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マッポスレイヤー 第一話「覚醒 -アウェイクニング-」


—10年前—

鉛色の雲が立ち込める、ある雨の夜。

「「「投降せよ!!」」」「待て、これは濡れ衣だ!身に覚えがない!!」「直ちに投降せよ!さもなくば武力行使権限を行使する!!」住宅街で中年男性を武装警官隊が包囲!すぐ近くには怯える10代前半の少年の姿!「…父さん…!!」父と呼ばれた男は、覚悟を決めたような目つきをすると懐から何かを取り出し、放り投げた。少年はそれを受け取った。魔術的な意匠のペンダントだ。父は叫ぶ。「それが俺だ!絶対手放すな!剣児、生き残れ!生きることを諦めるな!」BLAM!

「怪しいので発砲を許可!!」「「「公的に許可された権限!!」」」BLAMBLAMBLAM!!男はたちまち蜂の巣となり路上に倒れ伏した。「父さぁーーん!!」「…諦め…るな…」それが最後の言葉だった。

少年…剣児は振り向かずに走り出した。生き残るために。

(OP曲)正義も希望も崩れ去った この世界で 信じられるのは 自分だけさ 掴み取れ!力を 身に纏え!炎を 決して屈するな wake up!!


マッポスレイヤー・第四新霞ヶ関炎上 第一話「覚醒 -アウェイクニング-」

—第四新霞ヶ関・警察省ビル内大会議室—

会議室の冷たい空気の中、最も上座に座る警察大臣・楼元範が重い口を開く。「この場に集まって頂いた目的が警察庁の省昇格15周年祝いなどでない事は理解しているはずだ」「「「「全くもってその通りです」」」」皆が同じ言葉を唱和する。

「10年前の事件で持ち去られたオブジェクトの件だ。我が国の根幹を揺るがしかねない代物であるが、未だ回収できていない」保安情報局長官も忌々しげな顔で続ける「誠に遺憾ながら、我々保安情報局の物も尻尾を掴めていません」再び重苦しい空気が張り詰める中、一人の男が口を開いた。暴徒殲滅治安部隊・通称RET長官である。「かねてからうんざりさせられている害悪の吹き溜まり…コミューンの虫けら共のことですよ」「無関係な話は慎め!」保安情報局長官の怒号!

警察大臣が制する「続けたまえ」RET長官は一礼すると続けた。「RET治安活動中にもたらされた副次的な情報です。オブジェクト所有者は通称893号コミューンと呼ばれる座標に潜伏していると思われます。部隊出動の許可を」「…ふむ…」

「しかるべき手続きが整い次第、各セクションは執行部隊を出動させよ。市民及び参考人による妨害を受けた場合、“終了処置”を許可する」「「「「了解しました」」」」

—東京郊外・893号コミューン—

藤木戸剣児は曇り空を見上げていた。そんな彼に、ジャンクパーツ屋の若い女性店員が話しかける。「どうしたの?剣児くん」「何だ、卯月か…こんな天気だと、あの日の事を思い出しちまうんだよ」「ごめんね」「別にいい」
卯月はそれ以上何も訊かなかった。コミューン居住者は皆それぞれ何らかの暗い過去を持っており、追求しないのが掟なのだ。ふと、剣児が口を開いた。「あんたの父親は俺の父さんに似ている」「えっ…?」卯月は困惑したようだったが、すぐに真顔に戻った。彼女の父親が割って入ったためだ。「今日もお前たちは仲がいいな!はははは!!」「「そんな…」」西の空はすでに沈みゆく太陽で地獄の炎のように紅く不吉に燃えていた。

WAUUUUUU!!コミューン内に非常用サイレンが響き渡る!「警察の偵察ドローンを発見!総員警戒して下さい」見張りが非常用無線で注意喚起する。「いつもの奴か!卯月、剣児、隠れていろ!」卯月の父の声。

コミューンとは、十数年前から肥大化・重武装化を始めた警察権力を嫌う者たちが集まった要塞街区である。警察はコミューン群をマフィアやアナキストの隠れ家と見做ししばしば強行捜査を決行、住民と衝突している。
この893号コミューンも例外ではなかったが、現時点では死者が出るような大規模衝突は起きていなかった。

「落ちろハゲタカ!」BLAM!白髪交じりの男が遠くの窓から身を乗り出し、猟銃で偵察ドローンを撃墜!「ざまあみアバーッ!!BATATATATA!!次の瞬間、白髪交じりの男が一瞬で肉塊と化し即死!「公的に許可された権限」低空飛行する武装警察ヘリの姿!RET狙撃手が機銃で男を射殺したのだ。無慈悲!ヘリからは次々に武装警官が降下する。

武装ヘリのスピーカーから威圧的な音声が響く。「藤木戸剣児という男を知っているはずだ!彼はある事件の重要参考人である!我々に身柄を差し出しなさい」「帰んな、人殺しマッポ共!」屈強な酒場の店主が一喝する。その手には日本刀。
「報いを受けアバーッ!!」BATATATATA!!次の瞬間、酒場の店主が一瞬で肉塊と化し即死!「我々は“終了処置”を公的に許可されている。無駄な抵抗は」KABOOOOM!!武装ヘリが炎上墜落!「「「グワーッ!!」」」「義理を知らぬ犬め…」倉庫の陰に一目でその筋の者とわかる男がロケットランチャーを構え潜んでいた。彼がヘリを撃墜したのだ。「…子供を連れて避難して下さい…!」緊急無線からは悲痛な叫び!

「…全面戦争だな」卯月の父の声。「…お父さん、何するの?」

「お前たちは逃げるんだ!ここは俺に任せて、早く!!」卯月と剣児が制する。「そんな…!」「殺されちまう!」警官隊が叫ぶ!「藤木戸剣児を引き渡しなさい!」卯月の父の叫び!「生き残れ!」両手で巨大な鉄塊を掴み、街路に飛び出す!ジャンクパーツ群や闇流通火器を組み合わせ作られたシールドガンである!DOM!DOM!「「「グワーッ!!」」」小型榴弾が放たれ武装警官隊を吹き飛ばす。「諦めるな!!」BLAMBLAMBLAM!!「…逃げよう。卯月」「わかった」

剣児と卯月は二手に分かれて逃げた。既に夜の帳がコミューンを覆い始めていた。

「女が逃げたぞ!」「どうしますか」「藤木戸剣児を見つけ出せ!オブジェクトを取り戻すのだ!任務内容を忘れるな」RET部隊長の檄が飛ぶ。「「「「了解しました」」」」RET隊員が完全に統制の取れた動きで返答する。

「くそっ…また行き止まりか」剣児は毒づいた。武装衝突の余波で逃走経路がバリケード封鎖されていたのだ。「何てこった」気がつくと鉛色の夜空から大粒の雨が降り始めていた。仕方なく引き返す剣児。広場に足を踏み入れたその時、卯月の姿があった。「卯月…なぜここにいるんだ!」「向こうはもう封鎖されていて…」「あんたもかよ」夜闇の中顔を見合わせる二人。そこを眩いライトの光が照らす。「「「居たぞ!」」」
周囲を囲み、二人に拳銃を向ける武装警官隊。部隊長が口を開いた。「我々は法執行機関だ。抵抗せず投降すれば“終了処置”は行わない。両手を挙げなさい」剣児は少しの沈黙の後両手を挙げ、歩き出した。「卯月、生きろよ」

「任務のため発砲を許可!!」「「「公的に許可された権限!!」」」BLAMBLAMBLAM!!剣児はたちまち蜂の巣となり路上に倒れ伏した。「剣児ぃーーっ!!」「…生き…ろ…」

10年前と同じ鉛色の雲が立ち込める、雨の夜だった。

剣児は瀕死であったが、まだ息があった。薄れゆく意識の中彼の脳裏には10年前の父親の言葉が、卯月の父の言葉が、そして自らの言葉が走馬灯の如くリフレインする。(((諦めるな!)))(((生き残れ!)))(((生きろよ)))「オブジェクトを回収しろ」(((諦めるな…か。そうだよな)))腕に力が戻り、胸元のペンダントを掴む!「まだ息があったか」武装警官の一人が頭に銃を突きつける!

(((こんな所で終わるわけには…)))ドゥン…!ドゥン…!「いかねぇんだよ!!」ペンダントから鼓動と共に炎の如く燃えるオーラが噴出、剣児に力をもたらしたのだ。「こ、これは一体…」武装警官は狼狽!
やがて炎のオーラは剣児の全身を包み込み、炎の如く赤い戦装束に鉄仮面を着けた姿に変貌した。武装警官が拳銃を放つが、ブリッジとバック転ですべて回避!「「「な、何者だ…」」」

マッポスレイヤー…とでも名乗らせてもらうぜ。あんたらのような屑どもをぶちのめすために地獄から戻ってきた」

部隊長が顔をしかめる。「何をふざけた事を…あの女を盾にしろ」「「「了解しました」」」三人の武装警官が卯月を囲み、拳銃を向ける!
「イヤーッ!」次の瞬間、マッポスレイヤーと卯月の姿がその場から消え、三人の武装警官は頭部を吹き飛ばされ死体と化していた。一人の死体の横に片腕で卯月を抱えるマッポスレイヤーの姿。「ありがとう…」震え声で礼を言う卯月をそっと降ろす。
マッポスレイヤーは目にも留まらぬ速さで卯月を抱えて銃弾を跳躍回避すると二人を超自然の爆弾手裏剣で爆殺し、最後の一人の頭部を飛び蹴りで破壊したのだ。

「撃て!あの化け物を撃ち殺せ!!」部隊長の怒号が響く。「「「公的に許可された権限!!」」」BLAMBLAMBLAM!!武装警官隊は銃を乱射!しかしマッポスレイヤーは無傷だ。彼の指の間には放たれた銃弾が挟まっている。
「奴に銃は効かん!警棒で殴り殺せ!!」再び部隊長の怒号が響く。「「「公的に許可された権限!!」」」武装警官隊は特殊警棒による白兵戦を敢行!「「「イヤーッ!」」」マッポスレイヤーの高速前蹴り!「イヤーッ!!」「グワーッ!!」

(挿入曲)正義が闇に沈む時 胸に炎灯して 道を切り拓け I'm slayer…


「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!!」「「「アバーッ!!」」」一方的に蹂躙される武装警官隊!

「残りはあんただけだな」マッポスレイヤーは部隊長を指差し、冷たく宣告した。部隊長は恐怖に怯え、銃を取り落とす。「アイエエエエ…どうか命だけはお助けを…」 「命乞いか?罪のない人たちを殺すだけ殺しておいて、自分が殺されるのは嫌だと?…ふざけんな」マッポスレイヤー…剣児は一呼吸置いてから、言い放った。その手には爆弾手裏剣。

「地獄に落ちろ」

(ED曲)俺を踏みにじるのは 誰だ 友を踏みにじるのは 誰だ 拳を突き上げろ 巨大な闇に 戦いの狼煙を上げろ…


マッポスレイヤー・第四新霞ヶ関炎上 第一話「覚醒 -アウェイクニング-」終。第二話「強襲 -アサルト-」に続く。

スキするとお姉さんの秘密や海の神秘のメッセージが聞けたりするわよ。