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液体日記 9月○日 M1に挑戦2

さて当日。
ヒロこてんが衣装を持って来てくれて、私の家で着替えます。
3時間ほどみっちり練習をして、会場に向かいました。

本番の会場は新宿にあるスペース。私の家からは目と鼻の先で歩いて10分ほどで着くことができました。大阪から来たヒロこてんからは、新宿で全てが済むなぁと笑いながら言ってくれましたが、ここから私のお店の星男にも10分ほどで行けるので確かにその通りでした。イッツアスモールワールド。

会場では、楽屋がなく沢山の芸人さんたちが通路で待機しています。
私たちの前に出場する男性二人の芸人さんがヒロこてんに話しかけてきました。
私たちが初めて出場することを話しているのが聞こえます。男性二人は、今まで居酒屋でお酒を飲んでいて、そのまま出場すると言っておりました。
ネタもその場で考えるとのこと。勇気ありますね。私たちは、一つ間違えると何が何だかわからなくなる気がして、流れを覚えるのに必死でした。
「彼は、元モデルなんですよ〜」とヒロこてん。
「あははは、まさか〜」と笑う二人。ボケではありませんでしたが、昔の私を全く知られていないのは、清々しい気持ちです。
人は当たり前に歳を重ねて、何者かに思われていた自分も、何者でもなく、ただそこに存在する人間だったという感じ。

本番が近づいたある日、ゴールデン街で飲んでいて私がM1に挑戦することを話していると、隣にいた20代の男性が私に話しかけてくれました。
「僕も芸人やってるんです。予選、受かりました!頑張ってくださいね!」
とても気持ち良く応援してくれた青年は、私よりももちろん年下なのですが私よりもお笑いを長くやっている先輩です。若い先輩が現れたことに新鮮な嬉しさを覚え、お笑いについて彼から色々とお話を聞いていました。段々と、自分があらゆるところで年上になることが増えていき、偉そうにしたくないのにそんな気分がしてくる自分につまらなさも感じていたので、この状況は自分にとってとても刺激的な出来事だった。

会場には、私たちのプロデューサーFさん、星男のスタッフをやってくれているくるみちゃん、版画家のサリーちゃんが観に来てくれました。初めてのお笑いの本番を観てもらうのは恥ずかしかったのですが、すごく嬉しく心強かった。

前のコンビがそろそろ終わる。ステージの横で私たちは見守っていました。
本当にお酒を飲んでる時と同じようなテンションでのネタ。色々なコンビがいるんだなぁと思う。その前に出場した3人組は、プロでやっているようで会場からも笑いが起こっているのが聞こえてきます。さっきまで普通にしていたのに、ステージに入った途端にお笑いの顔になっていた。人を笑わそうとしている。人が笑うってなんなんだろう。笑われるのではなく、笑わすということ。ネタを考えていても、何に人が笑うのか?ということは全くわからなかった。なんで笑うんだろう。
小学校1年生の時、音楽の時間で歌を歌いながら保育園でやっていたのと同じように踊りをつけて歌っていたら、みんなに笑われたことがあった。今までそうしなさいと言われてきたのに、小学校に入った途端に歌と踊りが別になるのが不思議だった。先生は、びっくりしながらもそのままでいいと言ってくれましたが歌うときに手をつけて踊っていた癖が抜けなくて、しばらくそうしていましたがそのうち踊らなくなりました。
皆んなから、はみ出ると笑いが起きた。

私たちのネタは全くと言っていいほど笑いは起こらず、会場はシンとした静寂に包まれました。何度か噛んで、セリフも間違えてしまいましたが、スタンドマイクが離れている声でもよくすくって、声が会場に広がっていくのに心地よさを感じました。リハはなく、2分間だけの本番のみ。この本番に人生をかけている人がいる。
そこにいるだけで、これまでの芸人たちが2分間にかけてきた思いを感じる。
終わった後に不思議な爽快感があり、この経験を知れて良かったと思いました。
結果は予選敗退。結果は当たり前だと思うけど、観に来てくれた皆んなから良かったよと言ってもらえて、私の今年の夏の挑戦は終わりました。

不思議な魔力がステージにはあって、今日も人生かけて人を笑わそうとしている人がいる。笑いのことは、まだよくわからないけど来年もまた挑戦しようと思いました。


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