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手作りキンパに想うこと

広島の独演会に毎回来てくれるご夫婦がいる。

独演会終わりで声をかけてきてくれた。中年男性の彼は学校の先生をやってるらしく「ぜひうちの学園祭で独演会をやってほしい」と言われた。正直、僕は高校生が好きではない。

どうせおれの独演会なんか口をぽかんと空けて「何意味のわからないことを言ってんだこのじじい」的な感じで見られそうだし、いまもたまに街中でチャリンコに乗った高校生たちに「村本ー!」「ウーマンラッシュアワー!」というバカ丸出しのヤジを飛ばしてくるから「高校生は全員こんなやつだ」と思い込んでしまってて、ライトな漫才をしにいくならいいけど、社会の問題なんかを笑いを交え叫ぶような僕の独演会で笑えるような高校生はいないだろうと思ってたからだ。

しかし、そのご夫婦は独演会に来るたびに毎回「学園祭で独演会をー」と言ってこられるものだから、こんなに時間とお金を使って来てくれるなら一回ぐらい、まぁいっかと彼の学校の学園祭に出ることにした。

東京から広島に行き学校に着くとそこの生徒たちはチマチョゴリを着ていた。

先生に理由を聞くと「ここは通信制の学校でここの生徒たちは朝鮮学校とこの学校、両方で勉強しているんです」と。朝鮮学校が無償化されてないので高校卒業の資格をとれない、でも親のルーツのことも勉強したい、親が出た学校をでたい、と彼らは朝鮮学校と通信制の学校両方で勉強してると言っていた。朝鮮学校はほかの公立学校と違い、無償化されてないので彼らの親は昼夜働き、高い朝鮮学校の授業料と通信制の学校の授業料を払ってる。だから少しでも親を楽させたくて、高校生たちは朝鮮学校の無償化を街頭で訴えてると言っていた。

この日本には個人で見ずに「朝鮮」というだけで子供にも汚く幼稚な言葉を浴びせる人たちもいるみたいで、彼らが街頭で呼びかけをしているところに街宣車が現れ、彼らに汚い言葉で暴言を投げかける。しかし彼らは負けずに街ゆく人たちに声をかけ、ビラを配ったり一生懸命、朝鮮学校の無償化を訴えている。

独演会終わりでみんなで写真を撮ったんだけど、本当に生徒は男子女子ともにすごく可愛らしくて誠実で純粋で、彼らに暴言を浴びせる日本人、そして彼らをスルーする日本人がいるという現実を知ってしまい、少しでも僕も応援したいとツイッターで「朝鮮学校に行って来た、無償化のビラ配ってるので、もし出会ったら受け取ってあげてください」と、写真付きで投稿した。

するとネットで激しい誹謗中傷が彼ら高校生に向かって飛んできた。後日、その中の一人があまりにもショッキングな誹謗中傷にすごく傷ついてると先生から連絡があった。とりあえず彼女たちの写真は削除した。後日、その学生から連絡があり「私たちに関わってくれてありがとうございます、村本さんにも迷惑をかけるかもしれないので、無理はしないでください、私たちに関わってくれてありがとうございます」と言われた。自分たちのことより相手を気にかける高校生になぜ彼らはこんなに優しいんだろう、と考えたがそれはおそらく痛みを知ってるからなんだと思った。

高校生なのに街灯で自分たちの主張を訴えて街宣車に罵られながら一生懸命、国とこの国の空気に訴える姿勢、ずっと無関心だった僕は少し恥ずかしくなり、おれは何やってんだろうと去年の年末の漫才にほんの少しだけだが彼らのことをネタな組み込んだ。

するとオンエア終わり信じられないぐらいのメッセージが届いた。ゴールデン、しかも、お笑いで、漫才で「朝鮮学校の無償化」と言う言葉が入ってることが衝撃的だったらしく「家族でテレビを見ていたら、急におじいさんが泣いた、それを見てお父さんが泣いて、私が泣いた」というメッセージがあった。

おじいさんの苦労を知るお父さん、お父さんの苦労を知る娘。その前の年には沖縄の辺野古を漫才にいてたら同じような反響があった、ゴールデンの番組で漫才で、辺野古、高江というワードが出てくることに驚いたと。原発のネタをやるときもだ。

僕は数年前からアメリカのお笑いのネタをよく見ているけどそんな社会の問題や言葉は当たり前に出てくるのにこの国では出てこない。なんならそう言った言葉を出すだけで「笑いから逃げてる」という人たちもいる。 コメンテーターとして、ニュース番組にでて、専門家に任せて、あとは、やんわり核心をそらす芸人たちこそ笑いから逃げてるようにみえる。それはただのテレビ村で生き延びたい人たちの家畜忖度根性を正当化しているだけにみえる。

そして最近、朝鮮学校に行く機会があった。大阪で独演会をやるときに、きてくれる女性が大阪にある朝鮮学校のお母さんの会の人だった。

彼女は僕を捕まえ「ザマンザイをみまして、ぜひ、村本さんに、うちの朝鮮学校で独演会をやってほしい、子供達が元気ないので元気つけてほしい!!」と凄まじいマシンガントークでまくし立てて来た。 彼女のパワーに圧倒され街宣車に煽られる高校生たちの気持ちが少しわかった気がした。笑

しかし広島の先生とは何度も話していて関係性もあったので協力はしたいと思ったけど、その朝鮮学校のお母さんとは面識もほぼないから少し迷った。しかしあまりにも何度も独演会にきては、来てほしい!と一生懸命に言ってこられるので、マネージャーに話をつないだ。しかし朝鮮学校はお金がない。吉本の提示する学園祭の料金を払うことが難しい。そこで僕は提案した。無料でやらせてくれと。しかし条件があって無料でやる代わりに好きな話をさせてくれと。

好きな話とは日本人の僕が見て来た「在日朝鮮韓国人」の話だ。例えば僕は高校を辞めて植木屋でバイトをしてたときに、焼肉屋の駐車場の植木の仕事をやった、そこの娘さんと友達になった、その話を違う会社の人に話したら「朝鮮人やぞ、話すな!」と怒られた。大阪のカラオケでバイトをしてた時は、「新人のバイトの金本くん、あれ在日やで、言ったらあかんで」と言われた。なぜ言ったらダメなのかわからなかった。

芸能人でも日本名、通名に名前を変えてる人もいると聞いた。チマチョゴリをきて電車に乗ると誰かにハサミで切られるという話も聞いた。日本に住む外国人は、みんな在日なのに、なぜか朝鮮の人を呼ぶときだけ、在日と呼ぶ空気にも疑問を持った。

在日朝鮮人は日本では国籍が韓国なので日本人として認められず韓国でも言葉を話せないので韓国人として認められないと聞いた。自分たちは何者なのか、を考えている。たとえば熊が山から降りてくるのは人が山を開拓したせいで熊は山の食べ物がなくなり里に降りてくる。 しかしニュースではその前提の理由は話されず「熊が里に降りて来た」しか話されない。

そんな話をしたかった。

とにかく僕が見て来た様々な「彼らの話」を話させてくれるなら本気で話せるなら無料でやると言った。

それでオッケーをもらい、当日、なんばグランド花月の裏口に朝鮮学校の子供達のお母さんが車で迎えに来てくれていて僕は彼らに連れられて大阪の朝鮮学校に向かった。

その中で朝鮮学校のいろんな話を聞いた。

チマチョゴリをきて街を歩くと今の日本では罵声を浴びせるかもしれない人たちがいて危険なのでみんな学校まで私服で来て来てからチマチョゴリに着替えると言っていた。

前に日本の18歳以下の野球の代表チームが韓国に行くときに、空港で日の丸を隠して入国したと聞いた。それに対して彼らはバッシングを浴びてたけど、一番日の丸をつけたかったのは選手たちだろう。

いつでも大人たちの幼稚な喧嘩に巻き込まれるのは彼ら子供達だ。

お母さんたちは手作りのキンパという韓国の巻き寿司をお弁当に持って来てくれた。だいたいこんなときは店で買ったお弁当でも用意してくれるんだけど、人の手作りたべれない派の僕は最初、まじか、、と思ったけどたべてみたらめっちゃおいしかった。

僕らは朝鮮学校についた。お母さん達に「子供達にはサプライズなのでバレないように楽屋まで行きます」と言われた。 これが芸人にとって一番辛い。笑

おれが毎日テレビにでてる芸人ならまだしもここ何年もテレビに出てないやつのサプライズはこけた時の全ての恥ずかしさは僕にのしかかる。 しかも楽屋に向かう途中、風邪で早退する学生とすれ違った、お母さんたちはおれを必死で隠そうとしたけど、彼に見つかってしまった。彼は素でペコっと会釈だけして帰っていった。「おかあさん!見ましたか!!あのリアクション!絶対、サプライズ変な空気になりますって!」とビビりまくったが、お母さんたちは絶対に大丈夫です、と謎の自信で僕を舞台に送り込んだ。

体育館に集められた子供達は僕を見てすごい歓声があがった。あとで聞いたらテレビで漫才に朝鮮学校無償化にふれたことですごく学生たちの間で話題になったらしい。中学生高校生たちがキラキラした目で僕を見ていた。僕は怖くなった。なぜなら、このまだ幼い彼らにショッキングな話をしないといけないからだ。勇気が揺らいだ。

葛藤した。知らなくていいことを言って傷つける必要はあるんだろうか、もしかしたら、それはあくまでも僕が見て来た人たちであって彼らは素晴らしい日本人に出会うかもしれない、わざわざそんな先入観が入るようなことを言わなくてもいいのではと。

しかしただお笑いをやるならおれじゃなくてもいい。おれは彼らに知ってほしい、この国の現実をと。

途中、何度も話が止まった。

静まり返っては笑いをとり、笑いをとって小休憩したらまた突きつける。その中で僕は言った。

ルーツがあることは素晴らしいことだ。ルーツに迷い困惑し自分が何者かを悩むことは素晴らしいことだと。アメリカのコメディアンは自分のルーツを学び、発言する。黒人白人メキシコ人などなど、なぜここにいるのか、と。自分は何者か、と。そこから気付きが沢山ある。例えば黒人なら、アメリカという国に奴隷として連れてこられた黒人、その中でまだまだ白人との格差が目立つ。彼らのそのルーツから学び、人としての尊厳を主張する笑い、ジャズも、ヒップホップも、表現は彼らの権利の主張だ。だから僕は朝鮮学校の彼らにもルーツに真摯に向き合いそして権利を勝ち取ってほしかった。なぜここにきたのか、独演会をしながら頭の中で何回も僕は僕に聞いた。僕は味方だよ、と言いたかった。僕はよくどうして日本人なのに朝鮮学校にそこまで関心を持ってくれるんですか?と言われる。僕は高校も中退していて、たまたま芸人としてお笑い生活できている。もし笑いがなかったら、おれの人生はなかった。可愛い女の子とデートできるのも高い家賃のマンションに住めるのも笑いで自分が幸せになる権利を勝ち取って来たと自信を持っている。だから彼らも打ちのめされることも、無力で涙を流すことも、全て未来への大事な経験として幸せを勝ち取ってほしい。しかし主張すること、怒りに取り憑かれて恋することや友達との時間を大切に忘れないでほしい、と。特に彼らのような色んな景色を見て来た人たちは格段に強く優しくなれる。それを伝えたかった。終わりで学生たちが教室のベランダに集合して手を振ってくれた。難しい話、ショックな話をしたけど最後までいい顔で聞いてくれた。

伝わってほしいことを心で感じてくれた。そして僕が今回の朝鮮学校訪問で一番、素敵だなと思ったのは翌日、50枚近い昨日の写真が彼らのお母さんから送られて来た。

その写真はほぼ全て僕ではなく子供達の笑顔の写真だった。このつながりの薄くなって来てる時代に強いつながりと結びつきを見た。

社会がすごく緊張状態にあるからそれから自分たちを守るために強く一体化する。彼らをルーツだけで批判する人たちに言いたい、あなたは、彼らのようにあなたの笑顔を見たい一心で必死に行動しあなたの笑顔を守るために走り回り、あなたの笑顔を自分の幸せのように写真に撮ってくれるような人がいますか、と。

僕はお母さんたちの手作りのキンパからすごく温かいものを感じさせてもらった。

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