美味しんぼ第604話についてあれこれ

4月28日発売のビッグコミックスピリッツに掲載されている「美味しんぼ」第604話が非常に物議を醸しています。

主人公の山岡士郎と、その父親の海原雄山が福島から帰ってきたあと、体がだるく、鼻血が出たというもの。これが「福島に行ったら鼻血が出る」という風評被害ではないかというものです。

それをまとめたtogetterがこちら
http://togetter.com/li/660340

そして、それを受けて編集部がコメントを出すという異例の事態になりました。
http://spi-net.jp/spi20140428.html

今なおスピリッツ編集部に対しては非難が集まっていますが、果たして本当に風評被害につながるものなのか。順を追って検証していきたいと思います。なお、この記事はその性質上美味しんぼのネタばらしを含みますので、それが嫌な人は最初から読まないことを推奨いたします。また、一部引用として誌面の写真を掲載しております。


まず、先週もスピリッツは大きく話題になったことを覚えていますでしょうか。それは、とうとう山岡さんと海原先生が和解をしたというものです。

http://mantan-web.jp/2014/04/21/20140420dog00m200030000c.html

福島の取材を帝都新聞(海原雄山チーム)と一緒にする過程で自らのルーツが福島にあることを知り、思い出の地で、父と母と3人で写った写真をもとに和解するというもの。今までの和解とは異なり、完全に海原雄山のことを「父さん」と呼ぶというシーンがとても印象的なものでした。

その回でもあったのが「福島の野菜等は、今はしっかりと検査をしており、出荷されているものには何も問題が無い。安全だと証明されている」という部分です。

これが編集部のコメントのところで言われている「すでに掲載済みの「美味しんぼ」作中でも、きちんと検査が行われ、安全だと証明されている食品・食材を、無理解のせいで買わないことは、消費者にとっても損失であると述べております。」の部分です。気になる方は先週のスピリッツを何とかして手に入れてみてください。

つまりまずこの騒動の第一のポイントである、「美味しんぼは福島はもうダメで、食べものもダメと主張している」わけではないということです。現時点(ちなみに作中の時系列でいうと、最新話は2013年4月になります)では、しっかりとした検査によって安全が証明されているというスタンスなわけです。

さて次に、本当に「福島に行ったら鼻血が出る」と言っているのかの部分を検証してみましょう。

山岡さん達は6度に渡る福島取材の後、最後に「いちえふ」でも話題になった「福島第一原発」の敷地内の取材を行います。「いちえふ」でも見た「Jヴィレッジ」やいちえふへの道、集中管理センターや工事の現場など、さまざまなところを見学しています。ただし、写真はあまり撮れなかった(正確には東電のカメラで数百枚と撮ったけれども、セキュリティの都合でそのうち30枚しか写真がもらえなかった)ので、ここでのお話は結構駆け足気味になっています。

この中でも、3号機の前で東電の線量計で1時間当たり1680マイクロシーベルトを計測したという表現が出てきますが、きちんと「浴びたのは数秒間だけですから被ばく量は安全基準よりはるかに下です」というコメントも出ています。

さて、そのいちえふの取材の後で、山岡さんが「それにしても最近ひどく疲れて」と言います。部下の飛沢くんも「僕だって疲れてます。取材が取材ですから」と言うのですが「とはいえ、ひどすぎるんだ…」と。それらの伏線があった上で、食事中に山岡さんが鼻血を出すのです。

鼻血を出した山岡さんはすぐに病院に行きました。そこではっきりと、医者から「福島の放射線とこの鼻血とは関連づける医学的知見がありません。」と言われています。そして、山岡さん自身も「うっかり関連づけたら大変ですよね」と言っているのです。

ここが大きなポイントでしょう。ちょっと今までの流れを整理しますと……

・東日本大震災の後、何度となく福島の取材に行った
(その過程で父・海原雄山と和解したりもした)
・福島の食べ物の安全性についての取材を行い、安全が証明されている食べ物を食べないともったいないと主張。つまり、風評被害と戦う立場にあるということです
・福島第一原発を見学
・鼻血と倦怠感
・医者がはっきりと「福島の放射線と鼻血を関連づける医学的知見がない」と言っている

という流れの上での鼻血になるわけです。ちなみに海原雄山(一緒にいちえふ見学しています)も「む、私も鼻血が出た。大量ではなく、鼻をかんだら血が混じっているくらいだったが」と言っています。

この流れからすると少なくとも「ちょっと福島に行っただけで鼻血が出る」と言っているわけではないことがわかるでしょう。何度も取材に行っていて、さらにはいちえふの内部まで行っているわけです。もしも本当に福島のせいで鼻血が出ているとしても(そして美味しんぼではそれは否定されています)ほんのちょっとだけ見に行ってダウンしたと言っているわけではないということです。

さて、その後に、山岡さん達は第一原発のある双葉町の住民と前町長の井戸川氏が埼玉県に避難してきているのを知って、井戸川氏に取材に行きます。

そこで井戸川氏が「私も鼻血が出ます。福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけです」と衝撃の発言をするのです。これが問題になった、604話の最後のページですね。

この発言の真意はよくわかりません。井戸川氏自体がどういう人で、どういう意図でこういうことを言っているのかちょっと不勉強でよく分からないので、コメントのしようがありません。ちょっと調べた限りでは、賛否両論出ている方のようですね。

これは連載漫画の、さらには次回への引きの部分で使われているので、この後にどういう話の展開になるかはわかりません。この後に「本当はダメなんだ」となるのか、「それも実は風評被害の一環だ」となるのか、これはこのシリーズがきちんと完結してみないと何とも言えないでしょう。

「美味しんぼ」という作品は、そのあまりの影響力の大きさと、実在の人物が登場してくるので、多くの人は今やセミドキュメンタリーとしてとらえていると思いますが、やっぱり週刊誌に連載されている漫画です。なので、「次回への引き」があるのは当然ですし、漫画的な誇張表現もあるでしょう。さらに、連載中の一部分、しかも前後の脈絡を無視して1ページだけで批判することはしてはならないと思います。

次回が掲載されるスピリッツはGW明けの5月12日(月)です。このシリーズは今後のこちらのnoteで継続してレポートしていきたいと思います。

ただそれだけでは何なので、今後の展開を少し考えてみましょう。

実はひとつだけ気になるのは、山岡さんの鼻血や倦怠感等は、原作者の雁屋先生の実体験をもとにしているという点です。最初は、山岡さんは手抜きの料理を食べさせられそうになっただけで寝込むぐらいメンタル弱いし、ストレスに弱かったりもするので、そのせいで鼻血が出たということにしたのかと思っていたのですが、どうも違うかもしれません。こちらのインタビューに詳しく載っていますね。

http://nichigopress.jp/interview/【ルポ】原発問題を考える/51415/

これを読むと雁屋先生は現時点では「本質的には福島はダメなのでは」と考えていると思われます。なので本当に編集部側が言うところの風評被害を助長する意図が無いものなのか、やっぱり今後をしっかりと読んで見極めなければならないと思います。

ちなみにこの記事は投げ銭制です。もしかしたら有料記事に切り替えるかもしれませんが、当面は無料です。続きを読むを見ても何もありませんが、よかったら100円ほどぽいっと投げつけてください。もしくは僕の本を買ってもらえれば……

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