新規ドキュメント_2017-10-30_97

息子の目から見る世界は、今日も平和で冒険に溢れているんだろうな

 今日はいいお天気だったので、ひさしぶりに息子とお散歩に行った。最近はずっと寒くて家にこもっていたので、「お外あそびにいく?」と聞くやいなや、息子は喜び勇んで玄関に飛んで行った。

 娘を抱っこ紐に入れて息子に上着を着せて玄関から出ると、息子はすぐに落ちている石を拾って私に渡してきた。10個ほど石を拾って家の前のコンクリートに並べ、今度は近くの川に向かってダッシュし始めた。

 「ギリギリまで行くと危ないよ〜」と声をかけながら、私もぴったり息子にくっついて走った。息子と川沿いを走り、橋を渡る。「あ!じぇじぇじぇ!」と走る車を指差しながら息子が叫ぶ。じぇじぇじぇとは息子語で車のことだ。急に走りだそうとする息子を必死でなだめつつ手をつないで道路を横断すると、米屋さんがある。この店の前を何度も通ったことがあるが、一度も中に入ったことはない。

 息子は店内が気になるようで、ガラス戸ごしに中を見た。すると中から店主が外に出てきて「ぼく中が気になるの?今日はあったかいねえ」と話しかけてきてくれた。注目されて嬉しかったのか、息子はその場で何度も何度もジャンプする。

 すこし立ち話していると、今度は家から店主の奥さんと思しき人が出てきた。「あら〜、可愛らしい子がいる!小さいので良かったら大根もってく?ちょっと待ってて」と奥へ行こうとすると、すかさず息子が追いかけていく。

 「あ、だめだよ!そこは人のおうちだから勝手に入らないでね 〜」と慌てて息子を止めたが、奥さんは「いいよ、一緒に畑に取りに行こう!」と私たちを招いてくれた。

 奥さんの後についていくと、家の裏に畑があり、いろいろな野菜がなっていた。「今年は小さいのしかできなくてごめんね」と言いながら大根をその場で2本抜いてくれた。「ぼくもやってみる?これ引っ張ってごらん」と息子にも大根を抜かせてくれた。

 「この根元を持って。そうそう。で、ひっぱってごらん」

 奥さんの力を借りて、息子は生まれて初めて大根を抜いた。息子はすごく嬉しそうな、誇らしそうな顔をして私に大根を見せてくれた。

 その後も息子は店主のお宅の庭にある水瓶に張った氷で遊んだり、松の古葉とりをしたり、玉砂利を拾ったり、古井戸のポンプに触ったりと初めての体験をたくさんさせてもらった。なんでも店主のお宅は先祖代々数百年前からこの地に住んでいるのだそうだ。

 散々遊ばせていただき、「じゃあそろそろお昼だから大根もって帰ろうか」と帰路につく時も、奥さんは「またいつでもおいで〜!」と道路の前まで見送ってくださった。

 私は「なんだかおじいちゃんとおばあちゃんが増えたみたいだな」と嬉しく思いつつ、息子と手をつないでまた橋を渡った。

 橋を渡っていると、川からバケツで水をくんでいる人が見えた。もちろん息子はピャーと近づいていき、バケツを覗き込む。作業服を着たその人は、息子を見ると「気になる?」と話かけてきた。

 「すみません、お仕事の邪魔をしてしまって」

 「いや、大丈夫ですよ」

 そう言うと作業服のお兄さんはバケツを両手に持って我が家もある住宅地に向かって歩き出した。息子は興味津々でお兄さんの後についていく。こうなると、いくら帰ろうといっても息子は全く聞かない。仕方なく私は大根を持ったまま息子にぴったりくっついて邪魔をしないように目を光らせた。

 「すみません、ここにいても大丈夫ですか?」と聞くと、「大丈夫ですよ。興味あるんだね」とお兄さん。そして住宅地の真ん中でバケツの水を道路にまいた。バシャーと水が道路に広がっていく様子をみて、息子は「わああ」と歓声をあげる。それを見てお兄さんはハハハと笑うと、もう一つのバケツの水も道路にまいた。多分水はけを見ているんだと思う。

 2歳の男児が水浸しの道路を見つけたらやることは決まっている。息子は迷わず水溜りに入ってジャンプし始めた。うわ〜、靴もズボンもビショビショ。しかも絶対仕事の邪魔になってる。

 「本当すみません!ほら、お仕事してるからお家帰ろう?」と息子を家のほうに促すが、全然動かない。

 「いや、全然大丈夫ですよ。2歳なんですか。しっかりしてますね」

 お兄さんがまた川に水を汲みに行くと、今度はもう一人作業着のお兄さんが現れ、今度は道路をメジャーで測りながら白いスプレーで印をつけはじめた。息子はその後をジャンプしながらついていく。お兄さんはそれを見てニコニコしている。

 「ほら公園行こうよ。お兄さんはお仕事してるから」となんとか住宅地内の公園に連れて行き、地面に丸を書いてケンケンパをしたり、シーソーや滑り台で遊んだ。…が、息子が少し公園から出たときに、作業服のお兄さんたちが川に向かって歩いているのを見つけてしまった。

 息子はお兄さんたちに気付くとすぐに駆け出した。お兄さんたちも息子に気づき、ニコニコしながら何度も振り返る。息子は追いつくと、2人の真ん中に割って入って歩き出した。両側でお兄さんたちが笑っている。

その時に「ああ、世界は平和だな」と思った。

世界ではいろんなことが起きているけれど、少なくとも息子の世界は今日も平和なのだ。そして、冒険に溢れているのだ。

実はこれは全て、たった1時間くらいの出来事である。私はこのあと何とか息子の機嫌をとりながら家に帰ることに成功し、全身着替えさせて洗濯物を回し、ご飯を食べさせて昼寝させた。

そして、これを書いている。今日の夕食は大根の煮物の予定だ。

なんでもない普通の日だけど、なんだかすごく幸せな気分だ。

この記事で心に感じるものがあったら、サポートしていただけると嬉しいです。