通りすがりの魚屋さん外伝【アサシン断章】#2

(これまでのあらすじ)
Mystic Horizon On-line……通称みほおん編集部が謎の冒涜的タクティカル黒服トルーパーに襲撃され、爆発した。
みほおん編集部の正体は世界の魔術的安定を守る為の秘密結社であり、このままでは世界崩壊の危機!
一方何の変哲もない青年、レイには謎のアイテムが届いていた。
鈍く輝く金属の籠手から短剣が飛び出す構造の暗器である……町で商いをしていた神秘的な魚売りの女性に相談するも、その正体は分からなかった。
しかし、レイの元にもみほおん編集部を襲った冒涜的黒服トルーパーの魔の手が!二人を救ったのは……通りすがりの禅僧であった!
激しい戦いの中、レイの意識は様々な時代のビジョンを垣間見る……そして彼もまた、戦いの当事者となったのだ……。


「整理しましょうか」

魚売りが呼吸を整え、レイと禅僧を見渡しながら口を開いた。

「そうだな。こうも状況が取っ散らかってると訳がわからないのは当然だ」
「アッハイ……わけのわからない事件が続いてて……」
この異常事態にレイは明らかに混乱している。魚売りと禅僧の超然とした態度とは対照的だ……これが一般人の反応であろうが。

「じゃあまず、分かってる事と分かってない事を確かめましょう……そういえばレイ君」
「何ですか?」
「さっきの電話の……『みほおん』って何かしら?何か重大事件みたいな感じだったけど」

レイと禅僧が一瞬顔を見合わせ、まずレイが口を開いた。
「みほおんってのは通称で、正式にはMystic Horizon On-lineって言うんですけど、そこのオンライン会報編集部が爆発したらしいんです……」
「で、そのミスティック何とかオンラインの会報ってどんな代物なの?レイ君が襲われた理由と関係あるかも」
「……まさかそんな筈は……。会報の内容はまぁ魔法とか幻想とか、よくあるファンタジーの一幕ですよ……」

そこに携帯端末を操作しニュースを確かめていた禅僧が口を挿む。
「それを言ったらそこの姉さんの操る術もファンタジーの範疇だろう
「ボンズさんの言う通りね」魚売りも同意したため、レイは頭を抱えるほかなかった。「これを見ろ」

『【続報】アトス出版ビル爆発、原因はガス漏れか』

禅僧がニュースの表示された携帯端末を示す。アトス出版ビル……みほおん編集部の物理所在地だ。「不自然なのは、ここだ」
「モチヅキさんは確か爆発は夜明け前に起きたって言っていたけど……」
「それが問題だ。情報が早過ぎる……」禅僧の示した火元特定ニュースの発信時刻は九時頃である。この点から禅僧が導き出した推論は……「俺の勘が合ってれば、ガス爆発はフェイクニュースだ」
「もしくは、カバーストーリー……公権力と癒着しているヤクザ・コーポなら十分可能ね」魚売りも何らかの偽装・隠蔽の類を疑う。

「つまり、みほおん編集部の爆発と僕が襲われた事が関係してるって事……!?」
レイはつい先程の冒涜的黒服トルーパーの姿を思い出し、恐怖に慄いた。
「安心して」魚売りが手を伸ばし、白魚めいた指先でレイに優しく触れた。彼女の蒼い髪と紅い瞳が神秘的な美しさを湛えている。
「大丈夫よ……。そうと決まった訳じゃないし、もしそうだとしても」

二人の目が合う。

「わたしが守る」
「……お姉さん……!!」
俺もいるぞ。三人寄れば文殊の知恵……要するにブッダだ」
さらには禅僧の力強い言葉!

「僕……僕だって……!」レイが己を鼓舞せんと気合を入れようとした、正にその時!

「大変だーっ!行き倒れがいるぞー!!」宿の主人の声だ!


――――――――――――


話によるとこの宿の表に傷だらけでぐったりした女性が倒れていたらしい。
魚売りは当然このような事態を放っておける性格ではなく、様子を見に行ってきたという訳だ。

部屋に戻った今は禅僧と彼女の件について話している。
「で、そいつはどんな状態だ……助かりそうか?」
「……見てきたけど、あちこち怪我してるみたい。あの傷は……少なくとも事故じゃないわ。でも、ちゃんと手当てして栄養つければ問題ないって」
「事故じゃないってのが引っかかるな……事件に巻き込まれたのかもしれん。他に気になる事はあったか」
「気になる事……なんか浮世離れした身なりをしてたわね。わたしも人の事言えないけど、なんかこう、ね?」
「……具体的にはどうだ」禅僧が追及する。魚売りも高露出の服装に清水めいたヴェール、真珠や珊瑚の輝く装飾といった相当浮世離れした出で立ちだ。彼女自身の存在感も相まって精霊か天女じみている。
「……わたしみたいな服装じゃなかったわよ。どっちかっていうと……それこそファンタジーギルド魔術師みたいなローブ羽織ってたわ」
「ほーう……」禅僧が暫し考え込む……何かが繋がったのか?「それだけか」魚売りは首を横に振る。「……いいえ……譫言のように、呟いてた」

「アサシンブレード、って」

アサシンブレード。その言葉に最も反応したのは、レイであった。
(アサシン……ブレード……!?)再びレイのニューロンに膨大な情報の奔流が押し寄せ、またも過去のビジョンが……。


……ここは産業革命時代のロンドン……完成間近の漆黒ゴシック大聖堂……。

尖塔の上で二人の男が向かい合う。
一方は巡礼者じみたフード姿……そして、手首には鈍く輝く籠手。
もう一方は十字軍聖職者じみた法衣を纏っているが、その色彩はカラスの羽よりもなお黒い。

フードの男が口を開いた。
『世界統制機構』の野望は潰えたぞ、レイヴンマスター……否、イシェザク騎士団長代理殿」「……貴様に何が分かる」
黒衣の男……イシェザクが言葉を返す。
「世界は鉄と石炭と蒸気によって野放図に塗り替えられ……人類はやがて己を食いつぶし、神をも殺すだろう!」
「だからお前たちが管理するというのか。それこそ神への冒涜ではないのか!?」
「貴様らアサシン共と神学の議論する余地などなし!イヤーッ!!」

イシェザクは聞く耳持たずブラックマリア像を意匠した仕込み杖から銃弾を連射!ZALMZALMZALM!!
尖塔の壁面が砕ける!火力・連射性共に明らかにオーバーテクノロジー!
だがフードの男は既に射撃を見切りパルクール立体機動でイシェザクに肉薄していた。

……「何っ……!?」……仕込み刃が……「イヤーッ!」……首筋を……

……イシェザクの?……いや、違う……これは……あの黒服トルーパー……?

レイのニューロン内では次第にフード姿のアサシンとレイ自身が、イシェザクと黒服トルーパーが混じり合い……やがて薄れていった。


「そうだ……!これが、アサシンブレード……」
物理空間の感覚を取り戻したレイは己の右手首に輝く籠手を見つめ、確かめるように呟いた。


――――――――――――


「じゃあ、あの女の人が言ってたアサシンブレードってその武器の事なのね……」「問題は、何故どういった経緯でレイ殿の手に渡ったかだ」
魚売りと禅僧は再び顔を見合わせる……レイが口を開いた。
「昨日バイトの同僚が無断欠勤で、シフトとかが大変で……帰ったら疲れて玄関でダウンしちゃって」
「ウム」「それは大変ねぇ」生々しい非正規労働環境インシデント!
「それで目が覚めたら近くに小包が置いてあって、それを開けたら……!」
「アサシンブレードというわけね」「物騒だな」残る二人が続けた。

「警察にも相談したけど、たちの悪い悪戯だろうって……」レイの言葉に、魚売りが肩をすくめた。「だからってわたしに相談振らなくても……ちょっと待って、警察!?」魚売りが警察という言葉に反応した理由……それは。

国家権力とヤクザ・コーポの冒涜的癒着複合体の存在である。

「どうしたんですか、お姉さん?」魚売りが一瞬表情を変えた事をレイは訝しむ。
「大丈夫よレイ君。ただアサシンブレードの存在はできるだけ隠しておいた方がいいわ」「俺も同意見だ」二人は耳打ちし、一定の推論に辿り着く。

((つまり、先の襲撃者はアサシンブレードの所在を知りレイを狙った))
((正体はヤクザ・コーポの構成員か関係者。目的は……!))

Knock!Knock!

「……すみません……話があります……」「この声は!もう動けるの!?」


――――――――――――


「アサシンブレードを彼に託したのは……私です」


年の頃は魚売りと同じ程だろうか。魔術ギルド構成員じみたローブを纏い、異邦人じみた亜麻色の長い髪とヘーゼルの瞳。
全身の傷はまだ癒えきっていない。

彼女のその言葉に部屋の皆が水を打ったかの如く静まり返った。
「本当ならば、私が会いに来るべきではなかったのでしょうが……」
「……ふざけんな!!」
静謐な空気を打ち破る怒号!レイのものだ!!

「あんたが……あんたがこんなもん送ってくるから、僕の生活は!!」
レイは女性に向け躊躇なくアサシンブレードを突き出す!
「やめなさい!」「やめろ!」魚売りと禅僧が床を蹴る!

「風よっ!!」

女性のミスティック・シャウトと共に超自然の気流がレイの右腕を覆い、風圧で弾き返した!転倒するレイ!「ウワーッ!?」
禅僧がレイを取り押さえる。「全く早まった真似を……」「ありがと。わたし殴る蹴るの荒事は得意じゃないから」
しかしレイはまだ非難がましい視線を女性に向けている。
「……言いたいことは分かります。しかし……」「わかるなら言ってみろ!僕を巻き込んだ理由ってやつを!」

女性は装束のフードを脱いだ。
「レイさん……貴方は私を知っている筈です
そんな筈は、と言いかけた矢先、レイは思い出した。彼女は……!!

「……シルフィード」

「Mystic Horizon On-line会報コラム『風の囁き』……シルフィードさん!
間違いない、亜麻色の長い髪とヘーゼルの瞳……みほおん会報コラム『風の囁き』の担当者として写真が掲載されているシルフィード女史!

「思い出していただけましたか。真の名ではないのですが、シルフィードとお呼び下さい」
「まさかその傷……編集部爆発と関係があるんじゃ!?他のみんなは……」
「やはり気付かれましたかレイさん……話さなくてはならないでしょう。Mystic Horizon On-lineの……真実を

三人は息を呑み、シルフィードの言葉に耳を傾けた。


――――――――――――


「嘘だろ……訳が分からないよ、魔術がどうとか」シルフィードの語る真実にレイはリアリティショックを隠せない。
「まあ、あるかも知れぬとは思っていたが……」禅僧が魚売りに目をやる。
「もう一度整理しましょう」当の魚売りは全く動じていない。

「つまり、アトス出版ビル……みほおん編集部の正体は魔術結社で、爆発の原因は敵対者が送り込んだ黒服トルーパーによる襲撃……合ってるかしら、シルフィードさん?」
「はい、間違いありません……確か長老が、ドブガワ・グループなる組織の名を」
その言葉を聞いた瞬間、禅僧が血相を変えて割り込む。
「ドブガワ・グループ……!?日本最大級の出版メガコーポだな。だが何故そのような行為を……?」
「確かに、この町でレイ君を襲った黒服ヤクザとドブガワ・グループの接点が掴めないのよね」
そこにリアリティショックから回復したレイが口を挿んだ。「接点なら、あるかも知れません」「どういうことかしら?」
「ドブガワ・グループはクリエイターへの恫喝・脅迫を行っていた過去があるんです……最近人気アニメ第二期の制作時に監督に圧力をかけて交代させたという事件があって」禅僧が眉根に皺を寄せる。「聞いた事があるぞ」
「それでネットが炎上して、掘り返された暗黒面が」魚売りと禅僧が続く。

「「ヤクザ・コーポ!!」」

「しかしどうする気だ、水と魚を操る妖術と風の魔術があったとてメガコーポと戦を構えるのは無謀だぞ」禅僧が魚売りとシルフィードを交互に見る。
「……確かにそうでしょう。しかし先に言った通り、私達が保管する魔術レリックは悪用されれば世界に災厄と破滅をもたらします……それに」
「それに……?」シルフィードの語り口に、その場にいる皆が耳を澄ます。

「予言は、希望を示していました……最後の生き残りである私が為さねば」

アサシンの予言を……」彼女はレイの右手のアサシンブレードに触れた。

「アサシン……!!」二人の目が合う。レイは覚悟を決めたようだった。


「「「「居るのは分かってんオラー!!!!」」」」
BLAMBLAMBLAMBLAM!!


その時、恐るべき怒号と銃声が響いた!ヤクザ・トルーパーが宿を特定し、強襲をかけたのだ!

「宿の中では好き放題できる向こうが有利だ!不味いぞ」
「遮蔽物が多くてちょっと難しいわね……」
禅僧と魚売りは顔を見合わせる。だがシルフィードはやる気だ!
「……あの程度、私の風の魔術で薙ぎ倒します……!」
「無茶しないで、まだ治りきってないでしょ!?」
「仲間の仇、世界の敵……ンウッ……!!」傷が痛む!

(狙われてるのはわたしたち……正確にはレイ君と、多分シルフィードさんも)
(数も状況もこっちが不利……それなら)
魚売りは目を閉じて暫し思案し……そして。

(……『姫』……『姫』……)

静かに指で宙を叩いた。超自然の波紋がモールスじみて走る……。


「一つ手があるわ!」「何だ!?」油断なく身構えていた禅僧が振り向く!

「ボンズさん!レイ君!シルフィードさん!わたしに掴まって!!」
魚売りが両手を伸ばし、三人を抱き寄せる!顔が近い!!
「こんな時にどうした!?」「お……お姉さん?」「何ですか!?」
思わぬ行動に困惑する三人!

「よく聞いて。わたしの力を使って皆を空間転移させるわ。そこなら奴らにも見つからないはず」

「空間転移……ワープか何かの事か?その様な大それた事が……」
「長距離転移魔術とは……儀礼術式レベルの準備が必要です、とても間に合いません!!」
本職の魔術師であるシルフィードは不可能だと力説する……だが魚売りには秘策があるようだ。

「確かに、わたし一人では無理よ?……でも、『向こう側』に心強い協力者がいるから大丈夫……あ、何時でも来ていいって」
四人の足元に超自然の波紋が走り、それは門となる!

(……『姫』……!!)

レイが声をあげた!「信じましょう……お姉さんを!!」
禅僧が続く!!「全く只者じゃないな、気に入ったぞ!!」
シルフィードも!!「貴方も……魔術師という事なのですね」

そして、魚売りがラインの乙女じみた怖ろしくも神秘的なシャウトを放つ!

「ルリャアァァーッ!!」

それと共に巨大な超自然の泡が四人を包み込む!
「みんな、しっかり掴まっててね!外に飛ばされたら戻れなくなるわよ!!
その言葉と共に四人は超自然的な門をくぐりヴォーテクスじみた超常の海域へと飛び込んでいった……!!


CLAAAASH!!

「「「「何故居ないコラー!?」」」」


ヤクザ・トルーパーが部屋のドアを破り突入する頃には、四人は影も形も無く、残っていたのは皿の上に残された寿司が一つだけだった。


――――――――――――


『彼女』は形容し難い存在であった。
美しく、妖しくもあり、見方によっては怖ろしく、また別の見方では悍ましい存在だ。それ故に……否、この話題は今語るべきではないだろう。

水底に佇むその姿は人間の女性の如き五体を持つも魚めいており、また海月めいてもあり、貝類や頭足類めいてもいる。肌は霊的に蒼白い。
恐らくはこの姿も本来の物ではないのだろう……人間がそれを知る術は無いだろうが。

『彼女』が顔を上げた。遥か高き水面に穴。



「あらら……もう来ちゃった」



#3へ続く

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ポストツイッター時代の到来に備えているわ。

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無銘

ここは考察や二次創作、パルプ系小説や与太話に使うつもりよ。ニンジャ成分多め…

通りすがりの魚屋さん

魚売りのお姉さんのミスティックでヒロイックな活躍を描く一話完結バトル小説よ!(不定期連載)
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