見出し画像

テキスタイルデザインって何?

「デザイン」というのは、アウトプット先の違いによって、やり方はどのように変わるものなのでしょうか。日本でも数少ないニットの専門知識をもっているファッションデザイナーの村松啓市さん。しかし一方では、他にはないめずらしいテキスタイルデザインの手法も得意としています。

こんにちは、記者のカミュです。連載「村松啓市の仕事」では、世界で活躍するデザイナーの村松啓市さんの魅力や、その作品について、ご紹介しています。今回のテーマは「デザイン手法」です。

■テキスタイルデザインって何?

そもそも私は「テキスタイルデザイン」がよくわかっていません(笑)「テキスタイル」というのはつまり「布」のことですから、「テキスタイルデザイン」は「布」の服をデザインをすること、くらいにしかわかっていないのです。まずはそこからですね。

「テキスタイルデザイン」という言葉の概念は、人によって捉え方が異なると思うので、説明するとなると私にもなかなか難しいのですが……(笑)基本的には、「布・糸」をデザインする、ということでOKだと思います。

「糸」のデザインが含まれるということは……ニットもある意味「糸」のデザインですが、テキスタイルとは区別されていますよね……。???……

難しいですよね(笑)「テキスタイルデザイン」は、「布」で服をデザインするだけでなく、「布」そのものである「織物」のデザインも含まれる、と言えばいいでしょうか。素材である「糸」の染色や加工、柄のデザインなども「テキスタイルデザイン」です。一方で、ニットの「糸」というのは、それ1本で服を編み上げるということですね。

こちらは村松さんデザインのワンピースです。「生地」は静岡県の「遠州織物」と呼ばれるもので、タテ糸とヨコ糸の6色を重ねながら織ることで、さまざまな色の格子柄を生み出すという技法が使われています。この「生地」のデザインも村松さんがやっています。これが「テキスタイルデザイン」ということですね。

画像1

画像2

■アウトプット先の違いによるデザイン手法の違い

最終的なアウトプットが、「テキスタイル」になるのか「ニット」になるのかによって、デザインの手法に何か違いのようなものがありそうですよね。作る工程が、全然違いますから。村松さんに伺いました。

基本的には同じなんですよ。糸と、糸を面積にして生地やニットにする、ということですから。テキスタイルに関しては、どんな色の使い方をするのか、どんな立体を作るためにテキスタイルを作るのか、どんな目的を叶えるために何をするのか、そのあたりのバランスを考えながらデザインをします。ニットに関しては、それなりに知識や思い入れも深いので、編み方の組織や技術的なこと、効率や私らしい表現など、考えることが少し複雑になる部分があるような気もしますが……でもやっぱり、基本的には同じです。

アウトプット先が違っても、デザイン手法は基本的に同じだという村松さんですが、村松さんは「糸」を使った表現を得意とされているデザイナーさんです。ですから「糸」を使った表現に関しては、とても個性的で独特の手法を取られることが多く、それが村松さんのブランドが支持される理由にもなっています。

その1つが「刺繍」の技術です。まずは先にこちらをご覧ください。

画像3

画像4

画像5

画像6

これは、村松さんがビニール素材へのテキスタイルデザインに挑戦して生まれた「ビニール傘」です。村松さんが得意とするハンド刺繍を、特殊なプリント技術によってテキスタイルデザインへ落とし込んだ作品です。

最初にこのビニール傘の制作依頼をいただいたときは、私が得意とするテキスタイルでの表現の幅が(ビニール傘だと)狭くなってしまうので、上手にできるか不安でした。でも、特殊なプリント技術を使うことで、私の得意な「刺繍」の技術を活かすことができたので、良い感じに仕上げることができたと思います。制作途中はもちろん、傘メーカーの方にいろいろとアドバイスをいただきながら、多くの試行錯誤がありました。

そういえば「刺繍」は主にテキスタイルに用いますが、1本の糸で表現するという意味ではニットのデザインに近いですよね。

そうなんです。だからやっぱり同じです。「刺繍」は「糸」を使った表現になるので、「ニット」や「織物」などと感覚はほぼ同じだと思っています。表現方法というか、実際に制作する技術や知識が異なりますが、デザイン感覚はほぼ同じですね。ですからこの「ビニール傘」も、デザイン面で何か特別なことをしたわけではありません。アウトプットの先が変わっても、基本的には同じです。

■デザインを考える具体的な作業

「布」だったり「ニット」だったり「ビニール」だったり……そのアウトプット先が変わっても、デザイン感覚は同じだという村松さんは、具体的にはどのようにしてデザインを作り上げていくのでしょうか? これは、プロのデザイナーさんとして「企業秘密」のようなところもあると思うのですが、今回は思い切って聞いてみました。

秘密ということはありませんが(笑)実は私はあまり絵は描きません。素材と目的と技術を基にして、バランスを見ながら組み立てて、平面や立体を作って、最後に服やアイテムに落とし込んでいく、という感覚でしょうか。

平面で考えるのではなくて、いきなり立体感覚に入ってしまうって、すごいですよね!

絵を描いて立体感覚を養いながら作るというよりも、手と目を動かしてイメージを膨らませて作っていくほうが、平面から考えていくよりも私にとってはわかりやすいんです。ちょっとイレギュラーなタイプのファッションデザイナーかもしれませんね。。。

村松さんがディレクターを務めているニットブランド「AND WOOL」の製品の一番の特徴は、とてもふっくらしている(立体的な)ところです。

画像7

画像8

画像9

この印象は、村松さんのデザインの共通の特徴かもしれません。今回の村松さんのお話を伺って、村松さんの頭の中では「デザインスタイル」というものがしっかりと確立されていて、たとえアウトプット先が変わってもそれは変わらない、つまりそれが村松さんの作品の個性になっているのだということがわかりました。

(記者:カミュ)


いつもありがとうございます。活動を、もっと多くの方に知っていただきたいと思っています。いただいたサポートは、それを「伝える」このnoteページを充実させるために使わせていただきます。これからもどうぞよろしくお願いします。