美味しんぼ第604話についてあれこれ2

5月12日に発売されたスピリッツ掲載の「美味しんぼ 第604話 福島の真実23」を読みました。

そういえば前回書き忘れたのですが、美味しんぼは基本的に1シリーズ1話となっています。例えば第3話その1、その2、その3ですね。単行本では1冊ごとに「1話」「2話」と振り直されているので、通算表記の第604話は雑誌掲載時のみとなります。

この号が出るまで、色々と大変な展開になっていました。主に、雁屋哲先生のブログで「鼻血ごときで騒いでいる人たちは、発狂するかも知れない。」という発言が出たからです。

反論は、最後の回まで,お待ちください
http://kariyatetsu.com/blog/1685.php

これを読む限りでは、もう基本的に雁屋先生は福島はもうどうにもならないと考えているのではないでしょうか。そして鼻血をきっかけに、それを次々と紐解いていくという予告にも読めます。なので、鼻血ごときで騒いでいたら最後には発狂するかもしれない、という発言なのでしょう。

さて、それを踏まえて今週の美味しんぼはどうだったかを見ていきます。例によってネタばらしを含んでいますので、ネタばらしが嫌だという方はご遠慮ください。また、一部引用として誌面の写真を使わせていただいております。あと、細かいところにあれこれ文句を言う方は、この文章だけでなく本誌を買って読んでから言うことをオススメいたします。

今回は福島の真実編のどうやら最終回手前となっているようです。では、先週のおさらいから。

・「いちえふ」の取材後、鼻血が出た山岡さんと海原雄山。病院へ行くも「放射線と関連づける医学的知見は無い」と言われる
・双葉町の前町長の井戸川氏へ取材。氏は「私も鼻血が出ます。福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけです」と言う。
・驚愕の顔をしたまま以下次号

そしてその話を受けた後の展開は以下の通りでした。

・井戸川氏「これは被曝したからですよ」と言う。
・以下、岐阜環境医学研究所所長・松井英介先生より説明
・「大阪で、受け入れたガレキを処理する焼却場の近くに住む住人1000人ほどを対象に、お母さんたちが調査したところ、放射線だけの影響と断定はできませんが、眼や呼吸器系の症状が出ています」
・その後で、井戸川氏より「東電と国の言うことは信用できない」という発言と、その経緯の説明。「私はとにかく、今の福島に住んではいけないと言いたい。」
・双葉町避難民のいる騎西高校の避難所の取材
・「福島に住んではいけないと言う方がもう一人います。福島大学の荒木田先生です。」と紹介される。
・福島大学行政政策学類准教授の荒木田岳先生があれこれ解説。
・「除染作業をする度にのどが痛くなったり具合が悪くなって終わると寝込む」「除染には意味がない。意味があるとすれば汚染を広げないという意味だけだ」
・「福島を広域に除染して人が住めるようにするなんて、できないと私は思います。」
・これらの話に山岡さんと海原先生は全て同意し、力強くうなずいている。

さて、これをどう考えたらいいのでしょうか。

現状では、この考え方は間違いが多いのではないかと言わざるを得ません。例えば大阪で受け入れたガレキを〜のくだりは、大阪で受け入れたガレキは福島のものではなく、岩手県のものです。大阪府も抗議をしていますね。

大阪府/漫画『美味しんぼ』での本府の災害廃棄物処理に関する記述について
http://www.pref.osaka.lg.jp/shigenjunkan/haikibutukouikishori/comic.html

そして、渦中の福島県でも、この問題に関して早くから見解を述べていました。

福島県/週刊ビッグコミックスピリッツ「美味しんぼ」に関する本県の対応について
http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/01010d/20140512.html

福島県の対応に関してはまた最後で。

何故鼻血が出るかの原理の説明ですけれども、これはちょっと何とも言えません。文字で書くよりもとりあえず引用させていただきます。

作中でも「まだ医学界に異論はありますが」とありますので、この松井先生だけが言っている意見(しかも主流では無い)と考えるといいのではないかと思います。

個人的には埼玉県に避難してもこの原理で鼻血は出続けるの? というのがよくわかりませんでした。細胞が代謝で入れ替わったら過酸化水素水とかも一緒になくなるんじゃないのかなあ……この辺ちょっと勉強不足でよく分かっていないので、詳しい人の意見を求めたいところであります。

そして作中では井戸川氏が町長を追われた理由について言及されていました。ちょっと引用いたしましょう。

井戸川「私は政府の事故対策会議にも、福島県の会議にも呼ばれたことがありません。それなのに、汚染土壌を貯蔵する放射性廃棄物の中間貯蔵施設を双葉郡に作ると国と福島県が言う。私は、その福島県と双葉郡の会議に出席しなかった。それを町議会でとがめられて不信任決議を受けたので辞任しました。」
中口「その町議会はおかしいですよ。どうして不信任するんです。」
難波「井戸川さんが邪魔な勢力があるんや…」
(中略)
山岡「しかし、真実を言うと町長を辞めさせられるこの日本という国は…」

あ、中口は東西グラフ「世界味めぐり」担当者で、難波は東西新聞の記者で山岡さんの後継者である飛沢(彼も同席しています)の親友です。

えーっと、これを読む限りは、この井戸川氏が本当に自分の主張が正しいと信じていたのなら、やらなければならなかったことは、その出席しなかった会議できちんと意見を言って戦うことだったんじゃないでしょうか。それをしないで会議から逃げたのであれば、それは不信任決議を受けるのも当たり前のような気がするのですが。あれ、これは僕の感覚がおかしいのかな。

ちなみに井戸川氏は4月28日発売号で鼻血が話題になったあと、Facebookで自らの鼻血写真を公開しております。
https://www.facebook.com/i8.katsutaka/posts/235452536649514

井戸川氏や雁屋先生が鼻血を出したことに関しては、何も疑っておりません。それが両氏の中での「真実」であることは間違いないでしょう。ただ、それと放射線を安易に結びつけるのはやっぱり危険だと思うわけです。

今回の話の中でも「井戸川さんの福島に住んではいけないという言葉、ご自身の体験を元に考え抜いた言葉だと思う。だから、嘘偽りなく重い。」という発言が飛沢君から出ています。でも、体験を元に考えた言葉だったから何でもいいかというと多分それは違うのですね。

例えば僕は車に乗ると必ずと言っていいほど嘔吐感を催し、場合によっては嘔吐するのですが、この経験を元に「車には毒性がある! こんな危険な乗り物に乗ってはならない!」と主張したとします。その僕が「車に乗りたくない」というのはきっと嘘偽り無く重い言葉でしょう。でも、嘔吐を催すのは僕の中では「真実」ですがそれは毒性とかでも何でもなく、世間一般では単なる「乗り物酔い」ですよね。ちょっと事例を矮小化して言っていますが、結局はそういうことなんだと思います。

井戸川さんは双葉町に原発を誘致した人でもあるとのこと。おそらくは自分がしたことがこれほどの影響を及ぼすことになり、自責の念に駆られて、そのストレスで鼻血は止まらなくなるし、過激なことを言っているのではないかと思います。

今回のお話で問題になるのは、個人的には鼻血の件ではないと思っています。それは、福島大学行政政策学類准教授の荒木田岳先生(すみません。勉強不足でこの方がどういう方かわかっていません)が「福島はもう取り返しのつかないまでに汚染されたと私は判断しています」「福島を広域に除染して人が住めるようにするなんて、できないと私は思います。」と断言し、それに両陣営が賛成している点ではないかと思います。

現状で人が住めないと言っているのも問題だし、それを除染して人が住めるようになんてできないとも言っているのですね。(おそらくストレスか花粉症が原因であろう)鼻血で騒ぐよりもこちらの方が大きな問題ではないでしょうか。

それらに対立軸(住めないところもあるが、住めるところもあるというレベルでもいいんですが)を用意するのではなく、両陣営が全面的に首肯していて、作品全体の意見となっている点が何よりまずいのではないでしょうか。

さて、ここで編集部からのコメントを見てみましょう。

編集部からのコメント
http://spi-net.jp/spi20140512.html

これに憤る人は多いように見受けられますが、実はこの姿勢は昔から一貫した物でもあります。あ、背景が鼻血色とは何事だ! と怒っている人もいましたが、これはあれです。昔からのスピリッツのページの公式カラーです。そこぐらいはせめて確認してから怒ってください。

編集部が今までの抗議に対してどのような対応をしたのか、有名なところというか、経緯がわかりやすいものではこちらが参考になります。

まんが「美味しんぼ」に訂正要求(食品安全情報ネットワーク)
https://sites.google.com/site/fsinetwork/katudou/oishinbo

リンク先を全部読むのが面倒な人に簡単に解説しますと、遺伝子組み換え食品に対して問題となる記述があったので編集部に抗議し、返事が来て、対話を行った旨が書かれております。編集部側の意見を太字にしてまとめます。

・雁屋先生は「食に絶対の安全はない」という考えのもと、たとえ少数派の意見であっても掲載するという考え。そして緻密な取材に基づいて執筆活動を展開しており、誤解を広げるのが目的ではない

・意見には2種類あり、「感情に基づく意見」と「科学に基づく意見」とがある。この両者は両立することもあれば、対立することもある。例えば「安全だから、私は気にしない」というものと「安全でも、私は嫌いだ」のような感じ。
・もう一つの分け方に「科学や社会規範から見て正しい意見」と「間違った意見」がある。そして世の中には間違った意見を「科学的に正しい」と言い張る人達がいる。このような意見の科学的根拠は偽科学だったり昔言われていたけれども現在は否定されているものである。
・「少数意見を無視しない」は民主主義の原則ではあるが、それは「真っ当な少数意見」という限定条件がある。社会規範に外れた少数意見や、偽科学に基づく少数意見を「真っ当な意見」と対比させることは無意味であるだけではなく、両者を対等に見せてしまう点で大変有害。
・今回の美味しんぼの例は「偽科学や否定された科学を基にした少数意見」であるので訂正を求めたい

・そうはいわれても自分達は専門家ではない。安全性に疑義があるとされる実験結果もあるし、これを支持する専門家もいる。「完全に安全と言い切れるのか。言い切れないのであれば、安全でないとしている件についても取り上げるべきである」

・結果、合意には達しないが、互いの立場を理解できたので、今後食品の安全性を取り上げる際はこの話し合いの結果を考慮して欲しいと決着

これは、ほとんど「食」を「放射線」に置き換えると今回の展開と全く一緒ではないでしょうか。過去のこの姿勢を知っていると、現在の編集部の方向性も見えてきますね。

僕が調べた範囲では、今週の主張のほとんどは「偽科学や否定された科学を基にした少数意見」だと思います。

というわけで、編集部はいろいろなところからコメントを集めて、それをまとめたコンテンツを作る模様です。その質問内容は福島県の対応のところに書いてあります。再度掲載いたします。

福島県/週刊ビッグコミックスピリッツ「美味しんぼ」に関する本県の対応について
http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/01010d/20140512.html

ここからちょっと引用します。

(出版社から取材依頼のあった事項)
・「美味しんぼ」に掲載したものと同様の症状を訴えられる方を、他に知っているか。
・鼻血や疲労感の症状に、放射線被曝(※依頼原文では「被爆」)の影響が、要因として考えられるかどうか。
・「美味しんぼ」の内容についての意見

被曝が被爆になっているのは置いておいて。このアンケート結果がどのようになるのか、来週が楽しみです。編集部のコメントにある通り、本当の議論の場としてきちんと成立するのであれば、美味しんぼ側(雁屋先生側)の意見がこうであるのに対し、自分の意見はこうである、ということが言えるからです。まあ僕のところには小学館様からお手紙きませんでしたが(笑) 未だ間に合いますよ! ご連絡お待ちしております!

そして、あと美味しんぼの福島の真実編があと一週分しかないということは、次でシリーズ全体の総括が出るわけです。このままどのような結論を出すのか。それは未来に希望を持てるという結論なのか、このまま福島はもうダメだという意見なのか。来週もまた見守っていきたいと思います。

さて、一応今回もこの記事は投げ銭制となっております。寄付ボタンを押す感覚で投げ銭していただけたらうれしいです。他の検索等から流入された方へ説明いたしますと、本記事はnoteというコンテンツにお金を払うことのできるサイトを使っていく上での実験として作成した記事です。この後についている「続きを読む」を押しても何もない、つまり本文は全て無料で公開しています。無料で公開している記事に、お金を払っていただけるビジネスモデルが成り立つのかの実験も兼ねているということを予めご了承いただけたらと思います。

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