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通りすがりの魚屋さん外伝【閉鎖圧制都市ネオサヌキ】 #NGLT


(これまでのあらすじ)
ネオサヌキ自治区沖合である漁船が謎の沈没を遂げた。自治区はクジラとの衝突事故であると対外的に発表したが、その裏には巨大な陰謀が渦巻いていた……。


――ネオサヌキ大コロッセオ――

「続いて入場する剣闘士は……おおっと見た事ねぇ顔だぜ!飛び入り参加だ!!」
黒服に金髪を逆立てた悪趣味な男が観客席を煽り立てる。

その女性はレオタードじみた露出の高い密着型衣服の上に薄く透き通ったヴェールを纏っていた。清水のように蒼く輝く髪と神秘的な紅い瞳が美しい。
その姿にコロッセオが喧騒に満ちる。
皇帝席じみた最上級VIP席では花弁を重ねたようなドレスを纏った貴族風の緑髪女性がその様子を見下ろしている。

(……思えばろくでもない話だったけど、やることはシンプルね)

彼女……魚売りは両の手にノコギリザメを構えた。


――――――――――――


『……何たる邪悪……!』「どうしましたか『姫』……?」

漁船沈没事件の折、偶然にも魚売りは主たる『姫』と接触していた。
海底の珊瑚玉座に座する『姫』の姿は三本の尾か脚を持つ人魚のようであり、体表をモザイクタイルの如き真珠光沢の鱗が覆う。目元から腰までは長い髪と半透明の羽衣じみたヴェールが包み隠している。

『ネオサヌキの漁船沈没はあなたも耳にしているようね』
「やはり、『姫』は別の原因があると……」
魚売りは『姫』に全幅の信頼……忠誠……否、それ以上の感情を抱いている。だがその経緯は今語るべきでないだろう。
『……大戦の折、人の子が海に撒いた破壊の火種……それが今再び罪なき者たちを傷つけているわ』

ネオサヌキは政府地方組織の自治区と称されてはいるが、実情は日本国内に別個に存在する独立国家だ。
外部との境界域は物理・情報の両面で封鎖されている。陸路は高い壁と武装トルーパー。そして海路は……。

「やはり原因は機雷ですか」
『……さすが察しが早いわ……あのような姑息で稚拙な人の子の虚報がわたしに通じるわけがなかったのよ。そしてもう一つ……』
魚売りの脳内にネオサヌキ近海の海図が投影される……『姫』のテレパス能力だ。
「これは」
複数の光点が沿岸近くを移動している。漁船操業の様子だ……だが一つだけ沖へ沖へと進む光点があり……突如別方向から現れたもう一つの光点に追い立てられるように向きを変え、そして突如海図から消失した。

「漁船が突然向きを変えたのが気になるわね……それを追っていた存在も」
『……このところネオサヌキの海はどうも好からぬ匂いがするわ……強者が弱者を虐げる、人の子が繰り返した過ちの匂いが』
魚売りは憂いを浮かべているようにも見える『姫』を見ると、口を開いた。

「行ってくるわ」
『無事に戻ってきて。あと……』


――――――――――――


(『……我が力に呑まれないように……』ねぇ)
魚売りはイワシ群集を先行させつつネオサヌキ水道を泳いで海路からの進入を試みる。
『姫』が残した言葉の意味は気になるが、今は機雷封鎖を抜けるのが先決である。そもそも彼女は戯れに意味深な事を言ったりする存在なのだ。

「なるほどね、11時方向に二つ、12時に二つ、1時に三つ」

先行イワシ群集が魚売りの目となっている、これで機雷群の配置は掴んだ。
魚売りは海面からイルカの如く跳躍すると、驚くべきことに海面に直立!彼女の足元には何らかの超自然的波紋が広がる。
「ルリャーッ!!」
魚売りのラインの乙女じみた怖ろしくも神秘的なシャウト!それと共に何処からか銀色に輝く物体が幾つも出現し前方の海面へと高速飛翔!


CABOOMCABOOMCABOOOM!!!!


頑強で鋭利な顎を持つ殺人バラクーダの直撃により機雷群が次々起爆、水柱が上がる!
進行ルートの危険を排除したことを確認した魚売りは、再び海中に潜りネオサヌキ自治領内へと向かう……。


そもそも何故ネオサヌキ自治区が壁や機雷で封鎖されているのか?
それは市民総健全化政策……いわゆるインターネット粉砕政策と深い関わりがある。当時のとある議員が提出した法案に腐敗しきった旧体質の議会は諸手を挙げて賛成した……正確には、反対派を様々な悍ましい手段で黙らせたのだ。
その結果どうなったか。市民のインターネット利用が厳しく制限されたことにより、自治区からの亡命者が続出した……自明の理である。

自治区議会はこれを食い止めるため莫大な予算を投じ境界域の陸地に遠大な壁を建設、海上には大量の機雷を敷設したのだ。


「ルリャーッ!」
港に到着した魚売りは再び海中から跳躍すると前宙を決めて着地、周囲を警戒する。
黒服の港湾警備トルーパー三人がこちらに気付き、警棒とサブマシンガンを構え突撃してきた!

「不法侵入者コラーッ!!」「さてはインターネット密偵テメーッ!!」「インターネット者粉砕オラーッ!!」
「健全」「強壮」などの文言が威嚇的に刻まれた警棒を振りかざす港湾トルーパー!
「ルリャーッ!!」
だが魚売りがミスティック・シャウトを放つと共に彼女の姿がかき消える。超自然的な水の障壁を展開し光学迷彩効果を得たのである。
そのまま港湾トルーパーの背後に回り、首筋に殺人バラクーダを突き立てる!
「「アバーッ!?」」港湾トルーパーが二人続けて頸動脈断裂!即死!!

「惰弱なインターネット野郎め、面妖なネットワーク妖術なぞ使いやがってコラァ!!」

BATATATATATA!!!!

残る一人は支離滅裂な事を口走りながらサブマシンガンを乱射!
「これは危ないわね……行けぇーっ!!」
魚売りのシャウトと共に空間に超自然の波紋が走る。そこから現れたのは甲殻類の一種……シャコである!それも武者鎧を彷彿させる巨体!
「アアァーッ!!?」港湾トルーパーは巨大シャコに全弾を撃ち込む!だが頑強な外骨格に覆われた巨大シャコ無傷!魚売りはシャコの背後に隠れ銃弾から身を守る。
「テメッ……」港湾トルーパーは弾切れしたサブマシンガンを放棄して警棒を振り上げ……次の瞬間、上半身が消失して死んだ。
シャコの前肢が破城槌じみた速度で突き出され、港湾トルーパーの肉体をゴア粉砕せしめたのだ。

(増援はないみたいね、問題はこれからどうするかだけど……)
魚売りは血だまりの中に光る金バッジをみとめた。歪な桜にクロスドスの冒涜的エンブレム。公権力癒着暗黒搾取組織、ヤクザ・コーポのそれに相違なし。

「まずは情報収集ね」


――――――――――――


「あんた、よそ者だな」「インターネットの手先だろ」「ボスに連絡しないと」
何という涜神的光景であろうか……年の頃中学生になったかならぬかという者たちがうつろな目で手に手に消火斧やスレッジハンマー、つるはしを持って魚売りを取り囲む……少年兵である!

「あらあなたたち、ボスって誰の事かしら?」魚売りは警戒しつつも柔らかな物腰を崩さずに問う。
「子供だと思ってバカにしてるだろ」「おれ達だって防衛兵士なんだぞ!」「ボスって言ったら隊の上官だよ」
しきりに武器を掲げ、声高く自らが精強な兵士であることをアピールする少年たち。しかしその瞳にはどこか光がない。
「兵士の割にはなんか工具みたいな武装してるのは、何なのよ?」魚売りは己が感じていた最大の違和感をぶつける。
「……兵士が敵にべらべら情報しゃべる訳ないだろ」
「……あなた、とても悲しい目をしているわ……」
魚売りは前屈みになり、リーダー格の少年兵に顔を近付ける……自然と露出の高い彼女の胸元があらわになる。
しばらく間を置いて、少年が口を開いた。
「……パトロールだよ。この斧とかハンマーでインターネットの機械をぶっ壊すんだ……それで認められたら、銃やナイフで戦う本格的な訓練を受けられる」
確かに、つい先に遠くのテナントビル前でローマ兵じみた武装黒服たちが消火斧やスレッジハンマーでコンピューター機器を破壊する様子を見た。
それを少年兵の育成に……?魚売りは顔をしかめた。如何にもヤクザ・コーポが思いつきそうな醜悪なやり口。

「ここってなんか楽しみがない感じだけど、その辺はどうなの?」
「統治者様はゲームやインターネットを惰弱な退廃的娯楽ってしてるからな。隠れてやってる奴もいるけど……」「密告ボーナス制度とかがあって、すぐ捕まっちまうんだよ」
彼らは外の世界から隔離されたこの涜神の座の内情を語り始めた。
「捕まった奴は健全化矯正の名目で奴隷労働させられたりコロッセオで殺し合いさせられたりすんだ」「本やTVも検閲されてて面白いのがないし治安が悪くて外で遊べない。おれ達の将来は犯罪者か兵士の二つに一つさ」

「……何てこと……!」魚売りは頭を抱えた。(コロッセオの殺し合いとかいつの時代よ)
剣闘は知識としては知っていたが、このような文明時代に公然と行われていたとは!何たるヤクザ・コーポの公権力癒着による悍ましき隠蔽!

「そのコロッセオについて教えてちょうだい」
少年兵たちは魚売りに対して既に警戒を解いているようだった。
「ああ、楽しみがないのは大人も同じみたいでさ。捕まった奴らを殺し合わせたり猛獣けしかけたりして見世物にしてんだよ」「統治者様もコロッセオ見物が大好きみたいだぜ……これは噂だけど、あそこで非正規の兵士を引き抜いてるって」
「……だいたいわかったわ。あなたたちの未来は、わたしが守る」
魚売りは踵を返し、一直線に駆ける!


――――――――――――


ネオサヌキ大コロッセオ。

「続いて入場する剣闘士は……おおっと見た事ねぇ顔だぜ!飛び入り参加だ!!」
黒服に金髪を逆立てた悪趣味な男が観客席を煽り立てる。

血生臭い剣闘の場に似つかわしくない露出の多い女性の姿にコロッセオが喧騒に満ちる。
皇帝席じみた最上級VIP席では花弁を重ねたようなドレスを纏った貴族風の緑髪女性がその様子を見下ろしている。

(……思えばろくでもない話だったけど、やることはシンプルね)

魚売りは両の手にノコギリザメを構えた。超常の水面から現れたのだ。
コロッセオの内側には観客席のすぐそばまでツタが根を下ろし、絡みついている。
反対側の剣闘士入場口から現れたるは、バスタードソードを威嚇的に片手で振り回すスパルタクスじみた偉丈夫だ。

「始めぇ!!」

最上級VIP席の下でローマ武装黒服が銅鑼を打ち鳴らす。
「ウオォーッ!!」先に動いたのはバスタードソード男!剣を中段に構えチャリオットめいた勢いで突撃!

「運がない事ねあの娘も……ネオサヌキで一二を争う腕前の剣闘士と当たるとはね」
最上級VIP席の緑髪女性が憐れみにも似た笑みを浮かべる。

「ルリャーッ!!」魚売りは左手のノコギリザメを男の足元に投擲!男は小ステップで躱すが、わずかに勢いを減じた。その隙に魚売りはスケートめいた勢いで男の眼前まで一気に間合いを詰める……自殺行為か!?

……否、彼女の左前腕部にはバックラーじみた巨大なアワビが吸着し、偉丈夫が突き出したバスタードソードを受け止めている。
この間合いなら軽量で小回りの利く武器の方が有利!
「ルリャーッ!!」ノコギリザメ斬撃がパンチを放とうとした男の左腕を狙う……だが相手もかなりの使い手、素早く防御態勢に回り傷は浅い。

「ヌオッ!」魚売りと切り結んでいたバスタードソード男が飛び退き、両手で剣を振り上げた。守りを捨て膂力で粉砕するスタイルだ!
「ルリャー……」魚売りもコロッセオを踏みしめ、アワビ盾とノコギリザメ剣を構える。

「ウオォーッ!!」偉丈夫の上腕二頭筋が膨張し、バスタードソードが破壊的勢いで振り下ろされる!
破砕音と共に肉が裂ける音が響き、濃緑の臓腑が撒き散らされた!

……濃緑の?臓腑?

「アバッ!アバッ!アババババーッ!?」
次の瞬間、バスタードソードを取り落とし糸の切れた人形の如く倒れこむ男。
両手両足から血を流している。四肢の腱を切断されたのだ。一方魚売りは無傷……如何なるからくりか?

(成る程、そういう事……)
最上級VIP席の緑髪女性は何かを察したらしい。

魚売りは大振りの一撃が来るのを待っていた。攻撃に身構えていたのは彼女が超常水面に映した幻影、本人は一撃をアワビに受けさせた隙に瞬時に背後に回ったのだ。
魚売りは油断せず残心する。男は起き上がらない……銅鑼が打ち鳴らされた!

「勝者、ディープブルー!」

魚売りが剣闘士として名乗った名だ。観客が奇妙なざわめきを見せた。
最上級VIP席の緑髪女性も目つきを変える。
(インターネットの徒が使いそうな小細工ね、でもこの子には通じないわ)

「人食いイノシシを放ちなさい」

重厚な鉄格子が上がる音と共に、血と獣の臭いが鼻をつく。その奥から現れたのは目を血走らせクマ程もある巨躯を震わせるイノシシだ。長く鋭い牙は犠牲者のものと思しき血で染まっている。
魚売り……否、ディープブルーは油断なく身構えた!

「BUROOOOO!!!!」巨大イノシシが殺人的速度で迫り来る!!


――――――――――――


倒れ伏した巨大イノシシの首筋からディープブルーはカジキの鼻先を引き抜いた。
イノシシの両目と鼻はバラクーダで潰されている……先んじて視覚と嗅覚を奪い、音で誘導することで急所を晒させたのだ。

「勝者、ディープブルー!」

ローマ武装黒服が無感情に宣言する。
「続いて入場するのは……おい、次誰だ、上から聞いてねぇ」
一方金髪を逆立てた悪趣味な黒服は次のカードを知らされておらず、困惑している。
この状況で一人不敵な笑みを浮かべている者がいた……最上級VIP席に。

「私自らが出ます」緑髪女性は金髪黒服に言い残すとツタの這う壁面を走りコロッセオ内に降下!

((アイツは相当手強い……アタイには分かるのサ))魚売りの内にある破壊的オルタエゴが囁く。(十分よ、わたしだけで)意識が一瞬で現実に戻る。

その間に樹海の如き深緑の髪にクランベリーめいた瞳の女性はコロッセオを駆け……花弁を重ねたようなドレスと髪飾りを揺らし魚売りと相対。名乗りを上げる!
「我が名はジェイドクラウン!インターネットの徒よ、いかなる邪術を用いたか知らぬが大地の恵みがもたらす威力が貴様を断罪する!!」荊の鞭を構える!魚売りも名乗りを上げ、武器を構えた。
「わたしはディープブルー!広大無辺の海、可能性ストリームの化身……それを阻む者は、打ち倒すのみよ!!」ノコギリザメ二刀流!
「……ふざけた事を!」「ならわたしを倒す事ね?」両者の視線が衝突!

「……まさかのネオサヌキ大コロッセオの統治者、剣闘女王ジェイドクラウン様御自らの登場だーっ!!」金髪黒服が観客を煽る!異様なヒートアップ!!
ローマ武装黒服が銅鑼を打ち鳴らすと共に、両者が動いた。


――――――――――――


「あなた、ヤクザ・コーポの異能エージェントね!?」ディープブルーは迫り来る荊鞭をミニマルなノコギリザメ連撃で弾く!
「ヤクザ・コーポ……貴様、何故その名を知っている?インターネットか!!」ジェイドクラウンの荊鞭が引き戻され、再び怒れる蛇の尾の如く激しく振るわれる!
「海が教えてくれたのよ……ルリャーッ!」
ミスティック・シャウトと共に六匹の殺人バラクーダが射出される!
「私を甘く見ない事ね……ヒュアーッ!」
ジェイドクラウンの謎めいた剣闘シャウト!それと呼応するように彼女の眼前の石畳を割って多数の竹が伸長、一瞬にして防護柵じみた構造物を形成した。
殺人バラクーダ射撃は遮られ届かぬ!ディープブルーは荊鞭を受け流し、いったん間合いを取る。

(リーチの長い荊と打ち合っていても埒が明かないし、飛翔体はあの竹の壁で防がれてしまう……)
((……つまり))内なるオルタエゴが囁く。
(((……危険を冒しても接近戦に持ち込むのが得策!!)))

「ルリャーッ!!」ディープブルーは滑走移動で一気呵成にジェイドクラウンとの距離を詰めにかかる。状況判断!
「ヒュアーッ!!」ジェイドクラウンのシャウトと共にコロッセオを覆うツタの間から尋常ならざる速度で植物が芽吹く!これ以上罠を張られれば危険、懐に飛び込み叩くべし。ディープブルーは加速……できぬ!直線上にはジェイドクラウンが散布した多数の角錐状ナッツが危険な棘を立てているのだ。やむなく迂回ルートを取ったその時!

PLAM!PLAM!!

多頭の蛇じみて成長した植物の紡錘形果実が次々に炸裂、散弾の如く種子が撃ち出される!危険!
「ルリャーッ!」ディープブルーは超自然の水の障壁で種子弾を防ぎながらナッツ・マキビシを避けて走り続ける。だが!
「ヒュアーッ!」ジェイドクラウンの荊鞭が迫る!ディープブルーは勢いを乗せたノコギリザメの一撃でこれを弾こうとするが、荊の先端が蛇めいて向きを変えノコギリを絡めとる!「このコロッセオは文字通り私の庭!地の利は完全に我がものよ!!」

「ルリャー……」「ヒュアー……」
ディープブルーは手にしたノコギリザメを離さず、力比べに持ち込む。だが背後では石畳に散乱した種子が根を下ろし、急速に伸長!このままでは背後から飽和射撃を受けてしまう。
しかしながら!「ルリャーッ!!」
ディープブルーは突如ノコギリザメを投げ捨て跳躍!一瞬ジェイドクラウンがバランスを崩す。
空中に現れた超自然の波紋を足場に、水切りじみて二段三段と跳躍するディープブルー!空中にマキビシを撒く事はできぬ……接近を許すジェイドクラウン。更に頭上からは殺人バラクーダが降り注ぐ!

「地の利がどうしたですって?ルリャアァーッ!!」
上空から急降下するディープブルーの手にはカジキ!回避動作を封じ急降下突貫殺法で一気に決着するつもりだ!
「増上慢!ヒュアァーッ!!」
シャウトと共にジェイドクラウンのドレスを彩る花弁が一斉に捲れ上がり、花吹雪が一面を包む。ゼロ視界中でのカジキ突貫攻撃は手応え無し!
「残念。ここよ」
ジェイドクラウンは背後!「ヒュアァーッ!!」
謎めいたシャウトと共にコロッセオを覆っていたツタが一斉にディープブルーへ伸びる!彼女は切り払いを試みるが、腕が動かせずカジキを取り落としてしまう……ジェイドクラウンの袖からトラバサミめいた多肉の葉が現れ、腕を捕らえているのだ!
「さあて、ここからがショーの本番よ」
四肢をツタに絡めとられたディープブルーにジェイドクラウンが顔を近付ける。


――――――――――――


ツタはもがけばもがくほど肢体に強く絡みつき、ヤドリギじみて抵抗する力を奪っていく。
((ほれ見た事か!最初からアタイに任せときゃあ良かッたでありんすよ))
内なるオルタエゴの侮蔑の声だ。確かにかの者の力は強大……ジェイドクラウン程の異能エージェントでも容易に打ち倒せるだろう。問題はその後だ。
かの者に全てを任せれば、罪無き者まで巻き込んで屍山血河が築かれ気に入ったと見るや誰彼構わず恥辱の限りを尽くすだろう。そうなればヤクザ・コーポと何の変わりもない。
だがこのままでは一方的にいたぶられ続けるのみなのもまた、事実であった。
頭上の蕾が花開く度に花粉が舞い、蜜が滴り落ちる。その甘い芳香が徐々にディープブルーの精神を蕩けさせる。
「フフ、あんなにじゃじゃ馬だったのに大人しくなったものね」ジェイドクラウンが嗜虐的に笑う。
((アンタもう限界なの、アタイが一番わかってンだよ?もうアタイに『変わる』でありんすよ))
かの者の意識と入れ替わりに、ディープブルーの意識は深みへと沈んでいった。
(……『海は全てを飲み込み、押し流す力を併せ持つ』……)


――――――――――――


ジェイドクラウンは勝利を確信していた。

このまま止めを刺してもいいが、敗者を縛めて一方的にいたぶるのも良いものだ……美しい女戦士ならなおさらの事。
ふとディープブルーの瞳がどろりと濁る。「フッフフ……残念ねえ、もう壊れちゃったのかしら?」
「なら、そろそろ止めを……」そこで彼女は見てしまった。光無き瞳の奥から見返してくる、視線を。
ただならぬ気配を感じジェイドクラウンは飛び退く。それと同時に死せる深海魚じみたディープブルーの眼が蒼白く燃える!
そして何たる事か……ツタを強引に引きちぎり跳躍、石畳を踏み砕きながら着地!

今や彼女の肌は病的なまでに白く、対照的に髪は重油めいて黒い。纏った衣は猥雑な紫色に染まっている。そして四肢には……黒光りする甲殻類じみた金属質ガントレットとレッグガードが出現しているではないか!
彼女は顔を上げ、再び名乗った。

「アタイとは初めてだったでありんすね……アイアンボトムよ。相方を随分と可愛がッてくれたね!!」


――――――――――――


ジェイドクラウンは根源的にそれを恐れた。
先の大戦で船の墓場と化した海域、それを暗示する呪わしき名を名乗った目前の存在を。

一方アイアンボトムは瞬間移動じみた速度で距離を離す!遁走か……否!
「ウフーッ!!」「アバーッ!?」
右腕の大型ガントレットがカニバサミめいて展開、背後からローマ武装黒服を締め上げていたのだ!
アイアンボトムはジェイドクラウンを見て攻撃的に笑う。
「下手にアタイを攻撃すりゃ、こいつに当たッちまうよ?」「アバ……アババッ……」
ローマ武装黒服の苦悶の声に交じり骨が軋む音が聞こえる。
(審判を巻き込むつもり!?)意識の深みではディープブルーの嘆きの声!
「……貴様、卑劣な手を!」ジェイドクラウンは憤怒の形相!「ヒュアーッ!!」再びツタ拘束飽和攻撃を放つ!最早逃げ場なし!!

「同じ手が二度通じると思ってンなら」だがアイアンボトムは不敵に笑う!「大間違いでありんす!!」その叫びと共に、海生生物の鰓じみた厭らしい肉色の触手が背中から翼の如く伸びる。恐るべき退廃と堕落のオーラを纏って!
「ウフーッ!!」何らかのネガティヴ力が迫るツタを次々委縮させ、一方的に弾き飛ばす!これほどの飽和攻撃でさえ、全く効果がないのだ!
「アタイが面白いもの見せてやンよ」「アバ……アバッ!アバババーッ!?」
鈍く光る杭のような物が締め上げられていたローマ武装黒服の腹を突き破る!非道なる隠し刃だ。なお恐るべき事に、刃はセグメント分離し鞭じみて黒服の肉と臓腑を体内から切り刻んでいく!
(やめるのよ……やめて!)((今更しゃしゃり出てきたッて遅いでありんすよ!))
ディープブルーの制止も聞かずアイアンボトムは黒服の死体を放り投げ、分節刃を鞭めいて振るい首を切断した。


――――――――――――


「どういう事……どういう事よ……ヒュアーッ!!」「アンタだってもう分かってンでしょ?ウフーッ!!」
アイアンボトムの分節刃がしなり、ジェイドクラウンの荊鞭を易々と切断する!「アンタはアタイには勝てない」ナッツ・マキビシを踏み砕き前進しながら冷酷に宣言する。
「戯言をっ……!」ジェイドクラウンは壺じみた植物器官を取り出しアイアンボトムに向ける。動物的な開口部から放たれたのは……食虫植物由来の消化液だ!
しかしアイアンボトムは動じぬ。分節刃を格納しハサミを閉じると、そのままガントレットを盾めかして受け止める!彼女が腕を振るえば、何の跡も残ってはいない。
「アッハハハ!駄目ねエーッ!こうするでありんすよ!!」
哄笑と共にジェイドクラウンの肩口から野イチゴを潰したような鮮血が飛び散る!
アイアンボトムの左腕ガントレットに隠されていた生体銛だ。
「ヒュアー……」「ウフフーッ!!」今度は打ち倒す側と倒される側が逆!アイアンボトムの触手がジェイドクラウンを捕らえる!

「アンタの血ィ、綺麗ねぇ」アイアンボトムはジェイドクラウンの肩から流れる血を指先で掬うと、不穏な笑みを浮かべた。
「……私を殺さずにどうするつもり?」ジェイドクラウンが震える声で問う。
「それはアンタが一番よく知ってる筈でありんしょう?」
(不味い予感がする)ディープブルーの意識が浮上する。
「上玉じゃアなかったらすぐにバラしてたわよ?運が良いでありんすね」
何たる事か……ジェイドクラウンをコロッセオの只中に晒した上で嬲り者にするつもりだ!
(そうはさせないわ)
「ヒイェ……」「何が怖い事がありんしょう?それともいざ自分が敗れた時の事は考えてない腰抜け?」痛罵しながらジェイドクラウンの肩から生体銛を引き抜く。
(……『恵みの力と荒ぶる力の調和を』……)
「今すぐは殺さないわ、まぁアタイをナメてかかって、いいザマよねぇ」「……それだけは……っ」
アイアンボトムが強引にジェイドクラウンの顔を近付け、ドレスの胸元から厭らしく蠢く触手を滑り込ませようとする……!

(ルリャアァーッ!!)((アンタっ……ッアアァーッ!?))

だが突如ジェイドクラウンから飛び離れ電撃的ブリッジ、バク転からその場に立ちつくすアイアンボトム。ジェイドクラウンもゆっくりと立ち上がる……あまりの混沌状況に静まり返る観客席。
((何してンのよ!))(これがわたしのやり方よ。舵は、わたしが取るわ
ジェイドクラウンはこの隙に武器を取り、首を狙う事もできた……だが、そうしなかった。
((じゃあアタイは……))(大丈夫、わたしはあなただもの……)((アタイはアンタって訳ね!))
見よ、アイアンボトム……そしてディープブルーでもある……の瞳は右が蒼、左が紅に光り神秘的な陰陽合一じみている。ガントレットとレッグガードは細身でシャープな形状となり表面には七色の生物的発光体が輝く!
『彼女たち』はジェイドクラウンと再び相対する。紺碧の髪が風に揺れた。

「ウルトラマリンです。今度はお互い小細工抜きでいきましょうか」
「ジェイドクラウンです。望む所よ、剣闘士の名に懸けて!!」

二人は剣を取った……ここから真の剣闘が幕を開ける!!


――――――――――――


喝采と拍手!だがもはや二人の剣闘空間はそれらと隔絶していた!
「肩の傷は大丈夫かしら?ルリアーッ!!」「剣闘ではかすり傷よ!ヒュアーッ!!」
ウルトラマリンが青珊瑚じみた装飾柄の剣を突き出せば、ジェイドクラウンが翡翠装飾柄の剣でミニマルに打ち払う!しかしウルトラマリンも剣先を幻惑的に振るい追撃を許さぬ!
双方間合いを離し……瞬時に最接近!剣先が交錯!!

ジェイドクラウンが剣に力を込める。
「統治者としての驕りがあったことは認めるわ」「……でも今は違う。芽吹いたのよ、剣闘士としての矜持が!」ウルトラマリンの剣を弾き飛ばさんとする!
ウルトラマリンは相手の力を利用してバックステップ、その勢いで側面へ回る。
「その言葉、しかと受け取ったわ」「……認めた上で、あなたを倒す!」脇を狙う!ジェイドクラウンはターンしながら剣を横に向け受け流す!
両者立ち位置を入れ替え、再びの交錯……!!「ルリアーッ!」「ヒュアーッ!」

ガキン!ガキィン!

実力伯仲!いつしか観客席の歓声は一つのうねりとなり、コロッセオを文字通り鳴動させる。それに呼応するように、石畳の隙間から光が溢れる!
それを目にした金髪黒服は狼狽!「バカな……インターネット現象だと?コンピューター機器もないのに、あり得ねぇ……!?」

剣が幾度となく交わり、金属音と共に両者の立ち位置が入れ替わる!
ガキン!「ジェイドクラウン、あなたはなぜそこまでインターネットを憎むの!」
ガキン!「ウルトラマリン、貴方には理解できないでしょう……私の受けてきた苦しみが!」
「わたしを信じて、全てを語るのよ!剣闘士の矜持があるのなら!!」
「私の過去の全てを……受け止める覚悟はあるかしら!?」

ガキィン!!

両者の剣にエゴが乗ってぶつかり合う!鍔迫り合いの状態!!
「ならば教えてあげるわ、私の家族はインターネットに殺された!!」
「それは一体、どういう事……!?」
ジェイドクラウンが腕に力を込める。「私が学生の頃、ある殺人事件があった……TVニュースや新聞でしばらく話題になって、そして風化していくような」
「でも私は突然当事者にされてしまった!私の父様が事件の犯人だと言う根も葉もない噂が!!」迸る激情!ウルトラマリンも後退せざるを得ない……!
だが、けして視線を背ける事はない!「インターネットね!?」
「そうだ……侮辱、中傷、脅迫……心を病んだ父様は自ら命を絶った」「そして私も、殺人者の娘の烙印を押される事になったのよ!!」何時の間にかジェイドクラウンの目には涙が浮かんでいた。
ウルトラマリンは口を開かず剣を押し返す。鍔迫り合いが魂を語る!
「……私が育てた花壇の花が目の前で踏みにじられた時……力が目覚めて、奴らは苗木の肥料になった」「でも父様は帰ってこないし、父様を殺した奴も真犯人ものうのうと生き延びている!!」ジェイドクラウンが心の内に押し込めていた感情が溢れ出す!

ガキイィン!!

凄まじい剣闘斥力により両者は弾き飛ばされ、またも距離を詰め剣を交える。
「とても悲しい過去があったのはわかったわ、わたしが想像できないほど」ウルトラマリンが語りかける。「だから無関係な人たちを弾圧したというの?ヤクザ・コーポと手を組んで!」
ジェイドクラウンの返事は凄まじい突き!「……知ったような口をきくなっ!!」ウルトラマリンはミニマルに攻撃を弾く。剣戟の応酬!「仇を見つけられぬまま力を持て余した私を唯一受け入れてくれたのがヤクザ・コーポだった!」「匿名の陰に隠れた悪徳と堕落の温床たるインターネットを共に殲滅しようと!!」激突!!

コロッセオの鳴動は力を増し、輝きは大いなる渦となり七色の煌めきを迸らせる!
観客が目にしているのは、もはや単なる剣闘ではない。
ある者は漁師達に伝承される遥か機雷地帯の先にあるという大ヴォーテクスを、またある者はヨシノ運河の源、塁壁の遥か向こう側緑豊かで清涼な水源地を、またある者は老いた両親が始めて出逢った場所だと幾度も聞かされた桜並木道を。
皆が、最も美しいものを見ていた。

ウルトラマリンは激情のラッシュを流水の如く受け流す。その度に両の瞳から涙めいて蒼と紅の光が流れる。
「確かにインターネットには悪意ある奴らも、影の一面もある……アタイもそう思うでありんすよ」アイアンボトムの声!「でもそういう輩ぁインターネット関係なく悪さするッて、アタイは思うよ!」
「光ある所に影がある……影は光差す証、希望の証明」ディープブルーの声!「インターネットは絶望の淵なんかじゃない、果てし無い可能性の海なのよ!」

二つの声が重なる!「「信じるのよ、広大無辺のインターネット可能性ストリームを!!」」

今度はジェイドクラウンが弾かれ距離を離す!「……!!」
ウルトラマリンもまた無言で距離を取る。もはやこれ以上の言葉は要らぬ。

「ルリアアアァッ!!!!」「ヒュアアアァッ!!!!」

両者は鏡写しめいて同じ構えで一直線に突きを放つ!
やがてウルトラマリンは蒼紅の螺旋光を纏い、一方ジェイドクラウンは翠光の粒をその身に纏う!

キイイィン!!

透き通った衝突音と共に虹の火花が咲く。二振りの剣が、宙を舞った。

「……父様、母様……」
「あなたの思いは、きっと届いたわ」
煌めき渦巻くコロッセオに両者の剣が突き刺さる。その一部始終を見届けた観客はただ涙するほかなかった……。


だがその時、二人を覆うように巨大な影が差す!
「危ないっ……!!」ジェイドクラウンがウルトラマリンを庇うように突き飛ばす!直後、二人が立っていた場所をロケット弾の爆発が次々と襲う!!
何たる事か!観客席の向こうには天を衝く漆黒のオベリスクの如き武装構築物が浮遊している……両者は跳躍し、砲撃を掻い潜りながら再び剣を取る。
「ありがとう。ところで、あれに心当たりはある?」「あれはネオサヌキ区庁舎ビル……武装されているのは知っていたけど、まさか飛んでくるなんて!」

ロケット弾攻撃が止み、ビルディングの据付スピーカーから大音声が響く。
『コードネーム:ジェイドクラウンよ、貴様もインターネットにかぶれ、惰弱と退廃の徒となり果てたか!』
ジェイドクラウンは答えぬ。
『社会から爪弾きにされていた貴様を拾ってやった恩を忘れたか……反逆者には死、あるのみ!!』
その恐るべき宣告と共に……漆黒のビルディングは名状し難く、常軌を逸した、およそあらゆる物理法則への侮辱たるシークエンスを以て変形。

ドラゴンの尾と前足、獅子のたてがみと腕、鷲の翼、螺旋一角が生えた狼の頭を持つ醜怪な漆黒キメラケンタウロス戦闘機械が大地を踏みしめる!全身には過剰キリングパワー破壊兵器。
そして胸部には……悍ましきヤクザ・コーポ紋が冒涜的に輝く!!

ウルトラマリンとジェイドクラウンは再び剣を構えた。共に戦うために。
「黒幕のお出ましってわけね」「これが私の答え」


――――――――――――


『悪徳粉砕・テールスパイク!!』キメラケンタウロスロボがもぬけの殻となった観客席を踏み砕き、竜尾を振るい先端に並ぶスパイクで二人をゴア死体に変えんとする!二人は尾の付け根に潜り込み回避!『ヌーッ!』
「どうするの、体格差がありすぎるわ!」ウルトラマリンも流石に弱音を吐く。「大丈夫よ、私に考えがある!」ジェイドクラウンが勝算を信じた表情で答える。
『邪悪貫徹・インペイルビーム!!』キメラケンタウロスロボの螺旋一角が異様なスパークを放ち、ドリルの如くジャイロ回転する黒紫のビームを放つ!二人は連続バク転で左右に分かれ回避!背後の観客席に直撃し大穴が開く。『チョコマカと……』
「このコロッセオはネオサヌキ自治区を走る龍脈の交点の真上にある……元々は私の能力を強化するためだったけど」「大体わかったわ、その龍脈の力を使うのね?」
獅子腕の一振りを躱しながらジェイドクラウンが続ける。「その通り。私の大地の力に貴方の海の力を合わせれば、可能性はきっと」「ええ、やりましょ!!」

ウルトラマリンとジェイドクラウンは呼吸を合わせコロッセオ中央へと駆ける!
掲げた剣を交差させると、蒼・紅・翠の三色の光が輝く。虹の煌めきが血脈じみて大地を走り二人に集まっていく!!

『胡乱なり……堕落爆散・イーグルミサイル!!』キメラケンタウロスロボが鷲の翼を開き、羽根めいたミサイルを無数に放つ!

「「トリニティ・フォース・ダイナミック!!!!」」

KA-DOMDOMDOMDOOOM!!!!

コロッセオが閃光と爆発に包まれる。そして……。

二つの巨大な影。
紺碧に輝く鱗めいたボディスーツと水のヴェールに身を纏った、セイレーンの如き巨人。
花園がそのまま女性の姿をとったような、全身が植物の枝葉と花に覆われた巨人。

『何だとっ!?』「インターネットの……」「奇跡が起こったのよ!!」


――――――――――――


『所詮はウドの大木よ!薙ぎ倒してくれる!!』キメラケンタウロスロボが竿立ちし、ドラゴンの前足と獅子の腕で躍りかかる!
「こっちよ!」巨大ウルトラマリンはバックステップ!そのままヴェール翼を広げ、空に舞い上がる!!
「今ウドの悪口言ったわね」ツタに変じた巨大ジェイドクラウンの髪がドラゴンの前足と獅子の腕を捕らえ、動きを封じる!
『ヌググーッ!!』「今よ!」「ルリアーッ!!」
下顎をウルトラマリンの飛び蹴りが捉えた!ロボの機体が軋む!
『グゥーッ……おのれ、焼き尽くしてくれる!』狼の顎が100度展開、その奥から覗くは大型熱線砲!巨大熱量が膨れ上がる!!
「あれを食らったらまずいわ」「任せて、アクアマリンシールド!!」ウルトラマリンの掌から水の盾が広がる!
『退廃焼滅・ウルフメギドー!!』機械魔獣のあぎとから破壊の炎が解き放たれる!!

ZO-GOOOM!!!!

爆発がコロッセオを薙ぎ払う!『これは確実に仕留めたッ!!』

「「いいえ、まだよっ!!」」

二人とも水の盾に守られ、全くの無傷!
『バカな……惰弱なインターネット者などに敗れる筈が無い、敗れてはならぬのだァッ!!』キメラケンタウロスロボが隠し腕を展開、威圧的に長ドス二刀流を構えた!鷲の翼を羽ばたかせ、上空から二人をまとめて切り裂かんとする機械魔獣!!
一方ウルトラマリンは水のヴェールから紺碧の剣を生成!「マリンブレード!」
ジェイドクラウンも掌中の若芽から翠に輝く剣を生み出す!「ジェイドセイバー!」
「ルリアーッ!」「ヒュアーッ!」両者巧みな剣さばきで機械魔獣の長ドスを受け流し、間合いを保つ。だが機械魔獣は再び飛翔の構え!

「私が動きを止める、奴が立ち直る前に一点同時攻撃よ」「わかったわ」

「エナジーブルーム!!」ジェイドクラウンの体を彩る花々から眩く輝く花粉めいた光の粒子が噴射される!キメラケンタウロスロボは飛翔準備態勢でそれをまともに浴び……。
『……何が起こっている!?』何らかの高エネルギーにより動作不良!!

「「よし!!」」二人はそれぞれの剣を構えた。輝きが増していく!
(わたしはあなたで……アンタはアタイね、その事忘れてたかもしれないわ)
(これは私が選んだ事。インターネットでも、ヤクザ・コーポでもなく、私の人生は私のものよ)
『惰弱機械が!動けッ!!』

「スプラッシュ・マリンブレード!」「ソーラー・ジェイドセイバー!」
二振りの剣が掲げられる!ウルトラマリンの剣はセグメント分離して多数の碧い刃となり、ジェイドクラウンの剣は眩い光を纏い一瞬にして天を衝く巨大な光剣と化した!!

「「ダイナミック・エックスラッシュ!!!!」」

ウルトラマリンの鞭めいた斬撃が機械魔獣の左肩から右前足、ジェイドクラウンの叩き切るような斬撃が右肩から左前足に同時に叩き込まれる!!
輝きと共にX字状に切り裂かれるキメラケンタウロスロボ!ドラゴン前足が膝をつく!両肩が大破、四本の腕全てが吹き飛ぶ!装甲と共に胸のヤクザ・コーポ紋も破砕!内部メカニズムが露出する!!

『アババッ……バカな……こんな事が……』ZO-DOOOOM!!!!

激しくスパークを散らし崩れ落ちる漆黒の機械魔獣。凄まじい火柱と爆音と共にヤクザ・コーポの支配の象徴が砕け散った時、二人は目を合わせ笑顔で頷きあい……。

……眩い光とともに元の姿へと戻っていった。


――――――――――――


かくしてネオサヌキ自治区は解放された。

ヤクザ・コーポの息がかかった区議会は首領を区庁舎ビルごと失った事で解体を余儀なくされ、奴隷労働や投獄されていた政治犯はジェイドクラウン指揮下で釈放されている。
既に彼女が率いる臨時政府が樹立され、インターネット粉砕政策は全面撤廃される事になった。
少年兵や剣闘士として育った者たちの将来、残された塁壁や機雷の撤去など問題は山積みだが……。


そして今、彼女はウルトラマリンと海岸で別れ際の言葉を交わしている。

「まさか貴方との別れを惜しむ事になるとはね……貴方なら、民思いの良い政治ができそうなのに」
「わたし魚屋さんだから政治とかよくわかんないの。それにヤクザ・コーポの魔手はどこにでも迫っているわ」
「貴方は、一人で戦い続けてきたの?」
「わたしの心配なら大丈夫……それより、過去の事はもういいの?」

ジェイドクラウンは一呼吸おいて答えた。
「あの時見えたのよ、父様と母様の顔が……私まで奴らに縛られなくていいって
「そうだったのね……」
「それに、私にはやるべきことができた……それが片付いたら、花屋でも始めるかもね」
「それいいわね。わたしが魚屋さんで、あなたが花屋さん!

二人顔を見合わせ、笑い合う。

「まあ、当分先の話だけど。良ければこれを受け取って……いつでも私の波動を感じられる」
そう言ってウルトラマリンに渡したのは、青々としたツタの輪に黄金の種子が実った首飾りだ。

「あら素敵……!ありがたくいただくわね」「わたしからも。これでお互いの波動を感じられるはず」
今度はジェイドクラウンがウルトラマリンの贈り物を受け取る。
真珠の首飾りに碧く澄んだ雫めいた大粒の宝石が一つさざ波めいて輝く。

「何て美しいの……」「気に入ってくれた?」

二人はそれぞれの首飾りを同時に身に着け……。


「元気でね」「また会いましょう」


……それぞれの道を、歩んでいった。



【閉鎖圧制都市ネオサヌキ:完】


Q:これは何ですか?

A:これのエントリー作品です。


スキするとお姉さんの秘密や海の神秘のメッセージが聞けたりするわよ。