ムムリク舎

感情と情景のある刺繍をテーマに、仄暗い世界で生きる不思議で不気味で美しいキャラクターた…

ムムリク舎

感情と情景のある刺繍をテーマに、仄暗い世界で生きる不思議で不気味で美しいキャラクターたちの刺繍ブローチの製作をしています。 それぞれが持つ物語・空気感を大切に。 作品紹介・制作のこと・日常のこと色々書いていきます。 minneにて作品の販売もしています。

マガジン

  • ココアシガレットのような日常

    ハンドメイドとは関係ないけれど、ちょっと語っておきたいぞという日々のことをエッセイの様に書いていきます。

  • 暗闇の世界に住む刺繍たちの物語

    ムムリク舎です。 ひとつひとつの刺繍ブローチが持つ、物語をまとめました。 手のひらにおさまる絵本の様に読んでいただけたら嬉しいです。

最近の記事

【小説】神様の実験(ある侍女の記録)

村と村との間にポツンとある家には気をつけて。たいてい悪い魔女や鬼がいて、取って食われて命をおとす。昔から絵本にもそう描いてあった。自分がその旅人になるなんて思いもよらなかったが。 私はある屋敷の侍女で、博物学者の家主の言いつけで、家主の持ちものをある人物に届ける為に旅に出たのであった。 私は木箱に入ったその持ち物を背負い、革のトランクを手に下げ、あまりの重さに、旅のためにと家主が用意したスーツ仕立てのドレスとコルセットはもう既に外したい衝動に駆られていた。 しかしこの長旅で

    • お買い物。仲間になった物たち。

      「Handmade MAKERS with minne by GMOペパボ」にてお買い物した物の紹介したいと思います。はじまりはじまり。 おしまい🐦 ミツロウラップが嵩張っていただけで、そんなに買ってない方かも💦DMCの刺繍枠は通販のみらしいので、これからネット購入してきますー。 ではではまた。楽しかった!

      • 3日間の祝祭

        楽しかった「Handmade MAKERS with minne by GMOペパボ」(日本ホビーショー)が終わってしまった!寂しっ! 楽しかった日々を忘れぬよう、淡々と書き綴ろうと思います。 「作品を気に入ってくださる方と会えた瞬間で、一気に自己肯定感が上がる」 ここ最近は、ネット販売のみだったので、正直、販売が伸び悩む月もあり。ちょっとお会いしたコンサルの先生に「ブローチにする必要性はありますか」「身の回りにブローチを付ける方は多い?」「他の選択肢は?」など言われてい

        • こんな素晴らしいショーは見たことがない

          「人は皆、風変わりで不気味なものに心惹かれる。だからつい見てしまう。」 そう、それこそが私の突き詰める本質のようなモノだと思った。 本当に今更ながらで申し訳ないが「グレイテスト・ショーマン」をやっと観た。 絶対に見るべき映画だったのになかなか見れなかったのは、映画がものすごい勢いでヒットし、舞台にもなり、少し気後れしてしまっていた。 私は学生の頃から、フリークスが好きだった。 念のために説明すると、フリークスは小人症で極端に背の低い人や、足が三本ある人や、身体がくっついて

        【小説】神様の実験(ある侍女の記録)

        マガジン

        • ココアシガレットのような日常
          3本
        • 暗闇の世界に住む刺繍たちの物語
          21本

        記事

          人々に歌を届けにゆく旅人

          どんよりと曇った暗い日曜日。フランドル地方の貧しい農村から美しい歌が聴こえてきた。 質素な服装の農夫や子供達が集まる。みな、手には日々働く為の道具を手にしたまま。その歌に聴き入った。 きらびやかでもなく、華やかでもない歌であったが、その旅人の歌は温かく優しく、貧しい生活ゆえ目の前も心も白黒だった農民達の視界が鮮やかに色づき、心が満たされる感覚になった。 その後、旅人は歌を人々に伝える旅を続け、村人たちに生きる希望を与えたという。

          人々に歌を届けにゆく旅人

          赤い蝋燭と人魚

          その人魚は女でありました。そして妊娠(みもち)でありました。 ・・・私たちは、もう長いあいだ、このさびしい、話をする者もない、北の青い海の中でくらしてきたのだから、もはや、明るい、にぎやかな国は望まないけれど、 これから生まれる子どもに、せめても、こんなかなしい、たよりない思いをさせたくないものだ・・・

          赤い蝋燭と人魚

          狂女ファナ

          スペイン王国を築き上げた王と女王との間に生まれたファナは女王自慢の娘でした。年頃になると、策略家の父の指示で、ブルゴーニュ公国の王子と結婚させられました。美しく気品のある夫をファナは愛し、夫に死が訪れた日に彼女の心が壊れました。 「夫は眠っているだけ。だから誰も近づいてはいけない。」 遺骸を棺に移し、従者を伴い数年間、死んでしまった夫と共に野を彷徨い続けたということです。 「ハプスブルグ家の絵画より」

          狂女ファナ

          黄金の雨とダナエ

          ダナエはアルゴス王の娘であった。 娘が生んだ子によって王が殺されるという神託が出たので、王は驚いて娘を地下室に閉じ込めた。 しかし、黄金の雨に変身したゼウスが部屋に忍びこみ、ダナエは妊娠して子どもを生んだ。 それが後の英雄ペルセウスである。 「ギリシャ神話より」

          黄金の雨とダナエ

          オフィーリア

          オフィーリアはその柳の枝にキンポウゲ、イラクサ、デージー、紫のランを添えた 風変わりな花冠を作りました。 オフィーリアは小川のほとりにはえた柳の枝に、作った花冠をかけようとして、 その枝にのぼったところ、その枝が折れ、川に落ちて溺れ死んでしまったのです。 溺れる彼女の顔には不幸せなど微塵もなく、讃美歌を歌いながら、人魚のように たゆたい、そして水にのまれていったそうです。 「ハムレットより」

          オフィーリア

          ユディト

          今、目を閉じてイメージする。 シーツに身を埋めて寝息を立てる男の首にナイフを突きつける・・・。 力を入れる。侍女の太い腕が怯える私の腕を上から押さえつける。 そして・・・ 「旧約聖書 ユディト記より」

          ある牛飼いの記録

          その夜、私たち夫婦は屋敷で飼われている 牝牛のお産のため 一晩、牛小屋で寝ずに付き添っていた。 夜が明けそうな時間についに牝牛は 一匹の仔牛を産んだ。 私たちは、疲労の中にも喜びを感じ 達成感を覚えた。 かわいい顔を見ようと妻が仔牛の顔を のぞき込むと突然、悲鳴を上げた。 仔牛はゆっくりと立ち上がった。 その顔はのっぺりとした人間の顔であった。 愕然としていると、仔牛は突然しゃべり出した。 「数日後この村は大火事で全滅するであろう。」 本当に短い予言であった。 その

          ある牛飼いの記録

          ある屋敷の侍女の記録

          深夜に目を覚ました私は、中庭に洗濯物が 干しっぱなしになっていることに気づいた。 奥様に気づかれないよう、 足音をたてずにそっと中庭へ出る。 見ると、ロープにかけられたベビードレスの傍に 大きな鳥が一羽とまっていた。 その不気味さはこの世のものとは 思えないものであった。 大きな紅い目玉と目が合った。 「この家に子供がいるな・・・よこせ」 喋った。驚き、動けないでいると 「いつか奪いに来るからな・・・」 と言い飛び立った。 家主へそのことを伝えると 数日のうちにこの

          ある屋敷の侍女の記録

          ある日の通学路で

          子供の頃、学校への通学路は薄暗い森の中だった。 不気味な程、背の高いモミの木たちが怖くて 友達と急いで走り抜けた。 ある日、森にオバケが出るという噂がたった。 紫色のドレスを着て森を彷徨う女で、 その顔は紫の花の形をしているという。 私と友達は更に怖くなり、全速力で森を駆け抜けた。 その時、私は木の根につまづいて転んでしまった。 「早く!」叫ぶ友達を見上げると、私の目の端に 紫色のオーガンジーの裾がヒラリと舞った。 はっと、そちらに顔を向けるともう誰も居なかった。

          ある日の通学路で

          裏庭の窓から

          私が子供の頃、裏庭に面した薄暗い部屋に ひとりの少女が閉じ込められていた。 少女はいつも窓に額をくっつけて 裏庭で遊ぶ私の様子を眺めていたように思う。 その部屋の扉に近づくことは父親にきつく 禁止されていたので 私はこっそりと、薄くあいた窓から 少女がか細い声で歌う きれいな歌を聞いたり、 キラキラ光る包み紙にくるまれた 上等なキャンディーを窓の隙間から 少女へあげたりしていた。 ある夜、父と母がひどいケンカをした翌日 あの部屋の扉が開いており、 母と少女の首だけが姿

          裏庭の窓から

          おかんアートをめぐる冒険

          ここで「おかんアート」なのである。 おかんアートとは、昭和の頃の母たちが物の少ない時代に家庭の経済的負担にならぬ材料費で楽しく可愛く生活に花を添える手芸を家事の合間に作っていた。私の個人的な見解だと、こんな説明なんだけど、本当のとこはどうなんですかね。皆さんいろいろな視点があると思うし、当の本人からしたら、またまたいろいろな意見が出そうであるなぁ。 私の母ももちろん「おかんアート」をめちゃくちゃ楽しんでいた1人であった。 まず私の家庭環境だが、私の家は父が勤めていた大学の関

          おかんアートをめぐる冒険

          静かなる破天荒

          これは私が名付けた父の通り名だ。 いや、実際には私しか知らないだろうから、通り名というものでもないのだが。 数日前に父が他界した。 破天荒であるからもちろん病院は嫌いであった。 数日前から「腰が痛い」と言っており、ある時に突然「救急車を呼んでくれ」と言った。 病院で調べてみると胃に穴が空いていて中の物が漏れているので、即手術ですということ。 父は破天荒の上に「隠す男」なのである。 病院に行きたくないので体調が悪いことも隠すし、タバコや酒を隠れて飲む。胃の調子が良くなかった時

          静かなる破天荒