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なぜ「ニットウエディングドレス」を作り続けるのか?

誰かの人生の「特別な日」のための「特別なドレス」を作る……村松さんのもとには「ウエディングドレス」制作依頼がくることがあるそうです。村松さんの作る「ニットウエディングドレス」は、手作業で時間をかけて繊細に作られるとても高級なドレスです。村松さんは今後もこのドレスを作っていきたいと仰っているのですが、その理由は「雇用創出」のためだそう……いったいどういうことなのでしょうか?

こんにちは、記者のカミュです。連載「村松啓市の仕事」では、世界で活躍するデザイナーの村松啓市さんの魅力や、その作品について、ご紹介しています。今回のテーマは「ニットウエディングドレスによる雇用創出」についてです。

■「ニットウエディングドレス」とはどんなもの?

専門的な知識に裏付けられた優れたデザイン、そして手作業で繊細に作られる「ニットウエディングドレス」を、村松さんはこれまでに5着制作しています。先にその一部をご覧ください。

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ドレスの他に、アクセサリーや装飾品もニットで製作されています。

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写真からも、その繊細で美しい作りがわかると思うのですが、村松さんは「直接見てもらえれば、明らかに普通のドレスとは全然違うことがわかってもらえるはず」と仰っていました。

■「ニットウエディングドレス」制作を通して感じたこと

「ニットウエディングドレス」がとてもすてきなものだということはわかったのですが、そもそも村松さんはこのドレスを、どうして作ろうと思ったのでしょうか? お話を伺っています。

最初は、2年ほど前に友人から結婚式のアクセサリーを作らさせていただく機会をもらったことがきっかけだったと思います。そのときは、ペアの指輪と新婦のネックレスを制作しました。そしてその1年半後くらいに別の方から、今度は「ウエディングドレス」の制作依頼がきたという感じです。

デザイナーになって以来、「自分の表現」や「自身との対話」として作品を作ってきた村松さんが、初めて「特定の個人のため」に作品を作った経験だったそうです。

ちなみにそのときのドレスはこちらです。

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普段はファッションブランドとして、時代のファッションスタイルの流れ、自分の表現、一人一人のお客様にどう喜んでいただけるか、そして効率と生産性のバランスを考えながら作る、いわゆる「プロダクトデザイン」としての作り方をしています。でも、結婚式のためのアクセサリーやドレスの制作というのは、着る人のことを具体的に考えながら「特定の個人のため」に作品を作ります。これは、それまでとはまるで違った新鮮な経験でした。

誰かの人生の「特別な瞬間」に、「服を作る」ことで関わることができるというすばらしさを、村松さんはこのときに味わったそうです。最近もそのことについて、こんなツイートをされています。

私は村松さんのお話を伺って、世界にたった1つの「特別なドレス」を作ることで、最高の瞬間を演出する手伝いができる……このことが、村松さんの「ニットウエディングドレス」制作の強いモチベーションになっているんだろうな、と思いました。ところが……。

そういう気持ちももちろんあります。ありがたいことに、毎年「特別な一枚を作ってほしい」という方はいらっしゃいますし、求められる限りは最高のドレスを作る準備が私にもあります。でもそれだけではありません。実は「ニットウエディングドレス」は、制作する私たち、ご注文いただいたお客様以外にも、幸せになる人を生み出せる仕組みをもっているんです。

■本当にやりたいことは「雇用創出」

村松さんは今、ニット制作の作業工程の一部を、「内職」という形で外部の編み手職人さんに発注するという仕組みを作っています。これは、さまざまな事情から「外に働きに出ることができない人」のために、「在宅ワーク」の仕事を提供するプロジェクトとして行われていることです。

お子さんが小さい主婦の方、高齢ですでにリタイアしたけど働きたい方、精神疾患などから人付合いが難しく外で働けない方、などに雇用を提供しています。活動は注目されて、「AND WOOL」には「在宅ワーク」に関する問合せがたくさんきているそうです。

「ニットウエディングドレス」はすべて手作業で作る「一点もの」のウエディングドレスです。時間と手間をかけて作られるドレスは、大変上質で高級なものです。この作業の一部を、在宅ワークを必要としている方たちにお願いしています。このドレス、私たちが今取り組んでいる「雇用創出プロジェクト」に非常に向いている製品なんです。その理由は大きく2つあって、「納期が長い」ということと「対価を払いやすい」ということです。関わる人全員を、幸せにしてくれるドレスなんです。。。

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すばらしい取り組みですが……しかし、この複雑なウエディングドレスの制作に、在宅ワークの方が入ることが本当に可能なのでしょうか? ドレスの仕上がりのクオリティに、影響してしまいそうで心配ですよね。

もちろん、そこは私たちがしっかりと考えて作業を発注しています。クオリティに影響しない「単純作業部分」を任せたり、そもそもの作業工程から工夫して「これなら誰がやっても仕上がりには影響しないよね」とう作り方を考えています。簡単な例を挙げると、例えば「ビーズを糸に通す作業」ならば、プロがやろうが素人がやろうが、仕上がりにはまったく影響しません。要は、そういう部分を在宅ワーカーさんの技術レベルに応じてお願いしているんです。仕上げは私たちが、プロの技術できっちり行なっています。

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「作業の一部を外注する」ということなら、一点もののウエディングドレスでなくてもできそうな気がしますよね。

量産体制ではこんなふうに「雇用創出」をすることは難しいと思います。通常は決まった「納期」や「数量」がありますから。一定期間に一定数量を納品しなければならないとなると、作業工程を細かく分割して在宅ワークの方に仕事を振ることは、なかなか難しくなると思います。

一点ものの上質な高級品だからこそ、時間に余裕をもって、人件費も十分に確保した上で、制作ができるということなんですね。

お話を伺う中で、村松さんは何度も「直接見てもらえれば、明らかに普通のドレスとは全然違うことがわかってもらえるはず」と仰っていました。実は、この「ニットウエディングドレス」を直接見られる機会が、今月末にあるんです! ご興味のある方は、ぜひこの後の展示会情報をチェックしてみてください。

(記者:カミュ)


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