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「いいモノを作っただけでは売れない」と知って取り組んだこと

すべてのアーティストやクリエイターが直面している問題かもしれない「いいモノを作っただけでは売れない」という現実。20代前半でそのことを思い知ったという村松さんは、時代の変化に合わせた「モノづくり」をすることに、現在も取り組まれています。

こんにちは、記者のカミュです。連載「村松啓市の仕事」では、世界で活躍するデザイナーの村松啓市さんの魅力や、その作品について、ご紹介しています。今回のテーマは「時代の変化に合わせたモノづくり」です。

■作り手や材料や制作背景の見える「モノづくり」

村松さんは、現在ディレクターを務めているニットブランド「AND WOOL」についてお話しされるとき、よく「ファーマーズマーケットのような」という言葉で説明されています。

「ファーマーズマーケット」と言うと、納得してくださる方が多かったので、自然に使うようになりました。だから、僕が何をやりたいか説明するときには、身近な野菜に置き換えて説明するようになったんです。私がやりたいことをイメージしてもらいやすいと思っています。

「ファーマーズマーケット」ということは、つまり、作り手や材料や制作背景が見えやすい、ということですよね。村松さんはもともとファッションブランド「everlasting sprout」でのコレクションデザイナーとしての活動が主軸のデザイナーさんです。いつ頃から「作り手や材料や制作背景を紹介する」ことの重要性を感じていらっしゃったのでしょう……?

当たり前のように「いい服」を作っても、市場のプロやお客様がそのことに気づかなければ意味がない、ということを、自身のブランド活動を通して思い知りました。20代前半くらいでしょうか。服のデザイン性や、材料、制作背景を紹介していったほうが、私が作りたい服を作るためにも、ファッションや「モノづくり」の未来のためにもいいと思うようになりました。

村松さんは、20代半ば頃から、積極的にワークショップ活動や手芸のお仕事をされるようになっています。そしてそれは、静岡に活動拠点を移し「AND WOOL」を立ち上げた現在も変わらずに続けていらっしゃいます。

時代がどんどん変わって、近い将来には「(服づくりにおける)モノづくり」がしづらくなるだろうということは、何となくわかっていました。このままだと、技術や知識が未来に引き継がれなくなるのではないかと思ったので、それを伝えることをすぐに始めなければならないと思いました。

村松さんはこれについて「活動当初から容易に想像がついた」とお話しされていました。現在、状況がまったくその通りになっているのを見ていて、今後もっとそれは加速していくと感じているそうです。

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■作り手や材料や制作背景を知る「難しさ」

服づくりにおいて、村松さんの言う「ファーマーズマーケット」のように、作り手や材料や制作背景を紹介するということは、可能なのでしょうか? 村松さんがその「難しさ」についてお話ししてくれました。

十分な時間とお金があれば、協力メーカーなどから作り手や材料の情報をたどって、知ることは可能かもしれません。しかし、服は、数十社が関わってようやく1着出来上がる、という分業だらけの「モノづくり」のやり方をしています。それだけ仕入れ先が多いということなので、通常は非常に難しいと思います。

関わる人の数が大変多い中で、作り手や材料まで明確にするというのは、確かに難しいことですね。それに、メーカーさんには「仕入れ先はなるべく教えたくない」ということもあるでしょうから。

それに、ファッションブランドは、手間をかけてそれを調べても、直接的な利益になりづらいので、必要ないと判断しているところが大部分ではないかと思います。でも、だからこそ自分は才能と資本がない分、足を使って「モノづくり」をしたほうがいいと、活動当初から感じていました。今は、私にとっても私のブランドにとっても、それが「強み」になっていると思います。

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村松さんは、さまざまな仕入れ先の会社で、とにかくいろんな話を聞いて勉強しているそうです。積極的に「知ろう」とすることで、仕入先の会社との信頼関係も築くことができるようになるのかもしれませんね。

まさにおっしゃる通りで、最近は「モノづくり」の現場にデザイナーや企画関係者が出向くことはよく見られるようです。でもちょっと前は、そんなデザイナーは少なかったので、私は工場さんたちにはずいぶん可愛がっていただいていたと思います(笑)

村松さんはイタリアの大手糸メーカーの「リネアピウ社」への留学経験があります。それに糸(材料)から知らないとできない「ニットデザイン」の専門家です。もともと、作り手や材料に近いところにいたデザイナーさんなのかもしれません。まさに「ファーマーズマーケット」のようですね。

■「いいモノ」を「つなげていくこと」が大切

村松さんが「AND WOOL」のニット製品の話をされるとき、「ファーマーズマーケット」と同じくらいの頻度で口にされる言葉があります。それは「触ってさえもらえれば」です(笑)

あー、そうですね(笑)確かにいつも言ってますね。でも本当にそうなんです。私たちの作る製品の良さは、まず第一に素材がいいことです。そして第二に手仕事によって非常に軽く柔らかく作られている、ということです。この2つが揃っているニット製品は、現代において、ほとんどないと思います。製品のクオリティーには自信があるんです。

以前、この連載の記事に書いたことがあったと思いますが、村松さんの作るニット製品の大きな特徴の1つが「ふっくら」していることです。ストールなどはたっぷりと空気を含んでいてやわらかくてふわふわです。セーターや帽子や手袋などの編み目模様はとても立体的になっていて潰れていないんです。これ、他のメーカー品と比べると一目瞭然で、模様がとても「ふっくら」しているんです。

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私たちが作っているような手仕事によるニット製品を作ろうと思うと、手間もコストも時間もかかり、量産は難しいと思います。

「AND WOOL」では現在、全国でワークショップを行なったり、在宅ワークの雇用創出プロジェクトを行うことで、同時に「技術力の高い編み手職人を育てる」ということにも取り組んでいます。量産が難しいニット製品を、品質を落とさずに高品質のままもっと広めていくために必要なことだと、村松さんはお話しされていました。

製品の良さを伝えたり、技術を伝えたりするためには、「つないでいくこと」が必要です。だから、私たちの製品を直接触ってもらえる場や、私たちに興味をもってくださる方とつながれる可能性のある場には、これからも積極的に出て行こうと思っています。

「いいモノ」を作るだけでなく、それを「つなげていくこと」が大切なのだと村松さんに教えてもらったような気がしました。

(記者:カミュ)


*お知らせ*

来週、東京ビッグサイトで行われる「インテリアライフスタイル国際見本市」に、村松さん率いる「AND WOOL」が出展されます。デザイン性の高いギフトアイテム、テーブルウエア・食品、ジュエリーからハイエンドな家具まで、国内外から700を超える出展者が集まる見本市です。こちらは、一般の方は入場できない展示会ですが、ショップ様、企業様でご興味のある方がいらっしゃったら、是非「AND WOOL」ブースをお訪ねください。

こちらの記事に掲載している写真の製品はすべて、当日直接ご覧いただくことができます。村松さんが「触ってさえもらえれば」といつも言っている商品を実際に手にとることのできる絶好の機会です(笑)どうぞよろしくお願い致します。

・日時:2019年7月17日(水)−19日(金)
・営業時間:10:00−18:00 (最終日は 17:00まで)
・場所:東京ビッグサイト 西1・2・3・4ホールおよびアトリウム

※「AND WOOL」ブースは「西4ホール NEXT【J/N77】」です。


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