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黒い海に降る星

雲一つ無い満月の夜。
山の上に少年と少女。二人は眼下の港町を見下ろす……町明かりはない。
何時からこの世界は狂い始めたのだろう?


クジラやイルカの座礁数が異常増加してから?

2年前太平洋ヨット横断に挑んだ冒険家との通信途絶から?

リゾート地や漁場での原因不明海難事故が急増してから?

環太平洋地域で正体不明の肉塊が毎日の如く漂着しだした頃から?

南太平洋の無人島が一夜にして消滅してから?

離島に住む女性達が妊娠の自覚無く臨月を迎えた事件の頃から?

……否、或いはもっと前から“それ”は始まっていたのか。


不明漂着物の調査は、研究員の集団失踪により打ち切られた。
冒険家は半年前生還したが、最早二度と言葉を発する事はなかった。
島の女性達は、自らが産み落とした存在について悉く口を閉ざした。


一夜にして消滅したかの島は100日前再び現れた……災厄として。
それは地上の何よりも黒く、命を啜りながら海を渡った。通った後は波が闇に染まり、魚は消え珊瑚や海藻は枯れ果て海は不毛の砂漠と化した。
南太平洋の幾多の島を喰らい肥大したそれは北上を続け、45日前赤道を越え北半球へ。

その7日後……ハワイ諸島消滅。

人々は最早恵みではなく恐怖のみを齎す黒い海を恐れ、沿岸から内陸へ大移動を開始。海に依存する産業は悉く崩壊した。
一ヶ月前、遂にそれは日本列島方面へと進行。そして今や……。


月光を返さぬ黒い海の彼方にあるもの。それを見ながら少年は呟いた。
「この世界、大丈夫かな」
「でも、あれがあるでしょ?タケミカヅチ計画だっけ」
少女が無邪気な口調で切り返す。

タケミカヅチ計画……軌道衛星から重金属塊を“島”に投下、莫大な物理エネルギーで破壊する作戦。
実行は、5日後。

「成功すればいいけど……あっ、流れ星」明るく長い流星が空を横切る。

少女が振り向く。その瞳はあの海の如く何よりも黒い。

「5年前にもこんな流れ星見えたよね」

5年前。二人が初めて出会った夜……。


【続く】

スキするとお姉さんの秘密や海の神秘のメッセージが聞けたりするわよ。