映画『イノセンス』を語りたい

ひかる「どうもみなさんこんにちは。ひかるです」

ひかる「今回も映画のお話です。作品は『イノセンス』。かの有名な攻殻機動隊のアニメ映画でもあり、世界的にも名高い『ゴースト・イン・ザ・シェル』の続編作品でもあります」

ひかる「僕はこの『イノセンス』がめっぽう好きで、AmazonPrimeVideoで何回も見てます。現在はプライム会員だったら見放題なので、まだ見たことない人はぜひ……と言いたいのですが……前述の通り、この作品は『ゴースト・イン・ザ・シェル』の続編でもあるので、そっちを先に見ていただきたいかも」

     AmazonPrime : イノセンス

ウバ「わたしは『ゴースト・イン・ザ・シェル』の方が好きかな」

ひかる「お、ウバさん、今回もよろしくお願いします」

ひかる「あと、今回も『ゴースト・イン・ザ・シェル』と『イノセンス』のネタバレを含みます! ご注意を!」

ウバ「『イノセンス』は映像がキレイだけど、なんか話が難しくて途中でついていけなくなるんだよね」

ひかる「そういうご意見多いですよね。かく言う僕もそうでした。でもこの作品は不思議な魅力があるんですよね。今回はその魅力をちょこっとご紹介」

ひかる「で、さっそくあらすじから……って、この作品ってあらすじから説明するのが難しいんですよね……世界観が作り込まれているので……僕の拙い説明聞くよりもWikipedia見た方が良いかも」

ウバ「ちょっと、そんな解説者いる?w 少しは頑張ってよw」

ひかる「うーん、そうだな……じゃあ、あえて前作『ゴースト・イン・ザ・シェル』の冒頭の一文を引用するね。これも有名だから」

企業のネットが星を被い
電子や光が駆け巡っても
国家や民族が消えてなくなるほど
情報化されていない近未来――

『ゴースト・イン・ザ・シェル』冒頭より

ひかる「の話です」

ウバ「いや全然わからないから」

ひかる「でもこの一文が結構重要なんだよね」

ウバ「いやいや情報少なすぎ。だからさ、前作も『イノセンス』も近未来の話なんでしょ。人間の脳みそが『電脳』っていう電子デバイスと化していて、いつどこにいてもネットに繋がれる、とか。あと体の一部をサイボーグ化することを義体化って言ったり。で、『公安九課』っていう、総理大臣直轄の対テロ組織である、通称『攻殻機動隊』のリーダーである草薙素子が、前作の主人公なんだよね。この人は全身義体で、つまり体が全部サイボーグで、元の生身の体はとっくの昔になくなっているんだよ。九課のみんなからは『少佐』って呼ばれてる。少佐は凄腕のハッカーでありながら電子情報戦のプロで、前作では『人形使い』と呼ばれる特A級ハッカーを巡って戦いを繰り広げた。これが『ゴースト・イン・ザ・シェル』のあらすじね」

ひかる「いやー、さすがウバさん、映画の話となると饒舌ですね」

ウバ「人にしゃべらせてないであなたも話してよ……」

ひかる「そうだね。で、ウバさんの話を引き継ぐと、前作ではその『草薙素子』が主人公だったんだけど、『イノセンス』では、彼女の相棒とも言うべき巨漢の男『バトー』が主人公なんだよね。バトーは少佐のことが色んな意味で好きだったんだけど、前作で少佐が姿を消して以来、どこか元気をなくしてる。映画でもアニメでもこのバトーさんはすごく人気だし、僕も好き。ちなみに『攻殻機動隊 バトー』で検索すると、目にペットボトルのキャップをつけたごついおっさんが出てくる。この目は彼が軍隊にいたときの名残で、例によってバトーもサイボーグなんだけど、この目のおかげで普通よりも多くの情報を視界から得ることができるらしい。ちなみに、アニメからの情報によると、この目は夜眠る前に外して寝るらしい……恐ろしい……」

ひかる「話を戻すと、『イノセンス』ではこのバトーが、愛玩ロボットである『ハダリ(Hadaly)』が人間を襲う『ハダリ暴走事件』を追うのがメインストリーです」

ウバ「あらすじはそれくらいにして、そろそろこの映画の解説をしてよ。わたしはあんまりハマらなかったから、どこにハマりポイントがあるのか気になるよ」

ひかる「オッケーオッケー。それじゃあそろそろ解説に移ろうか。まあ、僕がこの作品を好きな理由は、映像のキレイさとか作品の雰囲気、緊張感のある銃撃戦にあるんだよね。では作品の根幹にあるメインテーマはどうかというと……実は僕もやはりしっくり来ていないんだ」

ウバ「だよねー。ていうか、わたしの場合、あんまり何がメインテーマなのかもわかっていないし」

ひかる「そうだね。まずその整理をしようか。実はこの作品にはテーマが3つある。だからややこしい。1つ目はさっきも言ったけど、『愛玩ロボットハダリ暴走事件』。人間に仕えるはずのロボットが人間を襲うという恐ろしい事件だね。2つ目は『バトーの孤独』。前作で相棒だった少佐がいなくなり、今作では寂しげかつ少々自暴自棄に日々を送る彼の姿が描かれる。3つ目は、これが中心となるテーマなんだけど、『人間と人形との間にどれほどの差があるのか』。この3つ目がとくに難しい。というのも、攻殻機動隊の世界を生きていない僕たちには理解が及び難い考えだから」

ウバ「3つもテーマがあるからわかりにくいんだね」

ひかる「実はウバさんが好きな『ゴースト・イン・ザ・シェル』もテーマが複数あるんだよね」

ウバ「あ、そうなの? 一つは『人形使い事件』でしょ?」

ひかる「そうそう。わかりやすいよね。もう一個はわかる?」

ウバ「うーん……」

ひかる「もう一個は『アイデンティティ』だね」

ウバ「そうなの? アイデンティティって……なんかよくわかんない言葉だけど」

ひかる「自分が自分であり、自分があなたや彼ではない理由のことだね。まー難しいよね。で、攻殻機動隊の世界だと、このアイデンティティに自我とか魂っていう意味も込めて『ゴースト』って呼んでる」

 ウバ「あー、だから『ゴースト・イン・ザ・シェル』なんだね」

ひかる「そう。で、この話までしだすと長くなるからそろそろこれくらいにしとくけど、『イノセンス』は3つもテーマがある上に、3つ目のテーマが激ムズなんだよね。他2つのテーマはそれほど複雑でないし、TV版でもこれくらいの回がたまにあったりするんだけどね」

ウバ「3つ目は、えーと、『人間と人形の違い』だっけ?」

ひかる「そう。映画の前半でも、偏屈な女研究者である『ハラウェイ』博士が出てきて、色々と講釈を垂れるシーンがあるんだけど、その内容は主に『人間と人形って似たようなもんじゃね?』ってことなんだよね。それを理屈っぽく述べているだけなんだけど」

ウバ「うーん。なんかいまいちピンと来ないよ……」

ひかる「そう。ていうか、多分この映画を見ている人のほとんどがここで脱落するし、僕も最初そうだった。は?ってなるよね。で、印象的なのが、バトーさんがこのハラウェイ博士の講釈を黙って耳を傾けているのに対し、彼の新しい相棒であるトグサは面倒そうに聞いているんだよね。さて、ウバさん。トグサとバトーさんの大きな違いはなんでしょう?」

ウバ「えーと……トグサくんは奥さんと子供がいる? けどバトーさんは独身」

ひかる「そうだけど、もっと大きな違いは?」

ウバ「……あー、トグサくんは生身なんだよね。一切義体化してないんだ」

ひかる「そうそう。公安九課でも珍しい生粋の生身だね。他には荒巻課長もそうだけど」

ウバ「この違いがどう関係してきているの?」

ひかる「生身か義体か、というのはすごく大事な要素なんだ。これには前作も関わってくる。ここで思い出してほしいんだけど、『ゴースト・イン・ザ・シェル』では『アイデンティティ』がテーマだったね? で、主人公の草薙素子は、端的に言うと『アイデンティティの喪失』に苦しんでいた。公安九課の他の誰よりもね」

ウバ「確か『人形使い事件』あたりで気難しくなっちゃったんだよね」

ひかる「そうそう。正確には、『人形遣い』によって記憶を改ざんされたゴミ清掃業者の姿を見てからだね。それ以降、なんか様子がおかしくなったみたい。相棒のバトーさんが少佐の異変に気づいて、荒牧課長に報告してたんだけど、課長に伝わってなかったみたい」

ウバ「なんで少佐は気難しくなっちゃったの? アイデンティティが関わってくるの?」

ひかる「私が私である理由を担保するのは記憶なんだよ」

ウバ「いやいや難しいよ」

ひかる「例えばさ、もう現代文とか哲学の授業みたいになるけど、僕が僕である理由は僕自身の記憶なんだよ。親に育てられた思い出や、友達と遊んだ記憶、好きな食べ物の匂いや、学校の帰り道に見た夕日の景色とか……」

ウバ「うん」

ひかる「攻殻機動隊の世界では、他人の電脳をハッキングすることで、その人の記憶を簡単に作り変えることができてしまう。つまり他人のアイデンティティをいともたやすく塗り替えてしまうことができるわけ」

ウバ「うん、そこまではわかるよ。でもさ、少佐だってやろうと思えばできるんでしょ? だって少佐も凄腕のハッカーなんだから。どうして急に悩んじゃったの?」

ひかる「バトーさんによると、ゴミ清掃業者の一件以来ちょっとウツっぽくなっちゃったらしいから、その事件をきっかけに色々考え込んでしまったんじゃないかな。で、なんで考え込んでしまったのかと言うと、少佐自身のアイデンティティを担保するものって、本当に記憶しかないんだよ」

ウバ「それは……さっきあなたが言った通りじゃん。誰でもそうなんでしょ?」

ひかる「ところがね、僕のアイデンティティを保っているのは、記憶以外にもこの肉体があるんだ。って……『イノセンス』の解説からだいぶ離れちゃったな……まあいいや。つまりさ、心と体って簡単に2つに割り切ることはできなくて、一心同体って言葉もある通り、この肉体も自分というものを維持するのに必要なんだよ。めっちゃ暴論だけど、ある日ウバさんが男になっちゃったらどうする?」

ウバ「え? 男に? ……えー、記憶はそのままなんだよね?」

ひかる「そう」

ウバ「めっちゃ嫌だけど……イケメンになってたら、なんか合コンとかナンパしてみたいなー。俳優とかデビューしたいかも。イケメンじゃなかったら……男の人の遊びとかやってみたいかも。今はあんまり思いつかないけど。スポーツとか」

ひかる「……結構予想外な答えだな……でさ、ウバさんは心がそのままなのに、体が男になった途端、今の自分ならできないこと・やろうと思わないことをしようとしてみるわけでしょ? これってウバさんのアイデンティティが変化したと思わない?」

ウバ「まー、そう思えなくもないかな」

ひかる「つまり僕が言いたいのは、アイデンティティを担保するのは心と肉体ってわけ。で、話がだいぶ逸れたけど、少佐はずっと前から全身義体で、とうの昔に生身を捨てているわけ。アニメ版だと子供の頃から全身義体だったらしいけど、映画版だと特に明記されてなかったな。だからさ、少佐にとって、自分というものを強固に担保してくれるものは何もないってこと」

ウバ「なるほどね」

ひかる「バトーさんはサイボーグだけど、一部は生身が残っていたはず……一方で、全身義体である少佐は、記憶が簡単に塗り替えられてしまったゴミ清掃業者の事件を見て、『私は本当に私なんだろうか?』という疑問を抱く。で、危険な夜間ダイビングに興じたりする。全身義体は重いから単独で海にダイビングするのはすごく危ないらしんだけど、あえて死ぬかもしれない恐怖を感じることで、少佐は『生きている実感』を得るためにそんなことをしてたんだよね」

ウバ「はえー。そういうことだったんだ。なんか少佐が色々悩んでそうってことはわかってたけど、そこまで考えたことはなかったな」

ひかる「これは僕の一意見だけどね……で、えーと、何の話だったけな……そうだ、『イノセンス』の解説だった……3つ目のテーマの話だ」

ウバ「人間と人形の違いだよね」

ひかる「そうそう。ハラウェイ博士の話を聞いて、トグサくんは『このおばさん何言ってんだ』って顔をしてるけど、バトーさんは静かに耳を傾けていた。ひょっとしたらバトーさんは、『この博士の言う通り、人形と人間に違いはないのかも』って思ってた可能性がある」

ウバ「えー、なんで?」

ひかる「1つ目は、バトーさんがある意味、人形でもあるってこと。全身義体ではないけど、トグサくんと違ってサイボーグだし、生身が少ないからこそ、博士の言葉に真実味を感じたのかもしれない。前作で少佐の件もあったしね。あとは、バトーさんが映画冒頭で破壊したハダリの一件が関係しているかもしれない。ただの愛玩ロボットであるはずのハダリが、バトーさんに壊される直前、『助けて』と言った。これがバトーさんのアタマに残っていた可能性がある」

ウバ「うーん。ロボットにゴーストが宿った、ってバトーさんが考えたかもしれないってこと? 実際は拉致された女の子が遠隔で操作してたんだよね」

ひかる「もしただのロボットにアイデンティティが宿ったのだとしたら、そのロボットは人間と言えるのだろうか?」

ウバ「いやロボットは体が機械だけど、人間は機械じゃないじゃん」

ひかる「その理屈でいくと、少佐は全身義体だから、体はすべて機械だよね。つまり少佐はロボットと言えてしまう」

ウバ「あ……」

ひかる「ていうことを、バトーさんは諸々考えていたんじゃないかなー、って僕は思うよ。俺も全身サイボーグで人形みたいだし、少佐も似たようなことで悩んでたな……とか、ひょっとしたら俺が壊してしまったあのロボットも、魂が宿った人間らしきものだったんじゃないか、とか……ただ、実際のところは、バトーさんが何を考えていたのかはよくわかんないな。で、こういう感じのテーマを、映画を通していろんな人が語るわけ。キムっていう、竹中直人が声優やってた天才ハッカーもこんなことを言ってる」

生死去来 棚頭傀儡 一線断時 落落磊磊

キムの遺言

ウバ「あー、これね。どういう意味なの? わたしわからなかったけど」

ひかる「要約すると、人間って死ぬと、糸の切れた人形みたいになるよね、的な感じだね」

ウバ「はえー」

ひかる「これも、人間と人形に違いなんてないよね、っていうことを言ってる。で、ここまで長々と語ってきて何が言いたいのかって言うと、この攻殻機動隊の世界においては、アイデンティティを担保するものが揺らいでいて、もはや人形と人間の境目すら薄いものになっているってこと。いずれこの境は完全に消えてしまうかもしれない。いや人形どころか、我々は隣にいる人との境目すら失ってしまうかもしれない。人種や国籍、社会的な背景すらも失われるかもしれない。でも今はまだその過渡期である……ってことを言いたかったのが、『ゴースト・イン・ザ・シェル』の冒頭の一文ね。もうう一度引用するよ」

企業のネットが星を被い
電子や光が駆け巡っても
国家や民族が消えてなくなるほど
情報化されていない近未来――

ウバ「あー、なるほど。情報化が進んでいくと、人はアイデンティティを失っちゃうかもね、ってことね」

ひかる「めちゃくちゃ平たく言うとね」

ウバ「でもなんかそれって寂しいね」

ひかる「うん。で、この『イノセンス』では、人形と人間に違いはないかもしれないね、ってことを言ってるんだけど、同時に『違いがあるとすれば、それは心だよね』とも言ってる」

ウバ「なにそれ、なんか熱いね」

ひかる「バトーさんが言ってたでしょ。『囁くんだよ、俺のゴーストが』と。あと少佐っていう守護天使がついているとも。つまり愛する人が俺のそばで守ってくれてるんだよってことだよね。少佐の愛を感じているってこと。『ゴースト・イン・ザ・シェル』も『イノセンス』も、ゴーストという曖昧でとらえどころのないアイデンティティが、一見頼りなさげに存在しているけど、それは確かに自分という人間を形作る大切な要素なんだよ。で、『イノセンス』では、孤独だったバトーが少佐の存在を心で感じ取って勇気づけられたわけ。彼は草薙素子という愛する人を失ってアイデンティティが揺らいでいたけど、今作でその揺らぎが解消されたってこと。だから2つ目のテーマでもある『バトーの孤独』も克服された」

ウバ「あー、なるほど、ようやく少しわかったかも」

ひかる「でしょ? 解説を聞くとちょっとはおもいしろいなって思わない? で、映画の最後、ハダリ暴走事件も解決して、少佐の存在も身近に感じ、一仕事終えたぜーとトグサくんのおうちに行ったら、トグサくんの娘がフランス人形を抱えているのを見て、バトーさんはぎょっとしてしまった。『もう人形はこりごりだよ〜!』ってな感じね」

ウバ「なにそれそんな昭和なアニメみたいなw」

ひかる「まあ、重たいテーマだったし、終わり方はこんな感じでいいんじゃないかな。でさ、人形と人間に違いなんてないよね、といいつつ、そのテーマに真っ向から挑んでいる大きな存在がいるんだ」

ウバ「え、そんなのいたっけ?」

ひかる「バトーさんの飼ってた犬だよ。この犬は、ちょっとうろ覚えだけど最初の映画構想段階ではいなかったらしい。ごめん確証はないけど……。で、この犬の愛らしさだけは作品の中でも場違いに際立ってるんだ。まるで『うるせー、犬がカワイイんだからどうだっていいだろ!』と言わんばかりにね」

ウバ「それはあなたが犬好きだからでしょw」

ひかる「まあそうなんだけど……僕には、このワンちゃんの存在が、制作陣が示すある種の答えだと思えてならないよ……『あなたはこのワンちゃんをカワイイと思いましたよね? ということは、あなたにはゴーストが宿っているということです』みたいな」

ウバ「うーん、一気に解説が主観になったなぁ……」

ひかる「と、長々と語ってしまいましたが……もっと『イノセンス』について語りたいことはあるんだけど、終わらなくなってしまうのでこれくらいに……小難しいことを書いていますけど、そんなことは抜きにして、映像はキレイだし、銃撃戦は楽しいし、何よりバトーさんがかっこいい!のでみなさんぜひ見てください!!!!」

ウバ「わたしももう一回見ようかなー」

ひかる「ぜひ! ということで今回はこれにて終わりです。ばいばい!」

うば「ばいばい!

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