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ホルモン料理とスクラム

歴史に残るスクラムだった。
後半40分すぎていた。
スクラムを押した。
トライは松島幸太朗だが、
あれはスクラムのトライだった。
けど、プロップもフッカーも、そんなこといわない。
稲垣啓太も堀江翔太もイシエリ中島も、
あれはスクラムが良かったから、
あれはスクラムを押したから、
なんて、ケチなことはいわない。

当たり前に押しただけだ、と。

後半、なんとなくやな感じだった。
メディアは、ここ何日か「ボーナスポイント」を喧伝していた。
ボーナスポイントがとれなければ、
決勝トーナメントに行けない、みたいに。

たしかに、前回大会は3勝して、
それでもポイント差で決勝トーナメントには行けなかった。
3勝したチームが予選敗退という、
ワールドカップ史上初めての椿事となった。

それもあってか、
たとえサモアに勝って3勝しても、
ことによってはまた予選敗退、とか、
4勝してもポイントが足りなければ行けないかもししれないとか、
ビックカメラでお買い物じゃないんだから。
ボーナスポイントをよく考えろとか、
スマホ決済じゃないんだから。
でも、ニワカの私にはホントに聞こえる
「3勝してもダメ」呪縛。

試合前がそんな感じだったし、
実際に思ったほどトライがとれないし、
点数的には勝ってるのに、
なんかボーナスポイント獲れないと負けも同じみたいに
じめじめした雰囲気になって(テレビ観戦だけど)、
72分ごろにはトライとられて、
26-19になったときには、
「おいおい負けちゃうのか?」
みたいなことを思い始める人もたくさんいただろう。

ところがである。
サモアゴール前からラインアウト、
モールで押し込んで、
押して押して押して押して、
押して押して押して押して、
押して押して押して押して。

けっきょくボールが出せずに、
サモアボールのスクラム。
79分。

終わったと思ったでしょ?

わたしは思わなかった。
わたしには見えていった。
サモアのスクラムハーフがボールを入れ、
稲垣啓太、堀江翔太、イシエリ中島が押す、
押して押して押して押して、
押して押して押して押して、
ぐらいで、
スクラムはボールをそこにおいたまま進み、
ジャパンのボールになり、
そこから押して押して押して押して、
押して押して押して押して、
押して押して押して押して、
押して押して押して押して、

スクラムトライ!

この光景が、わたしには見えていた。

現実はどうだったか。

サモアボールのスクラムは、
サモアのスクラムハーフが焦って反則を犯し、
ジャパンにフリーキック。

わたしには見えていた。
当然、スクラムを選択する。
フリーキックだから、ほかの選択肢もあるが、
迷わずスクラムを選ぶだろう、と。

はたして、スクラムを選んだ。
当然だ。
スクラムトライしかない。

スクラムトライしかない。
当然だ。
こんだけ強いスクラムである。
アイルランドにさえ押し込んだ
稲垣啓太、堀江翔太、イシエリ中島である。

スクラムを組む直前の堀江の顔を、
カメラは写していた。
気負ってるわけでも微笑んでるわけでもない。
疲れも見せていない。
ヒタイをちょっと切ってはいるものの、
拭うこともなく、そのまま、
腕を組み、ヒザを落とし、アタマを押し込み、
スクラムを組んだ。

はたして、押し込んだ。
スクラムが動き出した。
ナンバー8、スクラムの一番にいる姫野和樹が不穏な動きをしている。

おい!まさか!
おまえ、地元だからって!

はたして、姫野はボールを持ってサイドアタックをしかけた。
……いらんことしやがって……。

大方の予想通り、
ラックから素早く出たボールは松島まで素早く渡り、
フェラーリ幸太朗はインゴールに飛び込んだ。

あれは違う、あれはスクラムの……
と思ったわたしは、
トライ後の稲垣啓太、堀江翔太、イシエリ中島の表情を見て、
あれはスクラムのトライだと思った自分を恥じた。

なんと爽やかな表情なんだろう。
秋の風がそよそよとそよいでいるような、
そんな涼し気な表情をしていた。

彼らにとってのミッションは、
スクラムを押すことであり、
世界中のどのチームのスクラムにも負けないことであり、
スクラムトライは、そのミッションの先の、結果のひとつに過ぎない。
そのことが、見事に表情に出ていた稲垣啓太、堀江翔太、イシエリ中島であった。

思えば、かつてスクラムはホルモン料理だった。
プロップはゾウモツだった。
ぐにゃっとしてて形がキモく、ちょっとクセのあるホルモン。
いらないものなんだけど、まあ味付けして食うたろか。

デブっとしてて顔がキモく、ちょっとニオイのあるプロップ。
ほかの大きいのとまぜて、なんかやらせとこ。
スクラム組んでるときはバックスは休憩だ。
なにやってんのかわかんないけど、
なるべく長く、スクラム組んどいて。

そのむかし、日本代表スクラムコーチ長谷川慎の親族をして、
「スクラムがなければラグビーわかりやすいのにね」
といわしめたこともあった。

それがどうだ!
いまや、スクラムなくして勝利なし。
スクラムなくしてラグビーなし。
スクラムこそがラグビーである。

日本代表は、ここまでスクラムの地位を高めた。
ノーベル賞ものである。
国民栄誉賞である。
スクラムを小学校から学ばせるべきである。

英語より先に、スクラムを学ばせよ!

あ〜〜〜、うれしい!