見出し画像

日本人の国民性 「楽をする」の危うさ

このような話を聞き「目からウロコ」の逆で、ある意味「目の前が真っ暗」になりました。このような分かり易いようで分かりづらい話です。

「パソコンでできることはタブレットでできる。タブレットでできることはスマホでできる。だから若者はパソコンを必要としない」

三段論法のようでありながら釈然とはしない「論理」です。そこで中学校や高校でどのくらいパソコンを使っているかを検索したところ、驚くべき調査結果を見つけることができました。

ベネッセ総合教育研究所 授業中でのパソコン利用状況
「あなたは学校で、パソコンをどれくらい使いますか」という設問に対し、「授業中に使う」場合の利用頻度を示している。このうち「ほとんど使わない」と、あまり利用頻度が高くない「月に1日くらい」を選択した割合をあわせると、小学生で64.4%、中学生で68.8%、高校生で55.9%となり、いずれの学校段階でも大きな割合を占めている。
<引用終了>

再計算が容易にできる表計算ソフトExcelや箇条書きなどを使い文書を作成できるWordなどの機能に、現在の小中高生が触れることなく、あるいはその利便性、必要性を知ることなく成人になるのでしょうか。

表計算ソフトや文書作成ソフトは、限りなく「思考の道具」に近いものであり、例えばIF関数や箇条書きが頭にインプットされているだけで、自身の思考回路で思考を組み立て、表現力をも高められます。

日本政府はICT教育のために生徒一人に一台のタブレットを与えるとしていますが、そのことが筆者の主張である「楽をすると人の力を低下させる」、そして「同調思考がさらに高まり権力者に従服するようになる」につながらないか、心配でしかたありません。

ディズニー・テーマパークでは、敢えて楽をさせない仕組みが構築されています。

『「すべてのゲストがVIP」ディズニーランドで教えるホスピタリティ』より
■全自動は安全の敵?

「人間は限りなく楽な方向を望む。ボタン一つの操作ですべてを解決できる仕組みを望む。そしてそれは人の力を低下させることにつながる」

「楽をすることにより得るもの」と「楽をすることにより失うもの」。その大きさをしっかり認識しなくてはいけないということです。

 私はこの原理原則を理解して初めて、ディズニーのすべての作業手順が「楽でない」「意識的に苦労させる」ようできていることに気付きました。その時に、自分が働いている場所はただのすごさではない。めちゃくちゃすごいということを実感したのです。

 ジェットコースタータイプのアトラクションでは、いわゆる「全自動」で制御システムを立ち上げていくことが可能です。パソコンのスイッチを入れるだけで利用するアプリケーションが立ち上がっていくことと同じです。この方式を使えば、数分でコースターの運転が可能になります。キャストも必要としません。

 このようにメリットが多いにもかかわらず、通常時間帯の運営では決してこの方式を用いません。二〇分を費やそうが、キャストを五人必要としようが、必ず「標準手順」通りに立ち上げていきます。軌道切替ポイントに異常がないか、実際に目で確認しコントロールセンターに報告するキャスト、一方でその報告を受け、センター内の制御システムに指令を入力するキャスト。相互確認により作業を一つ一つ進めていくのです。

 安全を最優先させているからこそ、あえて現場で問題を見付け出す、このプロセスを重要視するのです。例えばコンピューターの立ち上げ時にパスワードを入力しないことは、危険なことではないでしょうか。「全自動は安全の敵」。少なくともディズニーランドはそう考えています。

あとがき
「楽しい」の「楽」、「楽をする」の「楽」、どちらも人間にとって必要な「楽」です。楽をすることが楽しいかという意地悪な質問はさておき、私たち日本人は、この何十年、この「楽」を得たいがために、何か大切なものを失ってきてしまったのではないでしょうか。景観、安全、信頼、正義、それとも創り出す力、伝える力、疑ってみる力、人を育てる力でしょうか。あるいは、個人や国のアイデンティティでしょうか。

 私には、ディズニーランドには、日本社会が失ってきた何かが、今でも存在するように思えてなりません。
<終了>

デジタル後進国と言われる日本、これからの時代を担う若者一人ひとりが「スマホがあれば何でもできる、パソコンは必要としない」と考えるとするなら、この国には未来を構築する力が完全になくなる、そうならないよう祈るばかりです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?