岩田松雄さん

「普段の言葉の中にその会社の価値が出る」

昨日の大隈塾は、元スタバのCEO岩田松雄さんだった。
『ミッション』という著作を底本に、
「ミッションを言語化しよう」という到達目標をたてて授業をつくった。
自分のミッションはなにか、を言葉にするのが、
この授業の目標だった。

岩田さんは、自身で「つかみ」といっていたが、
日本には資源がないこと、エネルギーで苦労していること、
エネルギーは常に戦争の火種になりうる、と語り始めた。

しかし、日本海溝には世界有数のレアメタルが埋蔵されている、
20年しないうちに自然エネルギーがメインになる、
日本の科学技術の研究分野での優位性、
などをあげて、明るい展望を学生たちに示してから、
メインの「ミッション」について講義し、
最後、三段構成「序破急」の「急」の部分で、
スターバックスについて語った。

すでにCEOを辞めているからもあるだろうが、
でもまあ普通に考えて、スタバってどんな会社なのか、
会社紹介から入るのが「つかみ」としては定番だろう。
(そういえば、自己紹介もすっとばしていた)

ミッションの話も興味深かったのだが、
このスタバの段になってからポロッとでた
「普段の言葉の中にその会社の価値が出る」
というフレーズがわたしに突き刺さった。

突き刺さったから、心の中でわーわー興奮しながら、
思いつく限りのことをメモし始めたので、
岩田さんがなんていっていたのか内容は覚えていないが、
おそらく、

・社員、アルバイト、役員すら互いに「パートナー」と呼ぶ
・店舗では「いらっしゃいませ」じゃなく「こんにちは」で客を迎える

ってなことをお話されてたんじゃないかと思う。

なぜわたしがわーわー興奮したかというと、
「普段の言葉の中にその会社の価値が出る」
その通り! 大隈塾で大切にしてきたことを言語化できた!
と思ったから(言語化してくれたのは岩田さんだけど)。

興奮して書き留めたのは、
「講義」「学生」「SA」

受講生たちには毎回講義後の感想文を提出させるが、
「今日の講演は」とか、「岩田さんの講演は」とか
「講演」と書いてくる。

対して、すぐに「講演じゃなくて、講義」と訂正を求める。
なぜなら、講演のように、
ざっくりとした、たとえば、
「日本経済のこれからについて」
とか、
「AIで世の中はどう変わるのか」
とか、どうでもいいようなテーマではなく、
「センセイ、お好きなようにお話ください」
とか、自主性自立性もないような姿勢じゃなく、

テーマ、内容、時間、到達目標、
こちらの要望を伝え、ゲスト講師と摺り合せた上での、
金曜日5限6限180分である。

もちろん、うまくいかない講義もあるが、
時間をかけて、議論しながら、
ときには怒鳴り合いながら準備しない回はない。
講演と呼ばれるのは、心底腹が立つ。

学生たちは、自分たちのことを「生徒」という。
無自覚すぎて、これもすぐに訂正を求める。

日本の学制では、
幼稚園:園児→小学校:児童→中学校・高校:生徒→大学:学生
である。
高校までは知識やいろいろを与えられ、教えられ、受け手の側なので
児童であり生徒である。
勉強させられているのが、生徒である。

大学に入ったら、勉強ではなく学習である。
自分から学ぶのである。
自分から調べて、考えて、書いて、しゃべって、
受け手ではなく、依存している存在ではなく、
自立した存在、すくなくとも学ぶ立場としては独立しているはずなのだ。

そうした自覚がなく、自分のことを「生徒」と表現するから腹が立つ。

SAは、Student Assistantである。
早稲田大学では、授業を手伝ってくれる学生アシスタントのことを
TA Teaching Assistantと役職を設定している。

大隈塾では、teachしないのである。
知識を教え込まないのである。
教員(わたし)はもちろん、ゲスト講師もteachするのではなく、
学生たちに、考える、気がつく、行動を起こすヒントを提示する。
教え込むのではなく、学生の中から引っ張り出す。
あえていうと、teachではなくcoachである。

teachしないからTAはありえないし、
学生たちが自立して学ぶ講義だから、
主役は受講生で、受講生の学びのアシストする学生だから、
SAなのである。

SAは、立教大学のBLP(Business Leadership Program)で
学生主体のカリキュラムを学んだときに、
BLPがSAと呼んでいたので、早稲田大学大隈塾でもSAと呼ぶことにした。
BLPさん、ありがとうございます。

講義、学生、SA、
もうひとつ書こうとして、ぴたっとペンが止まった。

大隈塾を受講している学生たちの呼び方がない。
受講生たちのことをどう呼ぶか、考えてなかった。
主役なのに。

これはしたり、と。
「普段の言葉の中にその会社の価値が出る」
に興奮した鼻息は、やがてため息にかわった。
まだまだだ。