男が座禅を組む。
右腕にはイルカ、左腕にはロブスターのタトゥーが覗く……。



「……海が……母なる海が呼んでいる……」



【#4に続く】

スキするとお姉さんの秘密や海の神秘のメッセージが聞けたりするわよ。